■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=MM総研代表取締役所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。

「有害情報取締り」の社会的許容度


 監視カメラのケースはどうだったか。鉄道駅や小売店頭、繁華街の街角などに監視カメラが設置される、と報道されたときには学者や人権問題の運動家などからは猛烈な批判があった。「プライバシーを侵す危険がある」とする主張は、今日でも変わっていないと思うが、すっかり沈黙している。殺人事件が起こった後、駅頭のカメラや銀行、コンビニの店頭カメラ、あるいはマンションのエレベーターのカメラなどに映っていた映像を参考に事件がスピード解決するケースが目立って増えた。犯罪そのものを減らす抑止効果がどの程度あるかは分からないが、警察の犯人割り出し、事件解決に役立っていることは確かである。これだけ実績があると世論は監視カメラの推進を支持する。反対派も取り立てて騒ぎ立てる状況にはないと、しばらく様子見を決め込んでいるようだ。世論がどのように監視カメラを支持しても、プライバシーが侵される危険が減っているわけではない。

 監視カメラとプライバシー論争では、青柳武彦氏(前国際大学グローコム教授)が、プライバシーは絶対的な基本的人権ではなく、社会公共の利益との兼ね合いで許容度が決まる、と明快に分析している。この見解によれば、監視カメラの社会的価値が大きくなった現状では、プライバシーが制限されても妥当だということになる。

 翻ってインターネットの有害情報の取り扱いである。同じ論点から行けば、インターネットを飛び交う有害情報が引き起こす事件の大きさが許容限度を越えれば、表現の自由などの基本的人権も何らかの制限を課されることは避けられないだろう。問題は、監視カメラのような、世間が支持しやすい分かりやすい方法論があるかどうかである。たいした効果もない規制だけが闊歩して、表現の自由や情報に接する権利などの基本的人権が必要以上に制約されることにならないか。

 インターネットで有害情報を流す仕掛けを作るものも、また、それを悪用して悪質コンテンツを流すものも、実は巧妙である。出会い系サイトや掲示板なども、規制をいくら作っても抜け道を編み出してゆく可能性がある。それをモグラたたきのように追いかけているうちに、過剰な規制に走りはしないか。心配は尽きないのが新しい社会の宿命である。





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