■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=マルチメディア総合研究所所長

1947年生まれ。 東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、マルチメディア総合研究所所長、日経BP社編集委員などを兼務。


 製茶・兼・卸の仕事をしている知人が、愚痴をこぼしていたのは昨年のことである。静岡県・掛川の茶産地ど真ん中で営んでいるが、緑茶の消費が長期低落している打開策がなかなか見出せないでいる。特定保健食品のルールができて緑茶の健康効果がアピールできるようになってペット入りでいくつかの大型商品が生まれ、先に明るさが見えてきたものの、輸入茶との競合も心配だ、と言うのである。ところが、その愚痴の中で、生産履歴情報記録の作業の手間について触れられていたのでびっくりした。

 生産組合の指導で、使用する農家に栽培記録を指導し、自らも、細かい製茶の記録、保存の記録を作成しなければならない。もう70代に到達して、いまさらパソコン入力でもない、というのである。そういえば、茶の生産農家にトレーサビリティシステム(生産履歴情報)を義務付ける、という記事を読んだ記憶があったが、具体的に茶生産の分野では生産履歴の記録が始まっていた。

 しかし、知人はこう言って、納得していた。「生産履歴の記録によって、産地のブランドを守って、他の産地や輸入物と対抗できる競争力をつける方策だというのだから、皆で面倒な作業も嫌ってはいけない」――これが生産履歴情報の隠れた狙いである。確かに、茶の場合は、産地の名前を冠した「○○茶」のブランドが古くから定着しているが、このブランドが最近は揺らいでいる。他の地域から調達した茶を混ぜて「○○茶」と表記する「不当表示」が目立ってきたようである。この不当表示を防ぎ、「○○茶」本来の味覚や香りを守るのが生産履歴情報の狙いだと言える。さらに、輸入茶との差をつける意味が加わってきたわけである。

 BSE(牛海綿状脳症)をきっかけに牛肉のトレーサビリティシステムの整備が進み、農産物、水産物に急速にトレーサビリティシステム適用の動きが広がっている。その狙いは消費者の「安全・安心」を確保するため、というのが建前である。政府を挙げて、「安全・安心」を標榜している。米国のBSE発生騒ぎでは、「安全が確認されるまで」と、日本の消費者の「安全・安心」を前面に打ち出して、米国牛の輸入を拒んでいる。日本の牛肉はトレーサビリティシステムで完全に掌握している日本の牛肉だが、茶業界の動きを聞いてみると、生産履歴情報のその本当の狙いは、どうやらほかのところにあったようだ。

 とはいえ、今回の取材で、茶の生産履歴情報の徹底化が重要であることを実感した。最近、徐々に目に付き始めた緑茶の喫茶店に出向いて、「○○茶」を注文して飲み比べてみて、納得がいったのである。産地のブランドごとに、確かに、味も香りも大きく違う。煎れ方もあるのだろう。その産地の茶ごとに本来の味覚を引き出せば、こんなにも多様な味、多様な香りが楽しめるのか。たちまち、緑茶のファンになってしまった。

   このところ急速に広がった緑茶ブーム。一時のブームに終わらせずに、日本茶の新しい文化を創造してもらいたい。







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