■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=マルチメディア総合研究所所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。

バブルは思考力を停止させた

 1980年代から90年代にかけての日本のバブル経済はすさまじかった。それを実感させたのは土地価格の暴騰である。その時代を象徴したのが「日本を売却すると米国が4つ(あるいは5つ)買える」という言葉である。日本全土の土地価格が暴騰したので、日本全土の土地価額を総合計すると米国の土地価額総額の4倍から5倍になるというのである。それなら日本の5分の1を売却して米国を丸ごと買ってもらおうか、と開き直ったものである。そんなことは起きるはずがない。結論が間違っているということは、この土地価額の算定方式そのものが間違っている、ということである。

 当時、日本経済新聞の記者をしていた筆者らの周辺では、こんな異常なことは長続きすることはない、という意見も強かった。しかし、その後に、「米国は土地が広大だが、日本の国土は狭くて供給は有限だから日本に特徴的に起こっても不思議はない」「土地は製造できないので供給には限界があるが、需要は減ることはないので、土地は上がることはあっても下がることはない」というもっともらしい主張もはびこった。「バブルはいずれはじける」という主張と「すでに高い土地価格、株価は経済構造に織り込まれたので、下がることはない」という主張とが激突したのである。

 この時代に土地を持てる者と持たざる者との資産格差が拡大した。土地を持つ資産家のうちには、これを売却して多額の現金を手にする人が出てきた。売却しなくても、運用して利益を上げる人たちも出てきた。それも大量に生まれた。マンションが高額で売れ、オフィス経費が高騰したのでビル建設ラッシュが起きた。地上げによって、都市部の商店が追い立てを食ったが、代わりに多額の現金も手にして、郊外に移転した。郊外の土地もまた高騰の波に巻き込まれて行った。

 土地、住宅、別荘、株式、相場商品、ゴルフ場の会員権、宝石、絵画、芸術品、為替など、バブルの波は広範囲に広がり、はじけた後の打撃もまた、深く、広いものになった。

 途中で、何度も、こうした異常は長続きするはずはない、と冷静に指摘する声は多数、聞かれた。しかし、一度、転がり始めたバブルには皆、冷静さを欠いてしまったようだ。明らかにバブルは思考を停止させる魔物である。いつまた、この魔物が暴れだすのか。景気の回復とともに、この魔物のコントロールも重要なテーマになってくるだろう。







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