インタビュー
赤羽 博さん 監督

完成まで、まだ少し作業は残っていますが、今のお気持ちをお聞かせください。
無事に終わって良かったな、という気持ちがありますね。
時代劇は今回が初作品とのことですが、
依頼があった時のお気持ちはいかがでしたか?
今年の4月の終わり頃にお話があったんですが、時代劇をやったことがないので、素直に時代劇もやってみたいなと思いましたね。時代劇には興味があったんです。作品でも時代劇は嫌いじゃないし、観ていても面白いな、と思いますし。
「人の気持ちを描く」ということでは、現代劇も時代劇も同じだと思いますが、
実際に監督をされて、時代劇と現代劇に違いはありましたか?
ありますよ。もちろん、「人の気持ち」は今も昔も変わらないので、現代劇をやる時と同じように演出をやるんですけれども、実は僕の中での「男らしさ」や「女らしさ」というのがあって、今はどちらも希薄なんじゃないのかな…というふうに思っていたんです。
僕らのような仕事をやっていると、助監督さんでも男性はあまりにも早く挫折しちゃって、女性は粘り強く残っているんですよね。「何だろうな。どうしてこういうことになったんだろうな。どうしたらいいんだろうな」って、現代劇でもいろいろやってはいたんですけれども、それが時代劇をやって「すごくシンプルだな」と気が付いたんです。男が男らしくなれば、女性も女らしくなるんです。
つまり、黒田官兵衛と竹中半兵衛は「人を裏切らない」「信義を通す」「それが世のため人のためになる」ということを信じて、それに真っ直ぐ向かっている。男達がブレないから、女性は自分の役割をきちんと果たしていける。やり通すことは簡単なことではないけれども、「男性陣よ、頑張れ」って思いますね。
パートナーや恋人がそういう男性だったら、女性も凛としていられるでしょ。「らしさって何?」って問われれば、いろいろあるだろうとは思いますけど、この作品を撮って、観てくださるお客さんがそれを感じてくれたらいいな…と思います。
僕としては、もう何十年も監督をやっているのに、改めて時代劇を初めてやったという経験で、「なんだ、シンプルなんだ」って、自分の中にはとても心地よく爽やかに入ってきました。面白いと思うんです、この作品は。だから自信を持っています。時代劇はこれからもっともっと増えるかもしれないな、とも思いましたね。
そういう意味では、官兵衛と半兵衛、それぞれの夫婦のシーンが印象に残る作品だとも感じるのですが、監督がこだわった点はありますか?
官兵衛と光は、よくあるノーマルな夫婦像ですよね。それは僕の中にもありますから、官兵衛と光の夫婦関係はそんなに苦労はしませんでした。
半兵衛とちさについては、どの半兵衛のどの位置までなら、ちさは受け止められるんだろうか、というのがあるでしょ。尾西(兼一)さんはそれを脚本の中で、「香の物」で夫婦の関係を上手く出したなと思ったんです。だから「香の物」のところは、こだわりました。
「香の物」の最後のシーンは、「もうこれで会えないな」ということを(山本)耕史君と(京野)ことみちゃんは表情だけで表現しなきゃいけないんです。現場でそう説明したら、その通りのいい顔をしてくれましたね、2人共。別れは笑顔で。そうすれば安心して半兵衛は仕事ができるという、その妻の役割をきちっとちさは果たすんです。男の勝手な言い分だな…とは思いますけど、でもやっぱり、自分のやることをどうやったら理解してもらえるかというと、さっきも言ったように、人を裏切らず、信義を通し、自分の仕事を全うするということですよね。そういう姿は女性にも伝わるんじゃないかな、と思います。この最後のシーンは、僕は何回も観てるのに、何回観ても泣けますね。
半兵衛のことを好きになってしまう楓も、自分の気持ちを抑えるお芝居。それは身分の差があるとかいうことではなく、楓の中での佇まいであって、貫地谷(しほり)君もいい味を出してくれたなあと思ってます。だから、僕は男性陣もいいけど、今回の女性陣は、皆、面白かったですね。
高橋克典さん、山本耕史さんの印象はいかがでしたか?
