赤と青 ⑤ (シリーズ物です)

【横浜に炎立つ】

2004年1月。拳にすべてを託し極東の島国にやってきたデン少年は歴史を作った。その頂点に立ったのだ。

歴史は動く。ドラスティックでダイナミックな変動もいつしか来るものだ。

今からおよそ150年前、横浜の海にタールで塗られた漆黒の蒸気船が現れた。ペリー提督率いるいわゆる「黒船来航」だ。鎖国状態の日本がいよいよ欧米との交わりを始めるその瞬間だ。時代が動いた。

クーデターという言葉がある。現代社会では「非合法で超法規的武力による権力奪取」と訳されるものだ。20世紀始めの大きなものではロシア帝国の十月革命、ちょうど90年前だ。これも歴史が動く瞬間だ。

今、拳闘界では最軽量級ミニマム級のベルトが動かない。WBA、WBCいずれも王者が安定政権を築いている。その安定政権に挑むのがアキラ(=八重樫東)である。横浜6月革命とでも言おうか。
政権交代の瞬間、それは日本のボクシング界にも大きな歴史を刻むことになる。7戦目・史上最短での世界奪取だ。
くしくも王者の祖国はタイ。そう、去年軍事クーデターによって政権交代を起こした国だ。アキラが企てるのは勿論そんな物騒なものではないし、決して非合法ではない。しかし、拳の一撃・1秒先に幽明の境が待ち受けるという、スポーツという枠を超えたその競技性に、近いものは感じる部分がある。

ペリーが来航して約150年。何気なく書いたが、アキラの師匠大橋秀行さんは、そうだ150年に一度の天才なんていわれていた。奇妙な数字の一致はただの偶然かこじつけなのか。

6月4日歴史が動くか。
およそ150年前の6月、横浜は開港した。4日とまではいかないがその2日前6月2日だ。思い切って買ってみた電子辞書は僕にいろんなことを教えてくれる。歴史に思いをはせてみるのも面白いものだなと思いながら、ようやく空いた東海道線の座席に腰をかけた。新型のE231系は乗り心地がいい。


つづく