飛び出せ青春

もうこの時期になると、冷房が欲しくなる夜もある。
冷房といってもクーラー機能よりもドライをかけることのが多いのだが。

 ろくにメンテナンスや掃除をせずに、久しぶりにクーラーをかけると摩訶不思議なことがあったりする。おととしは回したとたんに、巨大ゴキブリが噴射されてきて度肝を抜いた。去年は氷の塊が、ガコーンっと飛び出してきた。これには驚いた。結局のところは、メンテナンス不足から生じた汚れで結露ができ、それが凍ったものらしいが、クーラー屋のおじさんも苦笑いの状況だったようだ。

クーラー屋さんのおじさんといってもまだ40代の人で、おじさんというのは酷か。おもえば自分も年をとったものである。一年が早く感じるなぁなんて思ったら最後、まさに光陰矢のごとしとはよく言ったものだ。小学生の頃、高校生や大学生はとんでもない大人に見えたものだ。大学生になっても30歳なんて中年だと思っていた。でももうそんな年齢も当に過ぎた自分がここにいることにふと気づくのである。女性の好みもしかりだ。高校生の頃は女子大生なんて年上過ぎると感じたものだが、いまとなれば女は30歳からだなんてのたまわってみたりするのだ。

 ねえおじさーん!なんて公園で小学生の女の子に呼ばれた時、自分自身「俺はこの言葉をどう解釈するのか?」なんて0.5秒くらい右脳と左脳に思いが巡ったのだが、意外となんてことなく受け入れていたりする。だってそうだもんって。でも子供たちの前で自分を「おじさんがね・・」というのは何か抵抗があったりする気もしないでもない。大体の場合、自分の息子が一緒にいる状況だから「○○くんパパがね・・」というように息子を経由して自分を表すことが多かったななんて思う。

 女は30から男は40から。いまはずっとそんな気がする。ブート・キャンプで名を馳せるあのビリー・ブランクス隊長にいたっては、今度の9月1日で52歳だ。あの肉体には頭が下がる。鍛えればああなるのか・・まだ。

 今日も蒸し暑い夜だ。リビングにある二つのTVは、妻が”もやもやさまぁーず”と”さんま御殿”の録画したやつをみて独占中だ。なんで同時にふたつ見るのかは謎だが。僕はビリーのDVDをテレビラックから探し出して、ノートPCと一緒に子供部屋へ行った。電源を差込み、立ち上げ、DVDの挿入だ。最近メディアプレーヤーの調子が悪いのでWinDVDを起動した。

 軽快な、しかもいかにもアメリカという感じの少々気が抜ける感じもするBGMが流れ、隊長が現れた。Tシャツを脱いで、さあ腹筋編スタートだ。今から始まる30分間は、いつか僕を変えてくれるはずだ。そう言い聞かせて、隊長の、その体とは裏腹につぶらな目を見つめながらツイストを始めた。


 ところどころのエクササイズでは腹筋を収縮させた状態でストップさせることがある。「あと2回だ、そしたらそのままキープ!」隊長がけしかける。コトコト・・カスカス・・DVDが回る音が時々聞こえる。あと1回、よしキープだ!

・・・・その刹那、目をひん剥いた状態でビリーが固まった。
僕も固まった。画面の中では、シェリーもジュリアンも固まった。

 フリーズだ。とりあえずPCが復旧するまでくらいキープしてやる!カウントは8で再び1に戻るのだが、もう3回転した。駄目だ。なんてタイミングで止まりやがるとぶつくさ言いながらPCをいじってようやく復旧したものの、止まったことで汗が一気に噴出してきたと同時にモチベーションが少し下がった。

さあ、またツイストだ。
「トゥィッ!トゥィッ!トゥィッ!」

次は座って足上げキープ、じつはこれが一番きつい。
ビリーがけしかける「燃焼しているか?ジンジン来てるだろ!」
隊長が盛り立てる「きつかったら休憩してもいい、但し絶対戻って来い」

あと1セットだ。クククク・・・・グエグエグエ・・・・・・・・・・。
た・・・隊長・・早くあの、待望の「OKグッドジョブだ」を言ってくれ。
ウゥゥゥゥゥx・・・・。

ガシ。ピー・・ガシ。スカ。
またDVDが止まりやがった。しかもこんな極限状態で。
今まさに「グッドジョブだ」って言ってくれる瞬間なのに。

どうする僕!?やめる!?復旧待つ!?
頭の血管も切れそうだ!!!!!!

ゴルァァァァァァァD~VD~め~!!!!!!

 倒れた。多分腹筋の80%が断裂したと思う。そんなわけはないが、それほどの苦しみの果てだ。それにしても何でこんなタイミングでとまるんだ。これもビリーの仕掛けなのか?だったら凄いぞビリー・ブランクス。

とりあえず、またPCをいじって再び動かすことに成功したが、30分エクササイズのはずが40分はかかった。今夜は辛かった。

 滴り落ちる汗を拭きながらPCを片付ける35歳・おじさんの姿を横目に、子供たんすの上の水槽で暮らすカブトムシの”くわがたくん(息子命名)”は昆虫ゼリーの容器に頭をつっこんでいた。ゼリーの味に満足しながらも、サウナのように蒸し暑くなったこの部屋を不快に思っていることは間違いなさそうだ。

 1時間だけ、27度に設定してドライをかけておこう。
久しぶりの起動で何が飛び出すか分からないが・・・・。