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2018.9.11

世界のエンタメ最前線:『聖なるゲーム』

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ゲーム、アニメ、漫画、J-POP、アイドルなど、独自のエンターテインメントを生んでいる日本。その一方で世界のエンターテインメント情報が不足していると見る向きも少なくない。ここでは、そうした世界のエンターテインメントの最新動向を、映画・音楽ジャーナリストとして活躍する宇野維正氏をナビゲーターに迎えお届けしたい。今回紹介するのは、Netflixオリジナル作品『聖なるゲーム』。本作から見えてくる世界のエンタメ最前線とは?


宇野維正
1970年生まれ。東京都出身。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集部を経て、映画・音楽ジャーナリストとして活動。著書に「1998年の宇多田ヒカル」(新潮社)、「くるりのこと」(新潮社)、「小沢健二の帰還」(岩波書店)がある。


映画とほぼ壁がなくなった海外ドラマに、注目しない理由なし


『聖なるゲーム』
配信中(https://www.netflix.com/title/80115328)


ポイント
1.「今の映像」を知るには海外ドラマは避けて通れない状況
2. 従来のインド映画のイメージを覆す、ボリウッドと別路線の作品
3.日本製作によるオリジナル作品はもっと世界を狙えるはず


──本作はNetflixオリジナル製作による海外ドラマですが、現在のカルチャーにおける海外ドラマとは?海外ドラマに今注目すべき理由とは?


役者においても監督をはじめとするスタッフにおいても、映画とドラマの間にほぼ壁がなくなってもう10年近く年月が経っています。「海外ドラマに今注目すべき理由」というよりも、むしろ映画の専門家は映画についてばかり書いたり語ったりしていて、海外ドラマの専門家は海外ドラマについてばかり書いたり語ったりしていることが、自分にとっては意味がわかりません。両方を見渡していないと、今、映像の世界で何が起こっているか正確にはわからないはずです。


ドラマでも映画でも、Netflixオリジナル作品と呼ばれる作品は大きく三通りに分けられます。一つは、Netflixが企画の段階から関与している、いわばNetflix製作作品。もう一つは、ドラマや映画の製作会社が作品の製作中もしくは完成後にNetflixに作品の初公開及び独占配信権を売った、いわばNetflix独占作品。最後に、他の地域では劇場やテレビで公開済でも、その国ではNetflixを通して初公開となる作品にも、Netflixオリジナル作品という表記がつくことがあります。そのあたり、ちょっと紛らわしいですよね。『聖なるゲーム』はそれでいうと最初の「Netflix製作作品」ということになりますね。


──そうした海外ドラマの中でも特に本作に注目すべき理由とは?


Amazon、Hulu(日本のHuluとは資本関係にありません)、HBO、FOX、AMCといった優れたドラマを製作している他のストリーミングサービスやケーブル局とNetflixの大きな違いは、英語圏以外の地域の作品の製作にも積極的なところです。『聖なるゲーム』はインド&アメリカ合作のNetflixの大きなプロジェクトとして、配信前から自分も含む世界中の映画・ドラマ系のジャーナリストから注目を集めてました。


同作がビッグ・バジェットのドラマシリーズとして実現した背景には、コロンビアとアメリカの合作『ナルコス』の成功があります。セリフの半分以上がスペイン語の『ナルコス』は、ヒスパニック系も多いアメリカ国内でも人気シリーズとなっていますが、それ以上に世界中で膨大な数のファンを獲得しています。『ナルコス』はコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルとそれを追うアメリカの麻薬捜査局の話ですが、『聖なるゲーム』は『ナルコス』のように実話ベースではないものの、やはりインドの裏社会と警察内部の争いや癒着を描いた作品です。世界中のドラマファンの間では「インド版『ナルコス』と言われれば見ないわけにはいかない」というムードが共有されていて、実際に7月に配信が開始されて以来、各国で大反響を巻き起こしてます。


インド映画=ダンスというイメージを破壊する、圧倒的クオリティー


──これまで映画界ではインド映画がたびたび注目されてきました。そうした作品と本作との違い、もしくは繋がりは?


ボリウッドという言葉もすっかり一般化しているように、インドがアメリカと並ぶ映画製作大国であること、そして、作品の上映時間の長さ、ダンス・パートの重要性、独自のストーリーテリング、音楽や衣装や美術のレベルの高さなど、その特徴は熱心な映画ファンの間では知られています。しかし、『聖なるゲーム』は出演者も含むスタッフやロケーションはほぼオール・インドの作品ですが、ボリウッドではなく、完全にハリウッドのスリラーやサスペンスのような流儀、テイストで作られています。


驚かされるのは、それがハリウッドの物真似というようなレベルではなく、控えめに言ってもハリウッドの一級作品と同水準か、それ以上のクオリティにあることです。さらに、これまで我々があまりフィクション作品では目にしたこなかったインドの都市の風景の美しさやダイナミズムや猥雑さ、コスチューム劇ではなく現代のリアリズム作品におけるインド人俳優の素の魅力に圧倒されます。


ボリウッドはボリウッドで素晴らしい文化ですが、その土着性やエキゾチシズムを排除して本気で世界を狙うと、こんなとんでもない傑作が作れてしまうということ。それを見せつけてくれるのがこの『聖なるゲーム』というドラマシリーズであり、それを可能にしたのが世界中に広がったNetflixの視聴環境なのです。


──Netflixオリジナル作品はこれまで日本でもいくつか製作されていますが、そうした作品はどのような出来栄えや評価を受けているのでしょうか?


『聖なるゲーム』のような作品を見せられてしまうと、監督や脚本や役者といった作品の看板を背負っているスタッフ以外、つまり撮影や編集や音楽などの部分での実力の差、美学の差、センスの差に絶望的な気持ちになってしまいます。逆に言うと、監督や脚本や役者では日本が劣っているとは思いません。ただ、日本の場合、特に(アニメではなく)実写作品は「まずなによりも国内の視聴者に向けてアピールして、ついでに世界からも見つけられればラッキー」みたいな考え方で臨んでいる作品が多いように思うんですよね。せっかくNetflixの視聴環境で作品を作るのだったら、もっと外向きにアピールするべきだと思います。世界のポップカルチャーを見渡してみると、ファッションやアートを中心に日本への関心は今なおとても強いです。それをふまえれば、日本発の映像作品の潜在的なニーズはもっともっとあるはずです。

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