開局35周年記念事業 特別講座
「テレビが視聴者に与える身体的、社会的影響について」

 テレビ東京は、開局35周年記念事業の一環として、慶応大学と上智大学に講座を寄付することになりました。テーマは「テレビが視聴者に与える身体的、社会的影響」についてです。

講座概要
[上智大学] ジャーナリズム特殊T
         「映像メディアの影響力とメディア事業のありかた」
[慶応大学] 特殊研究
         「メディア効果の諸相〜テレビの身体・心理的影響」

「映像メディアの影響力とメディア事業のあり方」4月28日 上智大学にて

 1997年にテレビ東京で起きた「ポケットモンスター問題」と、再発防止のために作られた「アニメ番組の映像効果に関する製作ガイドライン」についてご説明します。

<ポケモン問題とは>
 1997年12月16日、テレビ東京系列で放送した「ポケットモンスター」を見て、全国で700人以上の人が発作を起こし救急車で運ばれる事態となりました。ちなみに、700人という数字は救急車で運ばれた人数ですので、自家用車で病院に行った人や自宅で気分が悪くなった人は含まれていません。ですから、実際にどのくらいの人が影響を受けたかは定かではありません。これが「ポケモン問題」の始まりです。
参考までに、この日の視聴率は16.5%。これは、全国で414万世帯・1200万人が視聴し、そのうちポケモンの対象年齢である4〜12歳の子供は約345万人が見ていたと推定されます。ちなみに関東エリアでは245万世帯・730万人、そのうち4〜12歳は165万人が見ていたと推定されています。

<テレビは何故見える?>
 この問題をより理解していただくために、まずはテレビの仕組みについて説明します。
●色と画面の再現
テレビ画面上では、全ての色はRGB(Red・Green・Blue=色の三原則)から構成されます。そしてRGBの点の発光が高速に動いて“線”に見え、さらにその線が525本一画面上に集まって画面全体の映像をつくっています。
●画面の切り替え
テレビの画面は1秒間が30フレーム(30コマ)で出来ています。さらにこの1フレームは2枚の映像(フィールド)から出来ています。先ほど説明した“線”は走査線といい、走査線は1画面(フレーム)に525本あります。しかし、それが一度に画面に現われるのではなく、1本おき現われる仕組みになっています。結果的には1秒間60フィールド(30フレーム×2フィールド)で出来ていると言うことで、言い換えると、(日本の)テレビは1秒間に60回点滅しているということになります。ちなみに映画のフィルムは1秒間に24コマです。

 まずは、ポケモン問題の原因は何だったのかを先に説明した上で、その原因にさかのぼりたいと思います。
<ポケモン問題とは?>
これは『光感受性反応』という人間の“体質”によるものです。『光感受性反応』とは、目から入る光刺激に“過敏”な体質のことです。人は光刺激に耐えうる“耐性”を持っています。普通の人は耐性が高いのである程度の光を見ても大丈夫ですが、中には耐性が低い人がいて、ある種の光を見ると脳が興奮して発作を起こして倒れてしまいます。この“体質”は、アルコールに置き換えるとわかりやすく説明できます。お酒をコップ1杯しか飲めない人やボトル何本でも飲める人がいますが、それはそれぞれの人のアルコールの耐性の差によるものです。アルコールを光りに置き換えれば、お酒が飲めない人に無理矢理お酒を飲ませて人が倒れてしまったのが、ポケモン問題です。

さて、当事者としてポケモン問題を検証するにあたり、イギリスですでに先例があり、ガイドラインもあるということを知りました。
<イギリスでの先例>
 1993年、イギリスでポットヌードル(日本のカップ麺の類)のCMを見て3人が発作を起こしました。事件後、ITC(独立テレビジョン委員会)という機関がガイドラインを作成しました。国立アストン大学のグラハム・ハーディング教授が調査・協力に当たることになりました。

<イギリスでわかったこと>
 ハーディング教授は実際に光感受性反応の因子を持った人を使ってテストを行いました。
 グラフの横軸は光の点滅を表し、60とは1秒間に60回点滅したということです。 縦軸は脳波の異常が出た割合です。前述したように、テレビは1秒間に60回点滅します。つまり、テレビそのものが点滅しているので、この因子を持った人には、すでに危険ということです。ですから、ガイドラインをつくってもリスクをゼロには出来ないのです。
 日本のNTSCと呼ばれる方式のテレビの点滅回数では、因子を持った人の15%に脳波の異常が表れます。
しかし、脳波の異常が出ると必ず倒れるというわけではありません。“耐性”があるからです。ですが光を浴び続けると倒れてしまいます。
イギリスのテレビは日本のテレビとは方式が違い、1秒間に50回点滅します。50回ですと脳波に異常をきたす人の割合が49%にはね上がります。イギリスのテレビの方が危険度が高いので、ヨーロッパではこうした問題が今まで起き、日本やアメリカでは起きてこなかったとも考えられます(日本とアメリカは同じ方式のテレビ)。
 ポケモンはビデオテープで放送しましたが、もとは16ミリフィルムで作られています。フィルムは1秒間に24コマです。この24コマが1コマずつ赤と青に入れ替わっていました。つまり1秒間に赤と青が各12枚、12回の変化があったということで、これは12ヘルツの点滅があったということと同じです。グラフを見ると、12ヘルツに対する脳波の異常はすごく高く、因子を持つ人の78%に脳波の異状が出ています。この辺りが最も危険な周波数と言われています。


