■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=MM総研代表取締役所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。

PBの昔の話題


 筆者が農林水産省の記者クラブ詰めの駆け出し記者時代のことである。

 ある日、取材の付き合いが深かった中堅の調味料会社の社長から電話があった。すぐに来てくれという、怒りの電話である。何があったか知れないが、農林水産省から徒歩10分ほどのその会社の本社に出向いた。社長室に通されて驚いた。いつも見慣れた光景ではない。壁際にぐるりと置かれたテーブルの上に同社のヒット商品である即席味噌汁の袋がずらりと置かれている。よく見ると包装紙に描かれたデザインが少しずつ微妙に異なっている。

 当の社長の説明によると、ヒット商品の即席味噌汁の袋のデザインを決めるまでに実際に使った、デザインの候補だそうだ。ざっと200点のデザインを作ってもらい、モニターに意見をもらいながら、比較検討し、ようやく1点に絞り込んでデザインを決定したというのである。1点のデザイン料が10万円として、そのデザイン開発だけで2000万円をかけている、というのである。

 「それなのに」と、怒りの理由はここからはっきりする。ノーブランドばかりを集めた倉庫のようなラフな作りの店舗を某大手スーパーが開いたが、そのノーブランド商品の包装のデザインはどの商品も超一流の食品の袋を少し変えたパクリで、なんと商品名までが一字だけを変えた類似名で、「こんなパクリを許せるのか」というのである。もちろん、値段は30%ほどは安い。「こういう暴挙を許すどころか、新タイプの低価格商品と持ち上げる新聞はケシカラン」と怒りの矛先は新聞に向かった。

 同様にいくつかのメーカーの役員から怒りの電話をいただいた。デザインや商品名をめぐる激しい議論になったが、結局、この勝負は一流メーカー側の勝利に終わり、このノーブランド店は不発に終わった。

 メーカー側の言い分は、「包装紙デザイン、商品名」が類似しているため、消費者が錯覚する。錯誤を誘発する公正取引上の問題、あるいは景品表示法の問題だという。さらに、低価格品で質が悪く、一流品と錯覚して購入した消費者が、一流品がここまで質を悪くさせている、と錯覚する恐れがあり、信頼毀損を起こす可能性がある。誤解と損害を与える。営々として築き上げたブランド信用を侵害するというものだった。

 この一件があって以来、こうした行為は見ないが、筆者としては、ブランド育成やブランド力維持のために投資をするメーカーの意気込みを深く感じ入ったしだいである。





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