あらすじ
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昭和21年、春…私立探偵・金田一耕助は、復員船の中で死亡した戦友・鬼頭千万太(きとうちまた)に託された手紙とある遺言を胸に、江戸時代300年を通じて流刑の地とされてきた瀬戸内海の孤島・獄門島へやって来た。
千万太は、島の網元である鬼頭家の本家(本鬼頭)出身で、千万太の戦死を報せに訪れた金田一は、そこで千万太の従姉・早苗と出会う。家には千万太の三つ子の妹である花子・雪枝・月代という美しくもどこか尋常でない三姉妹と、先代・嘉右衛門亡き後当主を継いだ与三松がいたが、与三松は離れの座敷牢で病に伏せており、出入りは早苗しか許されていなかった。また早苗の弟・一(ひとし)も出征していたが、先日、半月後に帰還すると戦友から朗報を受けたばかりだった。
金田一は仙光寺の了然和尚、村長・荒木真喜平、医者・村瀬幸庵と連名された千万太の手紙を当人たちに手渡した。仙光寺にしばらく滞在することになった金田一は、本鬼頭の分家・分鬼頭(わけきとう)に、了然の使いで今夜、千万太の通夜が行われることを伝えに行く。本鬼頭と仲の悪い分鬼頭には、当主・儀兵衛とその妻・志保、そして志保と常に行動を共にしている居候の復員兵・鵜飼がいた。
その夜、千万太の通夜の席で花子の姿がみえなくなる。捜索を始めた矢先、仙光寺の梅の古木に帯で逆さ吊りにされた花子の死体が発見される。首には絞められた痕と後頭部には殴打の痕もあった。雨が降り始める中、金田一は了然に連れられて庫裏に行き、そこでコウモリ形をした兵隊靴の足跡を見つける。さらに境内では、英語の字引きで巻いてある煙草の吸殻数本が見つかった。了然は、その煙草は早苗が与三松のために巻いたものだと告げる。
翌日、死体は殺されてから5,6時間経過していて、犯行時刻は昨夜6時半から7時半の間と判明する。花子の懐には、差出人に「御存知より」と書かれた月代宛ての付け文があり、中には月代を寺へ呼び出す内容が書かれていた。了然らは、分鬼頭の手先となって三姉妹を誘惑している鵜飼が志保に言われて書いた手紙だと推測し、この手紙で花子を寺に呼び出して殺したに違いないと考える。しかし金田一は、月代宛ての手紙を花子が持っていたことが不思議だった。後にその付け文は、確かに鵜飼が書いたもので、付け文の中継点と呼ばれる場所に置いたことが判明する。
金田一は人知れず無念さを噛み締めていた。「俺が死ねば妹たちは殺される。どうか妹たちを助けてやってくれ」…実は金田一は、千万太にこの遺言を託されて島にやって来たのである。その遺言通りに花子が殺された。あとの2人を守るために捜査を進める金田一は、現場に残されていた煙草が、与三松の枕元から盗まれたものだったことを突き止める。さらに与三松のいる離れの庭先で、仙光寺で見たものと同じコウモリ形の足跡を見つける。
金田一は、島の駐在員・清水巡査に本鬼頭の血縁関係を聞く。三姉妹の母親・小夜は女役者で、何故か島の人々から忌み嫌われていた。小夜は与三松の後妻で、本鬼頭の第一後継者だった千万太の義母にあたる。しかし小夜が来てから本鬼頭は災難続きで、先代・嘉右衛門が病に伏したことから小夜への風当たりは一層強くなった。その後、小夜は奇病で亡くなり、その妄念に引き摺られるように嘉右衛門も死亡。島にとって嘉右衛門の存在は絶大だっただけに小夜への恨みは巨大化した。
そんな中、金田一は花子殺害の重要容疑者として清水巡査に留置場に入れられてしまう。その合間を縫うように、無残な第2の殺人事件が起こる。「天狗の鼻」と呼ばれる、海に突き出た崖の上に置かれていた仙光寺の吊り鐘の中で、雪枝が死体となって発見されたのだ。
ちょうど東京で起きた兵隊の女中殺しを追って島に来ていた警視庁刑事・等々力警部と共に、金田一は現場へ急行する。
雪枝は吊り鐘から振袖がはみ出た状態だったが、外の着物は濡れているのに、なぜか中の着物は乾いていた。鐘は大人数人でようやく持ち上がるほどの重さだが、金田一は一人でも犯行が可能なことを証明する。その様子を見ていた志保は「本鬼頭を手に入れ損ねた小夜の祟りだ!」と叫ぶ…。
小夜が好んで踊った「道成寺」の舞に登場する鐘を思わせる怪事件、一連の事件は小夜の霊の仕業なのか?悪夢のような連続殺人の裏に隠された真実とは?そしてさらに起こる第3の殺人…事件解決に苦しむ金田一は、ふとしたことから仙光寺の屏風に貼られた3つの俳句と連続殺人との意外な接点に気付く。孤島に潜む忌まわしい言い伝えに、名探偵・金田一が挑む!
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