<ガイドラインが目指すもの>
 テレビで表現可能な点滅周波数で比較的安全な領域は、1秒間に3ヘルツだと因子を持つ人の3%に脳波の異常、4ヘルツだと4%、5ヘルツだと11%です。この辺が比較的安全(リスクが少ない)だろうということになりました。
 では実際にどのくらいの人が発作を起こすのか?イギリスの貿易産業省がゲームてんかんの時に調査した結果によりますと、全国民で10万人で1.1人が実際に倒れています。これを7〜19歳に限ると、10万人に5.7人と、5倍になります。若い人ほど光感受性反応を起こしやすいということです。テレビ自体が点滅する媒体ですからリスクがゼロにはなりませんが、この10万人に1.1人の人が倒れなければ良いわけです。

 10万人分の1.1人×3%(1秒間に3回の点滅) 計算すると300万分の1になります。

 1秒間に3回以内の光の点滅であれば300万人に1人のリスクの確率になります。300万人に1人のためにテレビ放送全体を止めるわけにはいきません。だから放送を行う立場としては、そのくらいのリスクにとどめようというのがガイドラインです。
 光の点滅以外にも、急激なカットチェンジも点滅と同じ効果があるので1秒間に3回以内となっています。また、光に過敏な人は縞模様、同心円、スパイラルといったパターンに過敏でもあります。光の点滅は1秒間に3回以内と規定できますが、パターンは、その人がテレビを見る環境、例えばテレビの大きさやテレビとの距離によって見え方が違ってきますので規定するのが難しいのです。ですからガイドラインでは、「パターンを多用することは止めましょう」としています。
 この他、イギリスでは解らなかったけれど、ポケモン問題で初めて解ったことがあります。それは、「赤色の危険性」です。ポケモンの問題シーンで赤色が使われていましたが、この「赤」が危険だったのです。テレビの赤は人間の目に刺激的な色なのです。「赤」が目の細胞を経由して脳を興奮させ、発作の引き金となったのです。そして刺激的な赤い色が12回点滅したので、ポケモンを見た子供たちが倒れてしまいました。赤い色の使用は危険、その赤の点滅なんて以ての外、というのがガイドラインの主な内容です。イギリスでもポケモン問題を教訓に、この「赤」に関してガイドラインを作り直すという話が出ています。

<テレビ東京のガイドライン>
(1)3分の1秒=フィルムでは8コマ、テレビフレームでは10フレーム以内で1回を越える光の点滅は避けるべきである。
・・・先ほどから1秒に3回と説明していますが、これをテレビ東京では3分の1秒に1回と置き換えて表現しています。
どういうことかというと、同じ1秒間に3回でも、この図のように短い周期で点滅した場合は、1秒間に3回を越える点滅と同様になってしまう危険性があるからです。


(2)急激なカットチェンジや急速に変化する映像も光の点滅と同様の影響を与えるので3分の1秒に1回を越える使用は避けるべきである。
(3)赤い色を使った点滅やカットチェンジも危険である。但し、赤を除く色の組み合わせでそれが同じ輝度(明るさ)であれば問題ない。

  ・・・要は、白と黒(明るさが極端に異なる)の切り替えではなく、
     色をつけて2色の明るさを同じくらいにしてしまえば
     (例えば黄色と緑色の組み合わせ)、その点滅の危険性は低くなる
     ということです。その場合でも赤は避けなければいけません。
(4)輝度差のある規則的なパターン縞模様、渦巻き、ダーツボード等は原則として避けるべきである。

<なぜ赤青の点滅映像が作られたか>
 アニメはフィルムで作ります。フィルムは1秒間に24コマなので、アニメーターは1秒間放送するのに最低24枚のセル画を描かないといけません。ところが、日本のアニメ番組は毎週放送していますので、全てを描いていると放送に間に合わなくなってしまいます。そこで、なるべく描くセル画の枚数を減らして、同じ効果を生む技法が生み出されました。
ミサイルを描く、背景に青いフィルターを入れて写真を撮る、今度は背景のフィルターだけ赤いフィルターのものに変えて写真を撮る。背景だけ入れ換えことで、セル画に描いた枚数が少なくても、見た目は同じ効果が生まれるわけです。これが日本のアニメの特徴の一つです。
ポケモンの場合は赤と青のフィルターを1秒間に12回入れ換えてシーンを作りました。1コマずつフィルターを入れ換えることで 、12ヘルツという一番危険な点滅が生じ、なおかつ“赤”、そしてポケモンの視聴者層は光感感受性の発作を起こしやすい低年齢です。もっとも発作を起こしやすい年齢層に、もっとも発作を起こしやすい映像を見せてしまった、なおかつ人気番組で子供が目を離せなかった。全ての環境が整い、起こるべくして起こったのが「ポケモン問題」なのです。

<視聴者の皆さんにお願いしたいこと>
 テレビ局のガイドラインの他に、視聴者にも守ってほしいことがあります。それは、「テレビから“はなれて”“あかるい”へやでみましょう」ということです。テレビ東京では、アニメを放送するときに、このことを画面上に告知をしています。
“はなれて”・・・近づいて見ると視野の中にテレビ画面が全部入ってしまい、
         テレビからの光刺激が全部目に入ってしまいます。
         離れて見れば、視野の中にテレビ以外の光も入るから
         比較的安全になります。
“部屋を明るくする”・・・部屋を明るくすれば、壁の反射光なども
             目に入って瞳孔が収縮しますから、
             目の色を感じる部分に入る光が比較的弱まります。

 テレビ局がガイドラインを守り、視聴者の皆さんが正しいテレビの見方をすれば、ポケモン問題のようなことは今後起きないでしょう。

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