『 生きる 』 谷川 俊太郎
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと
・・・・・・・・・
谷川さんの「生きる」という詩。
私も大好きな冒頭の一節です。
多くの人が共感し、心揺さぶられ、語り継がれているこの詩。
谷川さんが具体的に体験したことや、感じたことが、
ベースになっているそうです。
そして 今回の震災で再び注目され、
ネット上でも、多くの若者が
「自分にとっての生きるとは・・?」 語り合っています。
こういった動きを 「面白い」 と微笑む一方で、
「 こういう時だけ読まれるのは不満。
普通の人が、普通に読んでくれるのが一番ありがたいんだ・・」
と 谷川さんらしい言葉が返ってきました。
「 言葉とは、そんなに力を持っていないんですよ。
詩にふれて、何かを感じたり、癒されたりする事はあるかもしれないけれど、
詩に、意味やメッセージ性を探し求めてはいけない。」
女性が洋服を選んだり、食べ物に好き嫌いがあるように
詩は、たくさん試してピタッとはまったものを、繰り返し楽しんでほしい
『決して意味を求めないで・・・』 と繰り返す谷川さん。
そんな谷川さんがお薦めしてくれた本が こちら。
『 ちんろろきしし 』 元永定正 著
印象的な真っ赤な表紙。
そして、全く意味の分からない題字。
何かの名前? おまじない? 外国の言葉?
すぐに意味を考えようとしてしまう私に対して
「なーんにもないんだよ。」
谷川さんは 笑います。
まずは、少し中身をご覧頂きましょう。
本当に(笑)何の意味も持たない絵と文字ですが、
眺めていると・・・
左の絵や色には、右の文字の形や配列がピッタリだな・・
なんて、脳というより心で感じる作業が始まります。
「一種のハーモニーがある。」
「考える前に、無意識に感じることが大切。」
世の中のあらゆることに対して、当然のように意味を求める私達に対する
アンチテーゼなのかもしれませんね。
「何の勉強にも、何の利益にもならないような本だけどね・・」
と笑う谷川さんですが、この本の最後には、
素晴らしい書評を寄せているんですよ。
では最後に、谷川俊太郎さんの素敵な詩をひとつ。
多くの詩の中で、私が一番好きなものです。
《 水 》
淀むものの深みに
流れてゆくものがある
湛えるものの底に
溢れようとするものがある
透き通るものが
一夜にして濁る
形なく漂うものが
雫となってしたたる
掌ですくう一杯の水に
私たちの生のすべてが映っている
その眩しさとその
身を切るような冷たさ