木曜洋画劇場

ダニー・ザ・ドッグ

  『SAYURI』(05)のチャン・ツィイー、『ハンニバル・ライジング』(07)のコン・リー、『呪怨 パンデミック』(06)のエディソン・チャンら、ワールドワイドに活躍するアジアの映画スターたち。だが、ハリウッド進出を果たして作品のジャンルや役柄が拡がる一方で、ジャッキー・チェンはCGやVFXを駆使するようになり、チョウ・ユンファも“二丁拳銃”を構えることがなくなってしまうなど、長きにわたってスクリーンでの彼らの雄姿を目にしてきた映画ファンにとっては少しばかり寂しい状況になっている。そんななか、ボルテージを少しも落とすことなく、古くからのファンを満足させながら新しいファンを生み出し続けているのがジェット・リーだ。

ジェット・リーことリー・ヤンジョンは、1963年に中国・瀋陽で誕生。わずか8歳で、スポーツの英才教育を目的とした北京業余体育学校“武術専門コース”へ入学し、その優れた才能を発揮して中国武術を次々とマスターする。そして、74年から5回連続で中国全国武術大会総合優勝という快挙を成し遂げたのち、“映画を通じて中国武術の素晴らしさを世界に伝えたい”と『少林寺』(82)でリー・リンチェイの名前で映画デビューを果たす。“少林寺”という歴史的かつ神秘的なムードの漂う題材、本物の武術家たちの大挙出演、そして拳法の“型”を重視したリンチェイの流麗なカンフー・スタイルが大きな話題を呼び、中国、香港、日本をはじめとしたアジア圏で爆発的ヒットを記録。続く『少林寺2』(83)、『阿羅漢』(86)も大ヒットをマーク、香港映画界に“少林寺ブーム”を巻き起こすと同時に、リンチェイはジャッキー・チェンと並ぶ大人気を博す。

  その後、主演作の相次ぐ失敗と“香港ノワール”の台頭で不遇の時代を迎えることになるが、それを救ったのが『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(87)、『男たちの挽歌』(86)の両シリーズをはじめとするヒット作を次々と監督、製作し、“香港のスピルバーグ”の異名を取っていたツイ・ハーク。彼がメガホンを取った『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』(91)で実在した武術家・黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)を演じ、“第2の黄金期”のスタートを切る。大ヒットした同作はシリーズ化され、『ターゲット・ブルー』(94)、『ハイリスク』(95)、『ブラック・マスク』(96)と興行面、批評面でも成功した作品を連発。

そして、80年代を超える人気と実力を掴んだなか、『リーサル・ウェポン』シリーズのベテラン監督リチャード・ドナーから直々に第4弾(98)への出演オファーが。ジェット・リー(この名は80年代にフィリピンで呼ばれていたもの)と名前を一新して悪役として同作に出演、凄まじいカンフーでメル・ギブソンを徹底的に苦しめて世界中の人々を驚嘆させた。ハリウッド進出第2弾『ロミオ・マスト・ダイ』(00)での完全ブレイク以降も、アジアとハリウッドを股にかけながら『ザ・ワン』(01)、『HERO』(02)、『ブラック・ダイヤモンド』(03)、『SPIRIT』(06)といった快作で主演を飾っている。

今回の「木曜洋画劇場」に登場するのは、そんなリーが新たな魅力を開花させた『ダニー・ザ・ドッグ』。幼いころに悪徳高利貸しに誘拐され、“番犬”代わりの殺人マシーンとして育てられた青年ダニー。人を傷つけることしか知らぬ彼が、盲目のピアニストとその義理の娘との出会いを通し、次第に人間的感情を取り戻していく姿を追いかける。

まず、目を奪われるのが壮絶にして凄惨なアクションの数々。躊躇することなく相手の手足を折り、髪を引き抜き、喉仏を粉砕し、動かなくなるまで頭を床や壁に打ちつけるなど、これまでの作品とは打って変わったハードで情け容赦のない格闘スタイルはガチンコ系と呼ぶに相応しい。武術指導を務めたのは『マトリックス』(99)、『キル・ビル』(03)などで知られる、“香港活劇の重鎮”ユエン・ウーピン。なかでも、アパートの狭いトイレで巨漢の男と一騎打ちを繰り広げ、パンチとキックの応酬で壁やタンクが破壊されていく迫力満点のシーンは、彼の見事な演出手腕とリーの超人的戦闘能力が融合した屈指の見せ場だ。

製作、脚本を手掛けたのは『キス・オブ・ザ・ドラゴン』(01)でもリーとタッグを組んだリュック・ベッソン。激しいアクションのなかにもヒューマニズムあふれる感動を盛り込んだストーリー展開は『ニキータ』(90)、『レオン』(94)を生んだ彼ならではといえ、リー本来の“ピュア”なルックスとイメージを巧みに反映させたダニーのキャラクター創造も秀逸である。

そして、さらなる見どころが芸達者を揃えた共演陣。盲目のピアノ奏者サムには『セブン』(95)、『ミリオンダラー・ベイビー』(04)のオスカー俳優モーガン・フリーマン。黒人+盲目+ピアニストという“レイ・チャールズまんま”な設定はご愛嬌といったところだが、圧倒的存在感を放ちながらダニーの人生に光を照らす重要な役柄を妙演し、名優の力量を存分に見せつける。一方、ダニーを闇に引きずり込もうとする高利貸しバートには、『モナリザ』(86)、『ロジャー・ラビット』(88)などで知られるイギリスきっての演技派ボブ・ホスキンス。裏社会の住人や映画業界ゴロからインスピレーションを得て作り出した、その極悪で非道極まりないキャラクターは観る者に鮮烈な印象を残すはず。そんな2人による、まったく正反対な“ダニーの父親的存在”がドラマに重みと奥行き、極上のスリルと感動を与えている。 今回はピュアHDマスターによる地上波初放映でのお届け。リー一流の電光石火アクションを、超高画質で堪能すべし!

(平田裕介)
協力:(株)フィールドワークス supported by allcinema ONLINE