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2018.7.7

日本を知る、地域を考える@愛知県豊橋市:人と人とのつながりが強まれば、可能性が広がっていく...新しい訪問美容サービス~後編

日本全体を活性化するための不可欠な要素、それが「地方創生」。2014年11月、第二次安部改造内閣発足の日に設置された「まち・ひと・しごと創生本部」は、東京圏への人口集中を是正し、地方の人口減少を食い止め、日本全体を活性化するために設置されたが、地方創生の真の主役はまさにいま、地方で様々な取り組みや事業を展開する"先駆者"や"成功者"だ。本企画では、「地方創生」の現場で活躍する人々に、各地域の魅力や問題点、そして将来の展望、地方創生の未来を聞く。


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「また今度」がないかもしれないという覚悟


今回お話をうかがったのは、愛知県豊橋市を拠点とする訪問美容サービス、『美右衛門(びえもん)』の代表、エリック・バリオスさん。日本人の父とボリビア人の母を持ち、日本語とスペイン語を生かせる仕事をしたいと美容師の道に進んだバリオスさんが、高齢者やからだの不自由な人などが施設や自宅で受けられる美容サービスを提供する『美右衛門』をスタートさせてから約1年4か月が経った。



前編では、「車椅子と美容師」を「人力車と車夫」に見立てたユニークなコンセプト、キャンセル料を受け取らないなどの徹底した利用者目線の経営姿勢について紹介した。
「利用者の思いに寄り添いたい」と真摯に語るバリオスさんが、『美右衛門』の仕事をしてきた中で経験した切ないエピソードを明かしてくれた。


「(訪問美容で訪れる)老人ホームにすごく仲がいい方がいて、とてもよくしていただいていたんですが、その方がある日、看護師さんに『そういえば最近、美右衛門さんに来てもらってないね、髪切りたいな』と話したそうです」


その人は体調を崩している最中で、看護師にはある種の予感があったようだが、容体が悪化して翌日に亡くなってしまったという。後日、看護師からそのことを聞いたバリオスさんは、「僕が看護師さんにあらかじめ、"もし危ないと感じることがあったら、予約していなくても、たとえ夜であっても呼んでください"と伝えていれば」と振り返る。


もしも伝えられていれば、違った道があったかもしれない。その気持ちは『美右衛門』のサービスにきちんと反映されている。


「だから、訪問美容の時は"また今度"ではなく、"その時できる最高のことを"と思っています」


たとえばサロンの場合、「これから伸ばしていきたい」という客のリクエストがあれば、長さをキープしながらもラフにならないように整えるようなカットを。パーマがかかりづらい髪質の人に対しては、段階を踏んで理想のスタイルに近づけていくなど、先を見据えた施術を選択することもある。
だがそれらは「次回」があるからこそできること。「次がないかもしれない」という経験をしたことで、バリオスさんは一期一会をより大切にし、その瞬間に最高のパフォーマンスをするべく、日々努力を重ねている。


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訪問美容の現場リポート。ある新米ママの場合


インタビュー当日、バリオスさんが勤めるサロンの常連客だったという女性の自宅へ訪問美容に出るというので同行させてもらった。場所は豊橋市内のあるマンション。バリオスさんのことを「お兄さん」と呼ぶその女性は、昨年6月に第一子を出産し、慣れない子育てに翻弄しているというアリムラ楓さんだ。


リビングの2畳ほどのスペースにシートを敷いて、施術台替わりに車椅子を設置する。正面に大きな鏡を置き、楓さんを座らせて首元にクロスをかける。バリオスさんはてきぱきと準備を進めながら、楓さんと生後9か月の長女、笑苺(えま)ちゃんに声をかけ、リラックスした雰囲気を作っていく。


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「どれくらい切ってない? 今日はどうしたい?」
楓さんの希望に沿って、バリオスさんが手際よく鋏を動かしカットしていると、楓さんが「実は......」と切り出した。出産後に一度だけ、放置状態の髪に我慢ができなくなり、託児サービスのあるヘアサロンを訪れたのだという。


