■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=マルチメディア総合研究所所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。


日本のプロ野球の状況を考える参考に米国のプロ野球の歴史を振り返り、その問題点を摘出してみよう。米大リーグ通の慶應義塾大学池井優名誉教授に聞いてみた。聞き手は中島。

――日本では1リーグ制の議論が起きているが、米国はアメリカン、ナショナルの2リーグの上にさらに東・中・西の地域別3ブロックに分かれている。

池井 米国では1878年にナショナル・リーグが8球団で結成され、アメリカン・リーグは1900年に7球団で誕生した後8球団になった。その後、球団数がどんどん増えて、61年にはア・リーグが10球団、62年にはナ・リーグも10球団になり、69年、両リーグがそれぞれ12球団になったときに東西2地区制が採用された。94年には現在の東・中・西の3地区制になったが、この時点では両リーグとも14球団ずつ抱える大所帯になっていた。98年にナ・リーグさらに二球団増えて十六球団になって、現在の30球団体制になった。

――地区別制度採用の理由は何ですか?

池井 もちろん対戦のために移動する負担がたいへんだということがあったが、ポストシーズンが盛り上がるというメリットも見逃せない。ア・リーグ、ナ・リーグとも地区別に優勝が決まった後、地区別優勝チームと、地区で2位になったうち最も勝率が高かったチームがプレーオフでリーグ優勝を競い合う。そこで勝ち上がったチームがリーグ代表としてワールドリーグで戦うが、この間にどんどん盛り上がってきて、ワールドシリーズで最高潮に達する。その「お祭り」の盛り上がりが大リーグの魅力になっている。

――30チームに増えてきた、ということは、プロ野球は収益の高いビジネスですか?

池井 それが大変だ。選手の年俸がどんどん高騰して今年のシーズン開幕時にメジャー登録された選手の平均年俸は2,486,609ドル、日本円で261,450,000円。移動の交通費や宿泊費、球団職員の経費などで球団経営は圧迫されている。収入のほうは入場料(年間予約、前売り、当日売り)に放送権料(全国放送、CATV)、売店やグッズ、施設の広告掲示収入などだが、米国らしいのは球場に来るファンの駐車場料収入で、ドジャーススタジアムのように15,500台の収容力があって、1日8ドルの料金だと馬鹿にならない。
――人気チームとそうでないのでは差もあるのではないか。

池井 特にCATVの放映権料は差が大きい。全国放送はシーズン試合をスポーツ専門チャンネルに6年間で851,000,000ドルの独占権、ポストシーズンの試合をFOXに6年間25億ドルで独占権を与えて、その収入はリーグと全チームに配分するが、CATVは個々の球団の収入になる。ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスのように大都市を拠点にしているところは多額の収入を得られるが、モントリオールやミネソタなどの地方が拠点だと苦しい。収入格差は50倍にもなる。ヤンキースのように自分で専門チャンネルを作ってそこでももうけているチームもある。

――最近では日本選手の活躍も目立っている。なぜ、急に日本選手が活躍できるようになったのだろうか。

池井 もちろん、野茂、イチロー、松井など非常に意志の強い選手が米国に挑戦し、日本球界のレベルも上がったことは否めないが、米国の事情があることも見逃せない。米国では、かつては運動選手にとっては野球が唯一の高収入を得られる花形スポーツだったが、今では、バスケットボール、ホッケー、アメリカンフットボールなど、能力ある若者が目指すプロスポーツが分散して、相対的に野球に集まる選手の平均レベルが下がったことは否めない。

 それにこれらの日本選手にとっては運も味方した。野茂が米国に渡ったときにはちょうど大リーグの選手が歴史的なストライキを打ち、春の時期、開幕が遅れた。これで野茂の調整が間に合い、最初から活躍することができた。イチローは三十年に一度しか回ってこない計算のオールスターが入団の年に本拠地のシアトルで開催されて、地元人気が後押しして新人のときから最高得点で選出されて注目度を高めることができた。

 環境も味方している。イチローは日本ではマスコミに追い回されてプレーに集中できなかったが、米国では私生活を邪魔されることがなく、のびのびと野球に集中できる。松井も日本食に事欠かないニューヨークで外国にいるハンデを感じずにプレーできる。

――大リーグの側も日本人選手の活躍は興行的にプラスになっているのではないか。

池井 それは大きい。日本人選手が活躍しそうなカードのチケットは大手旅行代理店がまとめて購入して、ツアーで動員できる。こういうファンはさまざまなグッズも購入してゆくし、収入面での貢献は大きい。さらに日本でのテレビ放映権料だ。6年275,000,000ドルの契約だ。これだけで年間50億円の収入が日本から大リーグに落ちる。大リーグにとっては日本市場は大切な市場になった。

――採算が厳しくなった、ということだが、米国では大リーグのオーナーになる、というのが栄誉なので、採算を度外視して球団経営をしているのではないか。

池井 かつてはそうだったが、最近はその傾向が薄れてきた。年俸が高騰して、個人ではとてもまかないきれないくらいに赤字が増えている。黒字球団は4つくらいだ。選手も、生涯1球団、という選手が少なくなって、フリーエージェント(FA)制度を使ってチームを渡り歩くようになった。選手に対する愛着も薄くなって、手放すオーナーが多くなった。現在ではほとんどが企業グループやその他のグループがチームを経営している。個人オーナーは見なくなった。ビジネスとして考えるから、赤字が大きくなると売り飛ばすし、逆に黒字が出ると良いチャンスだと、また、売りに出す。そういうビジネスの場になった。







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