「国盗り物語」は、司馬遼太郎が、40歳の時から書き始めた作品です。テンポの早い壮年期のダイナミックな作風は、エネルギーに満ち生き生きしたドラマを誕生させました。
 原作は第1巻から第4巻まであり、前半は斎藤道三編、後半は織田信長篇となっています。年代にして、永生14年(1517)から天正十年(1582)までの66年間、まさに下克上の時代の歴史ドラマです。 

斎藤道三は、一介の油商人から身を起して、主君・土岐頼芸を助け、守護職の土岐政頼を追い出しますが、次にはその頼芸を放逐し、美濃一国の国主に成り上がります。その容赦ない権謀術数は“蝮の道三”と恐れられます。しかし、天下盗りへの夢は、息子・斎藤義竜によって破られます。その夢を継ぐのが、娘婿・織田信長と、幼い頃から英才教育を施した明智光秀の3人です。
斎藤道三という1つの根から生れた2つの分身が信長と光秀です。道三の託した天下布武の夢は、信長によって天下統一目前と言うところまで達しながら、歴史の皮肉というべきでしょうか、道三のもう1人の分身、光秀によって本能寺で絶たれてしまいます。そして、その光秀もまた、天王山に敗れて天下から落ちていきます。

道三、信長、光秀、この3人の武将は、トップリーダーとして三様に特色を持っています。道三は、開拓者としてゼロからスタートしたリーダーです。楽市・楽座など既存の商業機構の権威主義と戦い、言わば自由流通経済を初めて進めようとした人物です。一方、伝統的な文化や様式を重んじるバランス取れた指導者でもありました。信長は、卓抜した行動力とその強烈な個性で既存の権威を否定し、新しい秩序や価値観を生み出す革命児でした。一方で、徹底した合理主義的な考えで日本を中世から近世へと押し上げていったのです。光秀は、当時、最も優秀なインテリであったと考えられます。当初は、足利幕府の再興を主眼に天下盗りを目指すなど、伝統的価値を尊重しつつ新しい鉄砲術や軍略を備えた指導者でもありました。
この3人が方向付けした天下が、秀吉、家康へと継がれていくのです。

「国盗り物語」は、この3人のリーダーたちが天下へ挑戦していく激動の物語です。
道三は、63歳。信長は、49歳。光秀は、56歳。各々その生涯を生き抜きました。
斎藤道三は、主君・頼芸を追放する時に、次のような言葉を発しています。
「時代だ。時代のみがわしの主人だ。時代がわしに命じている。時代とは何か。天と言いかえてもよい」

日本の経済発展に貢献してきた熟年世代には、彼らの生き様はどのように映るのでしょうか。現代は、ファジーで価値観の定まり難い時代かもしれません。強烈な個性を持ったトップリーダーは私たちに新鮮な感動を与えてくれます。そして、その孤独と愛と哀しみと人生と、そして時代劇の楽しみを「国盗り物語」は感じさせてくれると確信します。

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