■監修者・中島洋の深読み
中島洋 中島洋=MM総研代表取締役所長

1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。産業部で24年にわたり、ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。97年-02年慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。02年-04年、国際大学(グローコム)教授を務める。現在、MM総研所長、日経BP社編集委員、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。

無在庫経営への遠い道

 20世紀の末から21世紀にかけて米国経済は復活し、ITのミニバブルが起こって新しい好況のステージに突入した。その好況はITによるもので、従来の景気循環を脱却したものである、として自信に満ちた「ニューエコノミー」の宣言がなされた。インターネットによって供給と需給の調整が効率よく進行して、無用の在庫を抱えなくて済む経済システムが完成した、というのである。

 日本でもトヨタ自動車の在庫をもたない適切な発注方式である「カンバン方式」が経営モデルとして普及していた。「無在庫経営」あるいは「リーンマネジメント」などともてはやされた。「カンバン方式」はネットワークを駆使したSCM(サプライチェーンマネジメント)へと発展して、「無在庫」とは言わないにしても「減在庫」経営が実現したと評価されたのである。

 しかし、その幻想が壊れたのが、2001年の「9.11同時多発テロ」による物流の混乱だった。計画生産を前提にした極端な在庫圧縮によって物流の混乱は各所で部品、原材料の調達難に陥って生産現場は混乱し、卸売、小売店頭でも品不足が広がった。「減在庫」は突発的な事件に弱点をさらけ出したのである。テロ、戦争、パンデミック、そして突然の経済恐慌である。

 昨年のリーマンショックも突発的な事態だった。予想外の需要の減退である。自動sy業界でみると、ガソリンの高騰による高級車の需要減に加えて、リーマンショックによる不況で一挙に需要が冷え込んだ。世界の主要な自動車メーカーが大赤字を記録して、重大な危機に直面するメーカーが何社も出たのも無理はないだろう。

 ネットワークを基盤にした「減在庫」経営も、こうした予想できない突発的事態を織り込むことはできないのか。減在庫も難しいとなれば、「無在庫経営」など遠い夢のようである。






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