本州最南端の町・串本は、細く曲がりくねった道が入り組む漁師町。
その道の果てにある無量寺に、江戸時代半ばの天明6年(1786年)、京の都から一人の絵師、長澤盧雪がやって来ました。
京画壇の巨匠、円山應擧の名代として来た彼は、ある襖絵を残しました。それは無量寺の別院、應擧盧雪館に収められています。
長澤盧雪・作『虎図』。襖6枚からなる、日本で最も大きな虎の絵と言われる襖絵。
躍動する長い尻尾、太くしなやかな後ろ足、地面を掴む柔らかな足には鋭い爪。その肩の盛り上がりは、今まさに獲物に飛び掛ろうと力を蓄えているかのようです。しかし、よく見ると、長すぎる尻尾、後ろ足に比べて貧弱で短い胴、そして顔より大きな前足と、一つ一つはバラバラ。しかも獰猛で勇壮なはずの顔は、まるで猫のようです。それでも全体では絶妙なバランスを保ち、躍動感に溢れています。
盧雪を始め、与謝蕪村、伊藤若冲、曽我蕭白などの天才たちが同時代に生きていた京の町で、その頂点に君臨していた円山應擧。「生を写し、気を描く」を神髄とした應擧は、あらゆる絵画の伝統を統合し、斬新な眼差しで日本画の新しいスタンダードを確立した京画壇の巨匠。その應擧の弟子として活躍し、時に應擧を凌ぐほどの恐るべき腕前を持つ、異能の絵師・長澤盧雪。いたずら好きで多芸多趣味、酒好きで、3回の破門を経験しています。

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