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2005年6月11日 放送

 
 

画像レマン湖のほとりに建てられた白い長方形の家。『小さな家』と呼ばれるこの住居は1923年、ル・コルビュジエが設計したもの。

画像長さ15メートル×幅4メートル、日本風に言えばわずか18坪の『小さな家』は、最小限住宅というテーマを突き詰めたコルビュジエの傑作です。

画像玄関の右側が台所とユーティリティー、左側がリビング。ベッドルームの隣には洗面所とバスルーム。それぞれの空間を最小限に切り詰め、連続して組み合わせます。

画像そして家の側面を貫く11メートルもの横長のリボンウインドー。レマン湖とアルプスの山々の見事な景色が、『小さな家』に無限の奥行きを与えています。コルビュジエが愛する両親の終の棲家として設計した特別な作品です。

画像コルビュジエは20世紀の建築を大きく変えました。「住宅は、住むための機械である」という思想、直線と直角のフォルム。設計の際には独自の美の基準、モジュロールという寸法体系を用いました。これは人間の体型、プロポーションから家の寸法を決めるものです。

画像また、1929年にコルビュジエが手掛けた『サヴォア邸』は、彼が唱えた近代建築5原則の結晶です。

画像すなわち建物を支え巨大な空間を作り出すピロティの存在。鉄筋コンクリートが生み出す、柱に縛られない自由な空間構成。光をたっぷりと取り入れる水平連続窓。土を盛り緑を育む断熱性に優れた屋上庭園。そして自由な建物の表情、ファサードのデザインの5原則。この1軒から、モダン建築は世界へと羽ばたいていきました。




画像ル・コルビュジエという名前は職業名、本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ。彼は1887年、フランスとの国境に近いスイスの山間の町ラ・ショー・ド・フォンで生まれました。

画像父ジョルジュは時計の文字盤のエナメル職人、母マリー・シャルロットはピアノ教師。美術学校に入学し、時計の彫金職人を目指していた彼は、恩師の勧めで建築を学び始めます。

画像建築家としてのデビューは、弱冠17歳で手掛けた地元の裕福な宝石商の家。コルビュジエはアカデミックな建築教育を受けたことはありません。若い頃から設計事務所で働き、現場で学び、ヨーロッパ中を旅して歴史的建築を見て周り、体で仕事を覚えていきました。

画像30歳の時に、彼はパリに拠点を構えて本格的に活動を開始します。鉄筋コンクリートと柱で建物の構造を支えるドミノシステムを考案したコルビュジエは、次々と新しい構想を提案しました。工場で大量生産が可能な『シトロアン住宅』という国民ハウスの構想。300万人都市計画という高層住宅の構想。コルビュジエはアバンギャルドな建築家として一躍注目を浴びます。

画像しかし当時のフランス建築界はアカデミー出身のエリート一派の牙城、コルビュジエは異端児扱いでした。伝統的な装飾に彩られた重厚で荘重な建築が美の基準だった時代、直線と直角の白い箱のようなコルビュジエの建築は攻撃の的になってしまいます。




画像コルビュジエが最初に夢と理想を実現させたのが36歳で設計した『小さな家』。年老いた両親に、温暖なレマン湖畔の家をプレゼントしようと考えたのです。明るさと暗がり、狭さと広がり、複雑さと単純さ、相反するリズムが小さな家の中に様々なシーンを作り出します。

画像第2次世界大戦後、コルビュジエは怒涛の勢いで革新的な建築を発表していきます。彼は生涯に膨大な住宅や公共建築を手掛けました。しかし自分の暮らす家にはあまり関心を抱かなかったといいます。

画像 ただ1つ、例外的に知恵と情熱を傾けた家がありました。それはモジュロールを厳密に使った、南仏カプ・マルタンの休暇小屋。1950年、63歳の時に建てた安価なプレハブ住宅で、ベニヤ張りの室内は3.66メートル×3.66メートル、ちょうど8畳間の広さ。彼自身がデザインした家具が備え付けられています。人間が住むことを追求し続けた建築家が辿り着いた家の形でした。

画像そして休暇小屋の傍らにある、わずか4畳半ほどの粗末ともいえる小さな作業小屋。ここから、世界の建築を変える構想が生まれていきました。

画像 例えばマルセイユ郊外のアパートメント『ユニテ・ダビタシオン』。L字型の箱を2つ組み合わせて1つのユニットを形成する革新的なアイディアの集合住宅です。『ロンシャン礼拝堂』はコルビュジエ芸術の最高傑作。白亜のフォルムの内部に、無数の窓から光が差し込みます。

画像無名時代に『小さな家』を両親にプレゼントしたコルビュジエは1965年、休暇小屋でその生涯を閉じます。「この休暇小屋の住み心地は最高だ。私は、きっとここで一生を終えることになるだろう」という言葉通りでした。

画像『小さな家』で、コルビュジエの母親は101歳で亡くなるまでの36年間を過ごしました。その寝室には、19歳のコルビュジエが母親のためにデザインした裁縫机が置かれます。

画像ル・コルビュジエが追い求めた、人間が住むために必要な空間と家。その最初の形が『小さな家』に凝縮されています。

 
   
ル・コルビュジエ「小さな家」

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