赤と青 ⑧ (シリーズ物です)

【懐の刀】

サムライ川嶋勝重が戻ってきた。

1月3日、身も心もズタズタに切りつけられ、生涯初めて地に這わされた侍だ。陽気なメキシカンの影ばかりを追い続け、自慢の名刀は空を切ったあの日。侍はかの弘法大師の足跡をたどり、四国遍路の旅に出ていたという。チャキッ・チャキッと鳴る金剛杖の鈴の音が侍の心に問いかけた。
「懐の刀は錆びていないか」

かくして侍は再び刀を手にすることにしたのだ。

2004年6月28日。世界の頂点に立ったあの夜、そう命王者徳山昌守を1RKOに下した伝説の夜を思い出す。
露払いとして出場した川嶋の後輩・有永政幸がセミファイナルの舞台で日本タイトル獲得を果たした。

「川嶋さ~~ん!やりましたぁぁ!今度は川嶋さんが頼みま~~~す!!!」

最高のマイクパフォーマンスだった。控え室の川嶋にも届いたこの声は、何よりも励みになったと聞く。アキラはまだデビューしていないころの話だ。

さあ、今度は侍が最高の復帰戦を飾って、後輩の世界初挑戦に弾みをつける時だ。
できれば、あの夜のようなものがあるとドラマなのだが・・・。

侍川嶋の復帰は直前までトップシークレットだった。
ちょうどジムに取材にいっていた日が、川嶋が突如ジムに現れるというサプライズの日だった。

「こんにちはー」

なんとも照れくさそうな侍だ。でもなんか嬉しそうだ。

松本トレーナーがその優しそうな目をまん丸にしている。
練習生たちの手が止まった。
アキラもしかりだ。

練習後アキラと話した時に感じた。
目の光がパッと輝く、キラキラする瞬間だ。
細くて、目尻の下がったその目に何かがみなぎった瞬間を感じた。

「僕・・すごく嬉しいんです!すごい、なんていうか・・・嬉しくて」

プロ入り後、何度も味わった地獄の伊東キャンプ。
いつもこの人は死んじゃうのではないかというくらいに自分を追い込む川嶋先輩がいた。しかし、今回は違った。何か足りなかった。練習の苦しさ、充実度、量と質、全てにおいてエクセレントであることは間違いないのだが、この一点だけがいつもとの違和感を残していたのだ。

この復帰、粋じゃないか。
川嶋本人の希望、大橋会長の一声それぞれあったかもしれないが、こんなタイミング他にはないと思う復帰だ。

侍の周りは、いつもドラマだ。

つづく