■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=MM総研代表取締役所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。


 本当の変革は危機の際に成功する。それも危機の深さが大きければ大きいほど成功する確率は大きい。逆の発想で行けば、危機でしか本当の変革は起こらないかもしれない。たまには、たいした危機ではない時期に変革を成功させた例があるようにみられるが、それは変革の主導者が「危機」を巧みに演出したからである。

 日経新聞の経済記者時代の経験で言えば、大幅な人員削減を行う場合には、実態以上に経営見通しを厳しく内部で説明して、経営者が危機を演出するケースをしばしば目撃したものである。賃上げをめぐる春闘の動めきが始まる年末から新年にかけて、経営陣は春以降、翌年度の経済見通し、景気見通しを渋めに発表する。アンケート結果を集計する際には、「また経営陣は牽制球を投げているな」と感じたものである。

 しかし、現在の危機はどの経済指標をみても、本物の危機である。経営者が演出する暇はない。従業員にもその危機は染み込んでいる。国民全体にも浸透している。従来の構造を守ろうという思考の人はもちろんいないわけではないが、「大きな声になる」というほどに数はいないだろう。大きな変革期にできる好機なのである。

 好機の一つが、かつて日本の得意だった製造業、特に技術の見直しである。製造業の多くは国際競争力の自信を失って、製造業の中心的な事業を過度にアジア諸地域に移管してしまったのではないだろうか。米国を模範に日本の未来を予想する一部の経済学者や企業家は、90年代から2000年代初頭の米国をみて、次の日本の繁栄は金融サービスだと錯覚し、米国同様に製造業を軽視した。しかし、元々、日本の製造業は米国とは性質が違っていたのではないだろうか。工場の現場、製造の現場にはアイデアが豊富で芸術性が高く、また精密な作業を経験の積み重ねで高度に磨いてきた技術者の伝統がある。それが生きながらえているうちに、幸いなことに、未曾有の危機が到来した。製造業を捨てて未来があるわけではない。製造業の中から次の未来の芽を見つけ出して、それを育ててゆくのが、危機突破の打開策である。これまでの常識を覆して、死蔵してしまったかに見える技術を発掘するのが、変革の出発点である。

 今回の取材を通じて、その思いを実感した。






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