装置のランプが点灯して記憶の移送が完了した。
キヨミはその場で呆然と立ち尽くしている。
アサミが思わず駆け寄ろうとすると、殺美が手を上げてそれを制止した。
キヨミはトコトコと窓に歩み寄る。
殺美が窓を開くと、キヨミは天に向かって昇っていく。
まるで小鳥の巣立ちの瞬間のようだった。
やがてキヨミの姿は夜空の中に見えなくなる。
清四もアサミもずっと無言のまま見送った。
「あの子は無事昇天しました、オウムの方は私が責任を持って親元へ返しておきます」
オウムのカゴを持ちながら殺美が立ち上がった。
「今回は助かりました。卵からかえった彼女の面倒を見てくれる人を探していたのです」
「ちょっと待った!じゃあ、アンタ最初からそのつもりで?」
「オーッホッホッホッホッホッホ……」
やはり「ないとめ屋」に関わるとロクな事がない。
それにしても、殺美の本職はいったい何なのだろう?
鳥かごを持って去っていく彼女の姿を見ながら清四は思う。
すると何かを思い出したように殺美が振り返った。
「記憶移送装置はアルバイト代がわりに置いていきます。有効にお使いください」
「いらねぇよ、あんなモン!」
しかし清四が部屋へ戻ると、アサミが記憶移送装置の取り扱い説明書を見つめていた。
彼女はドイツ語も読めるらしい。
「この装置、意中の人に自分の事が好きだと言う記憶を植え付ける事もできるそうです」
そう言って笑顔を見せたアサミは、明らかに何かを企んでいる。
「で、でも……別に、そんな機械を使わなくても……」
ボソボソと呟く清四の言葉は、真剣に説明書を読んでいるアサミの耳には入らなかった。
その晩、清四は開かずの間で忌野淵男と将棋を指していた。
「爺ちゃん、自分が父親になった時の事って覚えてる?」
「何だ?やぶからぼうに」
「いや、どんな気持ちだったのかなと思ってさ」
「そうだなぁ……」
淵男はしばし遠い目をして考えた。
幽子が産まれたときの事を思い出しているのだろう。
「よく、分からん」
清四は笑った。
今回は淵男の「分からん」も何となく理解できる。
その後……殺美が置いていった記憶移送装置は、治虫の書斎に置かれていた。
治虫は時々、自分に「霊体験をした」と言う記憶を植え込んでは自己満足に浸っている。
そして例のオウムは無事に親鳥の元へ返された。
しかし、誰も教えていないのに夜な夜な「ノロウワヨ〜」と連呼するので、飼い主は困っていると言う…… |