■監修者・中島洋の深読み
中島洋
=マルチメディア総合研究所所長
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。
競争政策の落とし穴
規制緩和によって新規参入者を増やし、市場を活性化する――競争政策の導入はいくつかの産業で成果を挙げつつあるが、しかし、競争の過当化、つまり行き過ぎには注意が必要である。競争力を失った者が長期的には脱落して優勝劣敗、淘汰が進んでゆく、というのは、あくまで机上の理論である。市場が淘汰を進めるうちにサービスの低下が大きな事故につながることもあるからだ。それが社会に大きなダメージを与えることがあっては大変である。ましてや人命に係わることが起きては取り返しがつかない。
筆者の20年も前の経験である。米国の航空業界が規制緩和(デレギュレーション)によって多数の航空会社が登場し、路線ごとに料金低下競争が激烈になって一挙に航空運賃が引き下げられた後のことである。
ニューヨークから近隣の地方に行く航空券を求めようとすると、ニューヨーク駐在の同僚が「××会社の飛行機には乗らないほうが良いよ」と忠告してくれた。ところが何気なくチケットを購入して空港に行くと、その「××会社」のプロペラ機だった。乗客20人程度の小型機で、内部も汚れていた。番号にしたがってシートに座ると、折りたたまれたテーブルの裏側にはタバコを押し付けたこげ跡が点々とついている。
滑走を始めたプロペラ機は走れども、走れども、飛び上がらない。このままでは海に落っこちてしまうのではないか、と不安になったころ、急ブレーキがかかってプロペラ機は飛行を中止した。早口の英語の放送でよくは聞き取れなかったが、エンジンが不調で、いったんフィンガーに戻る、ということだった。結局、待合室まで戻ったが、機材を交換して1時間半ほど遅れで出発することになった。交換した飛行機も全く同型だったので、何だ、前のものをそのまま使うのか、と思って同じ番号のシートに座ると、目の前のテーブルのタバコのこげ跡の位置が違う。やはり、交換したのである。今度は無事に飛び立った。
その2日後。新聞の特集記事をみて目をむいた。「××会社」の飛行機だけがなぜ、よく落ちるのか、という特集記事だ。前日も、ニューヨークから私が乗った航路を経て、巡回するプロペラ機が落ちたのだが、半年で6、7回目の事故で、今回は住宅街に墜落したとかで、被害が大きく、特集記事が組まれたようだ。もしかすると、私が乗って、途中でエンジン不調によって飛行を中止した機材が、このときは幸運、ではなく、不運にも飛び上がってしまって、空中でエンジンが停止したのではないか。あの時、飛び上がっていたら、そのまま無事に目的の飛行場に到着しないままに終わったかもしれない、と思うと、ぞっとした。
その特集記事の結論は、行き過ぎた競争が安全を犠牲にさせた、と、過剰な競争政策に強烈な批判を加えたものだった。規制緩和も、安全のための検査、点検、整備とバランスをとって進めなくてはならないだろう。安全を犠牲にした料金競争を乗客は求めていない。
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