■監修者・中島洋の深読み
中島洋
=マルチメディア総合研究所所長
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。
「築地」はロマンチックなイメージをもつ地名である。その周囲には高級料亭が並び、高級魚類を食材にした大衆料理店も軒を連ねている。現況を言うと、前者は大きく衰退し、後者は隆盛である。隆盛どころか、最近の築地ブームで、周辺には一般消費者向けの寿司屋をはじめとした専門飲食店が続々と開店し、これがさらにブームを加速している。
しかし、「築地市場」は単純ではない。築地市場には資格をもつ取引事業者や食料関係の専門家が利用する「場内」と一般の消費者も買い物ができる「場外」の2つの地域がある。東京育ちの筆者も年末の食品の買い出しには地下鉄を乗り継いで「場外」に出向き、マグロやかまぼこなどの海産物やお正月の惣菜などを買い込んでいた。上野の「アメ横」と築地の場外が年末の都民の「2大台所」だった。そのころは一般消費者が「場内」に入ることはなかった。
築地市場関係者によると、専門業者の聖地だった築地の風景はしだいに一般消費者の観光名所になり始め、さらに都営地下鉄大江戸線が開通したことで、大きく変わったという。地下鉄による築地の玄関口は、古くからある日比谷線の出入り口は「場外」のそばにあり、一般消費者は自然に「場外」へ向かった。しかし、大江戸線の出入り口は「場内」の前にあって、一般消費者の大群が「場内」に紛れ込むようになったのである。
若者向けのガイドブックや外国人向けの観光ガイドにも多数の案内が掲載されるようになった。最近、「場内」で目立つようになったのは一般消費者のほかに外国人の姿である。この変化には賛否両論がある。賛成派は、思い切って一般消費者に開放することによって築地の活気を盛り上げようという考え方である。これに対して、直接に取引に関係ない一般消費者の「場内占拠」は仕事の邪魔になる、という反対論も根強い。専門業者たちにとっては「聖域」に土足で入り込まれる思いも強いのだろう。
築地市場を豊洲に移転する議論の中でも、この正反対の意見は繰り返されている。新市場では、一般消費者が立ち入れる施設を充実させて、中央卸売市場に活気を取り戻させるというのが落着点だ。その解答は、場内の取引の現場を最初から観光としてみせる施設の設計にすることである。博物館を開設する構想もある。
いずれにしろ、築地は大きな曲がり角にある。一般消費者である筆者の考えとしては、おいしい料理を出す店が築地の周辺に多数、開店してきて、豊洲に市場が移転して行ってもこのおいしい料理店だけは築地に残る――これが理想である。
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