不染鉄(ふせんてつ)「山海図絵(伊豆の追憶)」

数々の名画を生んだ富士山。縦1m86cm横2m10cmの超大作、不染鉄(ふせんてつ)『山海図絵(伊豆の追憶)』は、そのどれとも違う、摩訶不思議な富士の絵です。手前に見えるのは伊豆半島沖の太平洋。真ん中上部に霊峰富士がそびえ、裾野にはのどかな農村が。富士の背後には、能登半島、日本海の奥のほうまで霞んで見えます。まるで宇宙から見たような壮大な視点です。

近づいてみるとさらなる驚きが。満員で走る汽車、晩秋の風情から網の手入れをする漁師の姿まで、人々の様々な営みが細かく散りばめているのです。まさにマクロとミクロの見事な融合!
そんな不思議な富士を描いた不染鉄は、転々と住処を変え、放蕩を繰り返し、波乱万丈の人生を送ったことから“幻の画家”と呼ばれました。でも絵だけは描き続けたのです。

『山海図絵』は34歳の時の作品。独特な雰囲気を漂わせたこの世界観は、一体どこから生まれたのでしょうか?
この作品をよく見ると、さらに不思議なことが。俯瞰だったり真正面だったり、1枚の絵に幾つもの視点があるのです。なぜ画家はこんな不思議なことをしたのか?そして作品の副題“伊豆の追憶”に隠された意味とは?