アーティストの実態

ダンサーゆかもそうだが
NYには、自らの意思で立つ気高い日本人女性がとても多い。



友人の武居きょんちゃんも間違いなくその一人である。



日本の文化庁やポーラ美術財団の助成をうけ、
たった一人で渡米。
芸術を追求する信念の人である


マンハッタンからちょっと離れた
ロングアイランドのスタジオビルのアトリエが舞台



へえへえへえ。このビルに200近くアトリエがあるの?


芸術を愛するものたちが、己の感性に正直に生きるために
ここに集まっている
いつしかそこがトレンドスポットになったりする。


きょんちゃんは、というと



絵の具のついたエプロンとビーサン姿


いいねえ。なんか雰囲気あるねー
NYっという風景の中にいるだけでも独特のアーティストのムードが漂うぞ


彼女の絵は
一見、何を描いているのかわからない
でも


見つめていると
さまざまな光景が浮かび上がってくる



「きょんちゃん、これは動物?」

えーそうですか?
そう見えるかもしれませんねー

でもこれコップから水があふれてるんですが
水がいっぱいになる前にあふれちゃってるんです。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??

芸術家の表現は難しい・・・。



さらに、今、きょんちゃんはなぜか
壁にテープで紙を這りつけて絵を描いているのだ
壁にだよ。

きょんちゃん、いつもこうしてるの?


えーっあっこさん、アーティストってお金がないんですよお
場所もないし、こうして壁にはって描いてるの。



ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお

それはまさに、みかん箱に蛍の光の世界ではないかああああああ。




「私が新しいキャンバスが買えなくて、古い絵をつぶして描いていると、先生たちが見かねて、他の生徒には内緒で高価なキャンバスやフレームを持って来てくれるんですよ。
ありがたいですよね。
必要なものは自分で買うべきなのにって情けなくなりますね。


そうなんだ・・・。でも、先生がそこまで肩入れしてくれるのは
才能を感じてるからだよね。

私がしみじみ絵を見つめていると



あっこさん、これ見て!

共同キッチンにある小さな冷蔵庫を開けて、きょんちゃんが言った

「ここってね、みんなが自分の飲み物を置いておくんだけれど
みんな貧乏だから人のものを飲んじゃうんですよ。

この子は、やっと買った牛乳をみんなに飲まれちゃってて、ついに
張り紙したんです」

みてほしい
この文字を。


「お願いだから飲まないで。
 もうお金がぎりぎりなの。」

・\t

・・・・・。涙である。



明日の牛乳をも心配しながら、
なお、ひたむきに芸術を追求するのである


きょんちゃんが「あっこさん、お水飲む?」と差し出すペットボトルだって、もはや簡単には受け取れない。

わたしの考えるペットボトルとは重みが違う。


うちらなんぞは、所詮 会社のサポートの下。生活の心配もない。



これが自分の夢を追求する強さなのか



夢をもってれば、この街はどんな生き方でも受け入れてくれる
やる気と根性があれば、生きていける場所。
だから、世界から才能が集まってくる。



実は、何を隠そう、彼女の絵画はマンハッタンに古くからある店に、
力強くでーんと飾られているのだ

一点数万円から、
物によっては、数十万円で売られている



でも私はまだまだ新人で、この不況下だと年に二、三枚しか売れないんです。



・・・・きょんちゃん、言っていいかい?
新人って言ってもあなたは、もう私と同じくらいの年齢である。


そうそう日本では私みたいなこんな生き方、
許してもらえないでしょうねー親が不憫でなりません。


そういってきょんちゃんは笑った。
NYの自由な空気がさわやかに駆け抜けた。