耕史君は天才肌かな。こちらの言ったことを表現する時、意図をわかってくれて、とてもいいお芝居ができる人だから。今回の作品でも、しっかり半兵衛の世界の中に入ってくれましたね。耕史君とはまた次も仕事したいな、また別の作品に挑戦してみたいな、と思います。
克典さんは、大好きだね!僕は、あんなに一生懸命な人は絶対的に好きです。だから監督と役者さんという関係じゃなくて、人として「この男、魅力がある」と思います。
監督が高橋さんご本人に感じられた印象が、
今回の作品では役にも生きている気がするのですが。
そうですね。ですから、官兵衛というのは人間臭くて、おっちょこちょいで、余計なことをしゃべっちゃってはいるけれども、本当に生涯、人を決して裏切ってませんからね。それを克典さんもよくわかっていて、若い時から最後までを演じきってくれたなと思います。
他にも多くの方が出演されていますが、印象はいかがでしたか?
西田(敏行)さんは、やっぱり上手いですね。気持ちからお芝居ができる人だから。その気持ちが乗るような環境を、こっちが作らなきゃいけないんですけど、多少、僕の中でそれが手抜きのようになってしまっても、西田さんはちゃんと押さえてくれるので助かりました。ですから、豊臣秀吉、黒田官兵衛、竹中半兵衛、3人の物語として面白くできたかな、と思います。
織田信長の加藤雅也さんも、長い時間、話し合いましたよ。「なぜ信長は、明智光秀ごときを相手に逃げられなかったのか、自分は不思議で仕方がない。監督は、どう思います?」って言うから、「信長は宇宙人だったんだよって。宇宙人でやろうよ」というような話をしましたね。
この仕事は1人じゃできないんです。僕が1人で頭の中で考えたもの、それだけで作品を作っても面白い訳がないんですよ。カメラマンも照明も音声も、そして今日やっているような音楽を入れてくれるMA班も、スタッフ皆があって初めて作品は出来上がるでしょ。そして、それぞれが演出家なんです。
役者さんも、台本に沿って何を言いたいかということを考え、自分の役を突き詰めてその人間に成りきるわけですから、やっぱり演出家になるわけですよね。もし僕と役者さんに何か差があったら、必ずよく話し合ってその差を埋めること。向こうがよければ、僕がそっちへ行けばいいし、僕はそれをチョイスするだけですから、だから「監督」なんだろうね。現場監督ですよ。
今回、多くの有名武将が出てくる中で、例えば明智光秀や石田三成についても、丁寧に描かれたとお聞きしたのですが。
明智光秀にしても、石田三成にしても、知らない人はいないじゃないですか。今回は出演シーンも少ないですし、その生き様というのは、官兵衛と半兵衛の物語の中では描ききれないですよね。この2人の生き様で精一杯ですから。
でも、あまり簡単にさっといなくなっても何か物足りない。やはり、どこか印象付けなきゃいけないという思いはありました。光秀も三成も、それから(中村)雅俊さんの清水宗治にしてもそうだし、づめ(橋爪功)さんの黒田宗円もそうだし。
ただ、今回はこれまで一緒に仕事をした人達が多かったので、そういう点では楽でした。奥貫(薫)君にしても、ことみちゃんにしても、余(貴美子)さんもそうだしね。
監督が思われる時代劇の良さがあればお聞かせください。
気持ちのシンプルさを「語れる」じゃないですか。現代劇だとちょっとクサイなと思えるような台詞も、扮装をして鬘(かつら)をつけてやる時代劇だと、これだけ言いたいことをストレートに言えるんだなと思いますね。
あと、夢もあって、いっぱい「作れる」でしょ。書物に書かれているのは、勝った人達の歴史ですからね。その人は生きてないわけだから、誰も知らない世界なんです。そこに埋もれているものを発掘して、何かできたら面白いでしょうね。
どんな時代劇でも、話があればやりたいです。人物についての本も、今までは漠然と読んでいましたけど、もっとその人物にスポットを当てて読みたいな、と思っています。掘り下げていけば、面白いかもしれないですよね。
監督ご自身が、この作品を通して伝えたいのは、
やはり「男らしさ」「女らしさ」でしょうか。
その一語に尽きますよね。絶対、「らしさ」です。男性が頑張れば、女性も変わるんだということです。それを、観て感じてくれたらと思います。
ですから、年配の人達だけじゃなく、若い人達にも観てほしいですね。
放送を楽しみにしている視聴者に向けてひとこと!
観てください!それだけですね。シンプルに、ストレートに!