■監修者・中島洋の深読み
中島洋
=マルチメディア総合研究所所長
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。
角度を変えれば違った物流市場
筆者は1970年代後半、郵政省の記者クラブに配属されていた経済記者だった。当時、郵便小包の年間取扱量は1億6千万程度。年間増加率も人口増程度のわずかなものだった。郵政省の担当幹部の意見を聞くと、個別配送の需要はもう上限にきて「成熟した市場」という診断だった。そこで個別配送市場はこれ以上は成長しないものだと、筆者も信じたものだった。しかし、まさにそのころ、ヤマト運輸の「宅急便」は産声を上げていたのである。
結果としては、30年近く経た現在では年間30数億個、郵便、宅配便を合わせてざっと当時の20倍の市場に成長した。なぜ、このような見込み違いが生じたのか?
理由は簡単である。個別配送の商品がまったく別の商品に変身したのである。
従前の商品はどういう性格か。郵便局にわざわざ、それも日中の短い営業時間内に持ち込まなければいけない商品だった。荷造りを頑丈にしないと結び直してもう一度持ってくるように突き返された。お役所仕事の典型的な非常に頭の高い商売だった。その上、いつ届くかは分からない。2、3日か、遠隔地であれば1週間やそこらはかかるが、困ったことに、いつ届くかは保証の限りではなかった。
それが宅急便をはじめとした宅配便は、連絡すれば、いつでも集荷に来てくれる。コンビニエンスストアで、24時間、いつでも受け付けてくれる。その上、夕方までに依頼すれば、翌日には配達してくれる。最近では時間帯まで指定して届けられる。サービスの性格がまったく変わったのである。特に、いつ届くかが保証されたので、いままで思いつかなかったスポーツの道具が依頼の対象になった。スキー、ゴルフ道具などである。
こうした道具は、決められた日に確実に先方に届いていなければサービスが成立しない。従前の個別配達サービスのようにいつ届くか分からない状況ではだれも依頼しようと思わなかったし、仮に依頼しようとしても、寸法が大きすぎる、とお役所的に断られたはずである。しかし、明日届くのだから、重くて運ぶのに大変な道具は、ぜひとも依頼したい。最初は寸法が規格外だと断っていたサービス会社も規則を変え、準備を整えて新サービスとして開始する。冷蔵庫をトラックに載せて冷蔵品、冷凍品も取り扱うようになる。一挙に取扱品目は広がり、これを利用した通販ビジネスも発達し、一挙に市場を開拓したのである。
ビジネスを考え、市場を考えるとき、固定観念にとらわれていてはチャンスを逃す。市場の成長の限界を突破する新条件を発見すれば、そこには広大なビジネスチャンスが待ち構えていることを、「物流革命」の最近の歴史が教えている。
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