■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=マルチメディア総合研究所所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。


再生医療への期待

 「不死への願望」は絶対権力をもった皇帝の時代から、人類の究極の欲望だった。老いと死は人間として生まれたからには、だれもそこから逃げることはできない。「早い遅い」の差はあっても、「だれにでも必ず訪れる」という意味では死の前にはだれもが公平だった。

 ところが「再生医療」の登場はこの状況を変えようとしている。

 もしかすると、臓器を入れ替えながら、人間は「不老不死」を手に入れてしまうのではないか。哲学や人生観は根本から覆されざるを得ない。宗教家や哲学者がこの動きに猛反対するのは理解できる。しかも、その極致は生命の根幹に関わるES細胞の培養によって実現されるとなると、いったん受精した卵子からES細胞を抜き取ることになる。育み始めた他人の生命を奪い取るものではないか。暴虐の皇帝の振る舞いをも超える人非人の仕業ではないか――そういう非難は、感情的にも、論理的にも湧き上がって当然だ。

 再生医療は単に不老不死だけではなく、機能障害に陥った臓器や器官を回復するための手段の一つである。ES細胞のような他人の生命にも関わる根幹の組織を使わなくても、自分自身の骨髄や他の部位の幹細胞を培養して施せる医療もある。また、機能欠如でなければ、不老長寿への他の手段もある。

 筆者の個人的な体験で恐縮だが、香りの優れた大輪の百合、カサブランカを庭に植えたことがあった。その年の楽しみが終わった秋口から、その付近が飼い猫のトイレの場所と化した。翌年、カサブランカは2メートルにも背丈が伸び、前年の数倍の大輪、見たこともない巨大な花をつけた。肥料を上げれば大きくなる、という単純なことではない。これまでもたっぷり肥料を与えたつもりだが、実は、何らかの原因で、本来持っているカサブランカの成長能力を阻害し、これまではカサブランカにとっては不満の残る成長しか、実現していなかったのである。カサブランカさん、ごめんなさい。

 これと同じことが人間にもおきてはいないか。人間も本当は数百歳の生存能力があるのに、さまざまな阻害要因が重なって、最高齢が百数十歳にとどまっているのではないか。古い伝承や記録によれば、古代の皇帝や王様には数百歳の長命の伝説がある。近代人はこれを非科学的な記述とし、誇張や願望の産物として一蹴しているが、そう解釈する近代人こそ、実は、真実の生命の姿を知らない愚か者ではないのか。

 再生医療の可能性が明確になるにつれて、人間そのものの生命力の問題を根本的なところから考え直させる。







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