木曜洋画劇場

戦場にかける橋

 『アラビアのロレンス』の巨匠デビッド・リーンが、第二次大戦の東南アジアを舞台に、戦争の愚かさと人間の尊厳を描き出し、見事第30回アカデミー賞7部門を受賞。不朽の名作が、HDデジタルリマスター版、2時間半の特別枠で「木曜洋画」に登場する!

 タイとビルマ国境にある日本軍捕虜収容所にイギリス軍のニコルソン大佐の部隊がやってくる。収容所長の斎藤大佐は彼らに、国境のクワイ河に鉄道用の橋を架けさせようと動員したのだったが、ニコルソン大佐は「ジュネーブ協定に記された捕虜の扱いに反する」と拒否する。猛暑の営倉のなか、部下を守るため、頑なに協力を拒むニコルソン大佐。斎藤大佐は彼の騎士道精神に、自身が持つ武士道と同じものを感じ取り、捕虜の恩赦を条件に再度協力を乞う。部下に英国人としての誇りと希望を持たせるため、橋の建設工事に取り掛かるニコルソン。一方、同じ収容所へ収容されていたアメリカ海軍のシアーズ少佐は、この隙をついて脱走。味方に報告すると、橋の爆破のため再び収容所を目指す。完成した橋に、刻一刻と架橋爆破の特別部隊が迫る……。

 自身も捕虜となった経験を持つフランス人作家でSF小説の金字塔「猿の惑星」(68年映画化)のピエール・ブールが、52年に発表した原作を、『アラビアのロレンス』(62)、『ドクトル・ジバゴ』(65)の巨匠デビッド・リーンが監督した映画史に残る不朽の名作である。

 イギリスと日本、敵対する者同士がお互いの精神(騎士道、武士道)を通して共感し、理解しあう人間ドラマを描きつつも、その果てには、彼らの“奇妙な友情”が生み出した橋が破壊されるという矛盾。スペクタクルシーンがそのまま戦争の愚かさを象徴している本作品は、見事、57年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞(アレック・ギネス)、脚色賞(ピエール・ブール)、撮影賞(ジャック・ヒルデヤード)、作曲賞(マルコム・アーノルド)、編集賞(ピーター・テイラー)の7部門を受賞した。しかし、脚色のマイケル・ウィルソン(『陽のあたる場所』(51))とカール・フォアマン(『ナバロンの要塞』(61))は、当時“赤狩り”(アメリカ共和党右派のジョセフ・マッカーシー上院議員による、1940年代後半から50年代前半にかけて行われた共産主義者排斥運動)で疑いをかけられていたためクレジットを削除され、ピエール・ブールのみが脚色賞を受賞する形となった(84年のアカデミー賞で、ウィルソンとフォアマンは改めてこれを表彰された)。

 ニコルソン大佐に扮するのは、イギリス演劇界の名優アレック・ギネス。『スター・ウォーズ』(77)の“オビ=ワン・ケノービ”としてご存知の方も多いだろう。そしてアメリカからは『麗しのサブリナ』(54)、『慕情』(55)などで当時人気絶頂だった二枚目俳優ウィリアム・ホールデンが、シアーズ少佐役に。橋爆破の特殊部隊を率いるウォーデン少佐役には、『ベン・ハー』(59)など大作に欠かせない名優ジャック・ホーキンスが名を連ねる。

 しかし日本人にとってもっとも注目すべきキャストは、日本軍捕虜収容所長、斎藤大佐を演じた早川雪洲だろう。彼はハリウッドでの二枚目スター第1号といわれた、サイレント映画時代の大スター。千葉の網元(漁船長)の家に生まれたが、海軍兵学校に入学できなかったのを機に渡米。サンフランシスコの日本人劇団にいるところを映画関係者が見つけハリウッドへ招聘。『タイフーン』『火の海』(共に14)、セシル・B・デミル監督の『チート』(15)など多くの映画に主演し、国際派日本人俳優の先駆けとして、全米の女性を魅了した。その後、排日感情の高まりなどで、しばらくハリウッドを離れていた彼が、『戦場にかける橋』でアカデミー助演男優賞にノミネート。栄光は『サヨナラ』(57)のレッド・バトンズに輝いたものの(『サヨナラ』もまた日本を描き、ナンシー梅木に日本人初のアカデミー助演女優賞をもたらした作品だった)、改めてその実力を認めさせることとなった。ちなみに妻は明治時代、アメリカ、フランスで一世を風靡した“オッペケペー節”の俳優、川上音二郎の姪で女優の青木鶴子。また、映像制作用語で、身長が低い役者と共演者とのバランスを取るため使われた脚立を意味する“セッシュウ”は、背の低かった雪洲が語源だ。

 そして、『戦場にかける橋』といえば、ニコルソンの部隊が口笛で吹く「クワイ河マーチ」のメロディ。14年にケネス・アルフォードが作曲した行進曲「ボギー大佐」を、音楽監督マルコム・アーノルドが編曲。『大脱走』『史上最大の作戦』のコーラスでも知られるミッチ・ミラー合唱団によって録音された。日本では小学校の運動会で使用されることが非常に多く、“サル、ゴリラ、チンパンジー♪”(地域によっては“デブ、ゴリラ、チンパンジー♪”“サル、エテコ、チンパンジー♪”がある)という歌詞をつけて遊んだ方もおられるのでは? 映画の舞台となったタイのクウェー川鉄橋は、現在でも現地の人々に使用され観光名所となっている。ぜひ口笛を吹きながら、歩いてみたいものだ。

 イギリス、日本、アメリカの才能が結集し、戦争という“破壊”と架橋という“創造”の矛盾を通して描く、戦争の愚かさと人間の尊厳。混沌とする今の時代だからこそ、改めて見直したい一本だ。

(高嶺紀章)
協力:(株)フィールドワークス supported by allcinema ONLINE