託児サービスを併設するヘアサロンは、訪問美容サービスと同様、近年増加傾向だ。
「でも、(自分が施術を受けている間に)子どもの泣き声が聞こえてきて、どうしても気になってしまったんですね。ああ、あんなに泣いてる。保育士さんにも悪いな、と思ってしまって」(楓さん)


結局、託児サービスのあるヘアサロンに行ったのは、その一回だけ。そしてこの日、以前から話を聞いていたバリオスさんの『美右衛門』を初めて体験することにしたという。


「身だしなみとして髪をきれいにしたい」という思いは、誰しもに通じるものだろう。自由な生活の中で、ファッションやヘアスタイルを楽しんできた女性であれば、なおのこと。だが、妊娠・出産というイベントの最中は、髪を切るという自由すらままならないという現実に直面する。


施術中に泣いているわが子が気になる...。子どもの面倒を見る人に対して、申し訳ないと思ってしまう。


楓さんのような体験をし、妊娠・出産前と同様、気軽に施術を受けることができないでいる女性は少なくないはずだ。


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バリオスさんがカットを進める途中、それまで楓さんの足元で遊んでいた笑苺ちゃんが突然泣き出した。取材スタッフがおもちゃであやしたり、抱っこしたりもしたが泣き止まず、楓さんは施術を受けながら笑苺ちゃんを膝にのせ、あやし始めた。すると、笑苺ちゃんはぴたりと泣き止み、時折笑顔を見せるように。カットを終え、バリオスさんがドライヤーをかけるころになると、スヤスヤと眠ってしまった。


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「やっぱりいつもの家にいるということだけでも、子どもに対しての負担が少ないんでしょうね」と、眠るわが子を抱いたまま、楓さんがしみじみと言う。訪問美容ならば、赤ちゃんにとってもなじみの我が家で、すぐ手の届くところに母親がいる。子どもが安心していられるということに親は安堵し、ラックスして施術を受けられるのだ。


利用者の気持ちに寄り添いたい...そう語っていたバリオスさんの言葉が、目の前で具現化している。たった1日の取材で、そういう現場に出合えたことに驚嘆した。



『美右衛門』ビジネスはどう評価されるのか


それでは、ビジネスモデルとしての『美右衛門』はどう評価されているのだろうか。


『美右衛門』は2016年、第3セクターのサイエンス・クリエイト(豊橋市)が行う「東三河ビジネスプランコンテスト」で最優秀賞を受賞。これをきっかけに、「みなさんが手を差し伸べてくれるようになった」とバリオスさんは言う。


実は『美右衛門』の立ち上げに際し、事業計画を検討するため介護施設や医療機関の現状を知ろうと問い合わせをしたバリオスさんは、「具体的なデータは提供できない」と断られたことがあるという。


「こういうことをやりたいので、具体的なデータが欲しいんです、と伝えても、"それはちょっと難しいですね"と断られる。別に秘匿されるべきデータでもないし、その後、自治体の方とお話をしたらすんなりと教えてもらえたのですが」


バリオスさんが断られた理由は、根本をたどると、"信頼関係"にあった。訪問美容サービスをやりたい、だからデータを教えてくれ、では通用しなかった。必要なのは、「何をしたいか、どうしたいか」という明確なビジョンに加え、そこに関係する人たちとの信頼関係だったということ。


苦い経験を乗り越え、ビジネスコンテスト最優秀賞受賞の切り札を掲げ、バリオスさんは第3セクター、自治体、そして事業家とのつながりを広げていく。


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この日も学生向けの企業説明会に呼ばれ、「就活生のための身だしなみアドバイス」を行ったバリオスさん。こうしたイベントに参加するのも、彼の人脈が広がり、『美右衛門』への評価が高まっている証拠といえるだろう。

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