■監修者・中島洋の深読み
中島洋
=マルチメディア総合研究所所長
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。
自動販売機は日本が上である
米国に出張して最も頭に来る米国社会の未熟さは、自販機の質の悪さである。
自販機にコインを入れても商品はちっとも出て来ない。かといって、返却ボタンやハンドルを回しても、これまたコインは戻ってこない。80年代にこういう経験をしたころ、米国在住歴の長い友人に苦情を言うと、「米国では自販機はコイン・イーター(貨幣を食べる怪物)と呼ばれているのですよ」と大笑いされた。そう言われても、結構、自販機の姿は見かける。瓶入り、缶入りの清涼飲料水やスナック菓子などが自販機に入っていたし、記憶ははっきりしていないが、まだ、タバコの自販機もあったような気がする。
それだけ設置されているということは、「コイン・イーター」はすべての自販機のあだ名だったわけではなさそうだ。それなりに正常に作動するものは結構、あったはずである。ただ、おつりの出ないのは普通だったような気がする。
数年前に、ロサンゼルスでひどい目にあった。
できて間もない地下鉄に乗ろうと、ハリウッドの駅で切符の自販機に立ち向かった。25セント硬貨をかなり大量に投入しなければならない料金だったが、あいにく、そんなに財布には入っていない。おつりが出ないことを考えると、1ドル札を挿入口に入れるのも怖いと思ったが、ここは「仕方なし」と覚悟して1ドル札を入れようとしたら、なかなか読み取ってくれない。吸い込ませるのがたいへんで何度もしわを伸ばして、1枚目は何とか吸い込んでくれた。さて、おつりが出ないことを覚悟して次の1枚を挿入しようとしたが、今度は、しわを伸ばして何度、挑戦しても券売機は吸い込んでくれない。あきらめて、返却ボタンを押したが、これがなしのつぶて。もう、お札は戻ってこない。
こちらも約束の時間があるので、いつまでも紙幣と愛称の悪い券売機と格闘しているわけにも行かない。仕方なく、もう一度、財布やバッグの中、ズボンのポケットを洗いざらいして、コインをかき集め、別の券売機に向かったが、やはり、うまく行かない。
横目で見ていたところ、多くの乗客はチケットなしに改札から入場してゆく。そういえば、チケットなしに入っていって、中でチケットを購入すれば良いらしい、という話も聞いたことがあるので、入場してから購入すればよいか、と思ったところで、コインがうまく入って、チケットが出てきた。ほっとして、あわてて改札口からエスカレーターを走り下ってプラットフォームに出た。
走り始めて数分後、車内が急にざわめいてきた。検札が来たのである。チケットのない乗客は厳しい口調で何か係員と口論したが、結局、コインを出す者がいる。口論の結果、次の駅で引き摺り下ろされた乗客もいた。こちらはぞっとした。もし、チケットなしで乗車したらどうだったか。貧しい語学力では、自販機の不調を十分に伝え切れない。最後の段階で偶然、チケットが出てきたから良いが、そうでなければチケットなしで乗車しなければならなかった。すると、あの検札係りに引っ立てられたかもしれない。
その点、日本の自販機は素晴らしい。マイコン内蔵で、さらに高度に発展しつつある。彼我の格差を知る良い材料である。
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