■監修者・中島洋の深読み
中島洋
=MM総研代表取締役所長
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。
「食材高騰」は構造改革の好機
「食料自給率」の計算方法はいろいろあるようだが、実感として、日本の「食料安全保障」はまったく無いに等しい。カロリーベースで計算すると39%と、50%を大きく下回り、3分の1に近づいている。あまりに単純な議論をすると、もし食料封鎖が行われれば、日本人の3分の2は食べるもがなくなるかもしれない、ということだが、もちろん、これは単純すぎる。現在は大豆、トウモロコシ、小麦など主要穀物の大半は輸入に頼っているが、これを食べているのは必ずしも人間だけではなく、多くは鶏や牛、豚などである。これを人間の食料に回せば備蓄を使うだけで時間稼ぎはできる。その間に国産の農産物を増産し、肉食に偏ってきた食生活を見直すことによって何とか切り抜ける道を見出せるのではないか。
3分の2が飢え死ぬかもしれないというのは、何とかできるかもしれないが、輸入穀物を人に回す、ということになれば、畜産農家は飼料調達ができずにたちまち行き詰まるし、肉食に慣れた消費者の嗜好は急には転換できずに、少なくなった食肉を争って急騰し、食肉を「食べられる人」と「食べられない人」の間で「社会的不公平」の不満が高まるだろう。こうした事態に、果たして、社会秩序が保てるのだろうか。
食料は生産国が必死に売り先を探しているので、日本国内では国際水準よりはるかに高い生産費を払ってまで農産物を作ることはない、と美しい平和と国際協調の中で工業立国の日本は農業を縮小すべきと主張され、事実、農地の多くの部分が休耕田に追い込まれ、成長性が見込めない農業への労働人口流入は細くなって、農業は存続の危機を迎えたのである。
そこへもってきて、一連の食料危機が日本を襲っている。輸出禁止を決めた国はごくわずかだが、農産物輸出国でも価格が高騰し、輸入大国である日本の消費者は輸出禁止に近い打撃を受けつつあると見てよいだろう。
ことここに至っては、日本の農産物の長期的な安定策、つまり、食料の安全保障を考えなければいけない。農業の再生である。荒れた耕地を再び利用するために作り直すのは容易ではないだろう。しかし、これまでは減反一方で、その議論さえ行われなかったのだから、内閣からさえ、日本の農業の見直しを言い出す論者が出てきただけでも大きな変化である。
日本の農業をどうするのか。穀物高騰は痛手だが、日本の長期ビジョンを実態のあるものにするための、良い試練でもある。もちろん、小売事業者にも数々のアイデアを実現して、新しい構造を作るヒントを提供してもらいたいものだ。
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