木曜洋画劇場

JAWS ジョーズ

『E.T.』(82)、『インディ・ジョーンズ』シリーズ、『宇宙戦争』(05)といった娯楽大作から、『ミュンヘン』(05)、『シンドラーのリスト』(93)といった社会派作品まで、幅広いジャンルの作品で観客を魅了し続けている世界的ヒットメイカー、スティーブン・スピルバーグ。『JAWS/ジョーズ』は、1975年、弱冠27歳の彼が劇場作品2作目にして、“天才監督”としての評価をほしいままにした傑作である。ちなみに「JAWS(ジョーズ)」とは、英語で「顎(あご)」の意。

 浜辺に無残な姿となった女性の遺体が打ち上げられたことをきっかけに、平和な海水浴場アミティに襲いかかる巨大な人喰い鮫によるパニック。いち早く異変に気づくも後手に回ってしまった警察署長ブロディは、鮫狩りの達人クイントと海洋学者フーパーとともに漁船に乗り込み、鮫退治に乗り出すのだが…。

 原作は、ピーター・ベンチリーの当時の大ベストセラー作『ジョーズ』(ベンチリーは映画の脚本も担当。劇中、ニュースを伝えるレポーター役で出演もしている。惜しくも昨年2月に65歳で死去した)。原作では、鮫の生態など、海洋学に関する踏み込んだ描写が特徴的だったが、映画版では、スピルバーグはその分はなるべく抑えた娯楽作品に徹している(原作からの大きな改変は、ラストのド派手なサメとの対決と、海洋学者フーパーの生還。原作では、巨大ザメは力尽きて海に沈むという、『老人と海』のような厳かなものだった)。

 なかなか鮫が姿を現さない前半パートのサスペンスフルな展開が魅力的なのはもちろんだが、本作の最大の見どころは、3人の男たちが鮫退治に乗り出す後半パート。3人の個性的なキャラクターたちが、それぞれの思惑を抱えて同じ船に乗る。この3人の微妙な“対立”が、やがて生き残るため“協力”へと変化し、パニック映画の枠をはるかに超える海洋アドベンチャー映画としての魅力を強烈に放つのだ。単なる「巨大モンスターvs人間」という構図に陥りがちな凡百のパニック作品との決定的な違いはここにある。

 その魅力的な男たちを演じたのは、『フレンチ・コネクション』(71)でジーン・ハックマンの相棒刑事役を演じ(アカデミー助演男優賞候補)、一躍注目を集めていたロイ・シャイダー(警察署長ブロディ)、『007/ロシアより愛をこめて』(63)の悪役が強烈だったロバート・ショー(クイント船長)、『アメリカン・グラフィティ』(73)で注目されたリチャード・ドレイファス(海洋学者フーパー)の3人。ブロディ署長役は当初、あのスティーブ・マックイーンが想定されたそうだが、当時の大スターの破格すぎるギャラが原因で頓挫、次の候補チャールトン・ヘストンもスケジュールが合わず見送られた。ドレイファスは本作以後も、『未知との遭遇』(79)、『オールウェイズ』(89)のスピルバーグ作品で主演を務めることになる。

 アメリカで公開されたのは1975年6月20日。そのヒットの様子はすさまじく、『エクソシスト』(73)、『サウンド・オブ・ミュージック』(64)など当時の大ヒット作の記録を次々に突破。たった1ヶ月で7000万ドルの興行収入を叩きだし、最終的にアメリカで2億6千万ドル、世界興行では4億7千万ドルを記録した。75年のアカデミー賞では作曲賞、音響賞、編集賞を獲得(ジョン・ウィリアムズのテーマ曲が、いまやおなじみになっているのは言うまでもない)。

 その勢いそのままに公開された日本でも、当時の日本史上最高の配給収入となる50億円を記録し、公開30年以上を経たいまだに興行成績のベスト20にランキングされている。当時の一般料金が1000円ということから考えると、観客動員数は1000万人程度。これは同じスピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(93)(歴代配収ランキング5位)の動員数850万人を軽く超え、観客動員数ランキングでは、たちまちベスト5に繰り上げになってしまう。『JAWS/ジョーズ』は、日本中を熱狂させた、正真正銘の<モンスター>映画だったのだ。

 こうしてみると、いいことずくめの作品に思えるが、実際の撮影現場はそうはいかなかったようだ。『激突!』(71)、『続・激突!カージャック』(74)で才能を認められ、『JAWS/ジョーズ』に抜擢されたスピルバーグは、リアリズムを追求するために完全オールロケを敢行。変わりやすい海の天候のためスケジュールは大幅な狂いを見せはじめ、鳴り物入りで導入された全長8メートルの巨大鮫アニマトロニクス“ブルース”は、塩水を含んだとたん重量オーバーで動かなくなり……と、製作費は当初の予定額をはるかにオーバーしてしまった。脚本の遅れ(ロケの現場でスピルバーグが書いた)や度重なるトラブルにより撮影は遅れ続け、当時現場で一番若輩だったスピルバーグは、険悪なムードのなかでいたたまれない心境だったらしい。

 また、観客にできるだけショックを与えることにやっきになっていたスピルバーグは、白昼、海水浴場で人が襲われる場面で、ありえない量の血のりを噴出させたり、海中に沈んだ船から死体が飛び出す場面を、自費(!)で追加撮影した。後の『プライベート・ライアン』(98)や『宇宙戦争』『ミュンヘン』にみられる、スピルバーグ特有の過剰なまでの残虐描写の息吹は、すでに本作に漂っている。

 世界的ヒットを達成した『JAWS/ジョーズ』だが、映画会社(ユニバーサル)は“サメがウケる”ビジネスチャンスが到来したと、その後12年に渡ってシリーズ作が製作される。再び海水浴場アミティを舞台に、新たに現れた人喰い鮫に、今度はひとりで立ち向かうブロディ署長(同じくロイ・シャイダー)を描く『JAWS/ジョーズ2』(78)、フロリダの海洋パークを舞台にした3D(立体)映画『ジョーズ3』(83)、1、2作で警察署長ブロディの妻を好演したロレイン・ゲイリーが鮫に立ち向かう『ジョーズ'87/復讐篇(ジョーズ4/復讐篇)』(87年。なんとマイケル・ケイン出演!)の3作が製作されたが、当然ながらスピルバーグはノータッチ。いわゆる“凡百のパニック作品”へと尻すぼみになっているのが悲しいところではあるが、“巨大ザメvsブロディ一族”のサーガになっているのは興味深い。

 今回、<木曜洋画劇場 2000回記念>の第1回作品を飾る『JAWS/ジョーズ』は、「羽佐間道夫のロイ・シャイダーが聞きたい!」というファンからの熱い要望に応えて(羽佐間道夫は、『フレンチ・コネクション』をはじめとして、ロイ・シャイダーの吹き替えを多数担当)2004年5月の放映時に制作した吹替音声をベースに、ピュアHDマスターによるリニューアル放送! 映画史に残る至宝の一本を、最高画質とすばらしい吹替音声で、ぜひご堪能いただきたい。

(村上健一)
協力:(株)フィールドワークス supported by allcinema ONLINE