■監修者・中島洋の深読み
中島洋
=マルチメディア総合研究所所長
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。
クリーンエネルギーの中身
自動車についての「クリーン」の意味はこの20年で大きく変わってきた。
最初に自動車の排ガス公害が問題になったのは「硫酸化合物(SOX)」「硝酸化合物(NOX)」の空気中への排出だった。工場の煙突からの排出ガスとともに大気汚染の元凶であることが認識された。60年代から70年代にかけては大気中に濃度が濃くなった硫酸化合物や硝酸化合物が夏の強い日照に反応して有毒な「光化学スモッグ」を発生させることが現実となった。いろいろな対策が打たれているが、これは今日も続いている。気管に障害を起こして「喘息」の被害者も続出した。
70年代、筆者は東京の甲州街道沿いに居住していたが、同居していた父は喘息が嵩じて、医者には「大原喘息」の診断をもらった。一帯は甲州街道と環状七号線が交わる大原交差点の近接地区で、井の頭通りもこれに加わって、大渋滞の常習地帯だった。停車中のエンジンが空ふかしする際に出す排ガスの中に硫化物、窒化物が含まれて空中に吐き出されて濃密になって付近の大気を汚染したのである。新宿の牛込柳町とともに大原は自動車公害の象徴的地区となった。
米国でも各地で同様の公害が発生していたが、ロサンゼルスでは消費者運動が展開されて厳しい排ガス規制の法律ができた。自動車もこの法律に従って「クリーンエネルギー」を要求されたのである。つまり20世紀後半の「クリーンエネルギー」の要求は健康被害をきっかけにしたものである。
しかし、20世紀の最後にいたって、事はそう簡単でないことが分かってきた。
製造工場や火力発電所から立ち上る煙や自動車の排ガスに含まれる炭酸ガスが今度はターゲットになった。地球温暖化の犯人として「炭酸ガス」が注目された。化石燃料の燃焼によって大量に生産される炭酸ガスが地球大気の温度をしだいに上昇させ、地球全体に異常気象を引き起こし、さらに海面上昇による人類文明の危機も招きかねない、という事態に追い込まれた。今回のクリーンエネルギーへの転換要求は、人類文明というより大きな視点に立ったものである。
クリーンエネルギーを求めての模索は、まだ始まったばかりといえる。
バイオマスのほかに、水素、風力、潮力、波力、地熱、太陽光など、実に多様なエネルギー源の研究が進んでいる。どれが本命なのか、いまは判断がつかない。一つのものに絞り込まれるのではなく、複線で進展して行く、というのが正解なのかもしれない。
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