赤と青 ⑦ (シリーズ物です)

【あしたのために】

今日はクールビズで半袖シャツで決めてみたものの、そこにいるだけで背中に汗が滲む。唸り声にも似た断続的な呼吸音、重く鈍い打撃音、ゴム底のシューズと床の摩擦音が入り交じる。吹き抜けの天井にあるスピーカーからはアイオブザタイガーのBGMが流れ、汗をかけと体に訴えてくる。

「チーン」

ゴングの音で静寂が訪れた。
全てが3分刻みで流れる。毎日毎日「3分間動いて1分休む」という練習を続けることで、3分を体に刻む男たちの戦場だ。

横浜駅から歩いて10分くらい。近代的なビルの1階から3階にに最新の機材をそろえ、大小2つのリングを持つ大橋ボクシングジム。恐らく日本一は間違いない、いや世界でも有数のジムだ。

ところで、今私が住んでいるのは東京の昔ながらの下町だ。隣町が南千住というところ。いまでこそ地名にしか残らないが泪橋のある土地だ。ボクシングファンならばピンと来るかもしれない。そう、あしたのジョーの丹下拳闘倶楽部があった場所だ。

そうだ、急に思い出した。
ジョーのライバルジム、白木葉子の白木ボクシングクラブ(SBC)だ。
あの力石徹がいたジムだ。3階建ての超近代的なジム。SBC・・・。

大橋ジムの略称は「OBG」。おぉ!イメージにぴったりだ。

しかし白木ジムとは決定的に違うところがある。
会長とトレーナーだ。大橋会長は、無く子も黙る伝説の名チャンピオン。自ら7戦目で世界に挑戦し、生涯7度の世界戦を経験。WBA・WBCと両団体の世界王者に輝いた。トレーナー松本好二さんはかつてトレーナーの年間MVPといわれる”エディ・タウンゼント賞”受賞者だ。自らも世界戦3度出場、スタッフととして20回の世界戦を経験している。最高の環境かもしれない。

その上、ここにはこの環境に甘えさせない厳しさがある。

大橋会長、松本トレーナーといずれも、悔やんでも悔やみきれない世界での敗戦経験があるからだ。もちろん燃え尽きた果ての敗戦に違いないが、世界戦で負けるその悔しさを誰よりも知っている二人だ。

厳しい。

しかしアキラは喰らい付く。
この近代的なジムにはおおよそ似つかわしくない、「根性」「気持ち」そんなものが渦巻いている。

大橋会長はかつて言った。
「世界を取るのに必要なのは実力プラス、運とタイミングだ」と。
全ては揃ったんじゃないか?アキラ。

そしてもうひとつ。
「リングの中には詐欺師も嘘つきもいない。ピュアで神聖なリングには真実しかないんだ。あそこで力一杯戦うってことは、痛かったけど気持ちよかった」

最後は、アキラ一人の戦いだ。

つづく