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「ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)では、新企画「イノベンチャーズ列伝」がスタート! 社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。そこで、気になる第10回の放送をピックアップ。
東京・江東区のカフェでランチを楽しむ、会社勤めの女性たち。その1人が熱心にスマートフォンの画面をチェックし始めた。「VRが、めっちゃ上がってる」。画面にあったのはグラフと数字。「株を最近始めたので、どれくらい変動しているかを見ていました」。
※ランチを終えた女性たち。その場で株価の動きをチェック
彼女が使っていたのは「FOLIO(フォリオ)」という株式投資アプリ。最大の特徴は、株式投資なのに「VR」や「eスポーツ」「カジノ解禁」といったテーマだけを選んで投資する、という点だ。「テーマやカテゴリーを応援する気持ちで始められるので、やっていて楽しい」と先ほどの女性。このアプリで投資の"初心者"を株の世界に導くのが、ベンチャー企業の「フォリオ」。設立から3年足らずの、オンライン証券会社だ。
※株式投資アプリ「フォリオ」。利用者が選ぶのは「テーマ」だけ、というが...
フォリオを率いるのは、創業者の甲斐真一郎CEO(36歳)。大学卒業後に外資系の証券会社へ就職、10年ほど債券トレーダーとして経験を積んだのち、2015年にフォリオを創業した。
※創業者の甲斐CEO(右)。「元プロボクサー」という異色の経歴も持つ
WBSの片渕茜キャスターが改めてフォリオの特徴について尋ねると、甲斐氏は「投資は売上高や経常利益といった少し難しいものを分析しないと始められないが、(フォリオでは)自分の好きなもの、ピンとくるテーマを選んでもらう」と説明する。実際、フォリオのサービス画面を見ると「VR」「働き方改革」といった時事的なキーワードのほか、「寿司」や「アンチエイジング」など身近な言葉も並ぶ。それら全てが投資テーマだ。
※フォリオの画面。投資テーマと、それぞれの騰落率が並ぶ
フォリオはそのテーマごとに、10社の「関連銘柄」を選び、リスクを分散できるよう株数を調整して組み合わせる。例えば「ようこそ日本へ」というテーマの中身を見ると、「訪日観光客」関連と思われる10社の社名が並ぶ。その右横には各銘柄の「株数」と「運用額の目安」、さらに右には10社の株をセットで購入するのに必要な金額が表示されている。
※フォリオが選んだ10銘柄と、それぞれの株数、合計購入金額が表示されている
ここに、フォリオが「投資のハードル」を下げるためにこだわったポイントがある。テーマ1つを買う金額を「10万円前後」に抑えたのだ。そのために各銘柄の株数は1株から数株と、極限まで少なくした。通常、株式には「100株」や「1000株」などの売買単位(単元)があり、1銘柄を買うだけでも購入額は数十万円になる。これを「単元未満株」としてバラ売りすることで、「約10万円」という金額でも分散投資ができるようにした。単元未満株は、配当は受けられるが株主総会での議決権はなく、株主優待はないことが多い。それでも「少額で分散投資ができることで、初心者でも安心して投資を始められる」(甲斐CEO)と、初心者の"入り口"としての意義は大きいという。
なぜ、このようなサービスを作ろうと考えたのか。甲斐氏は創業当時を振り返る。「日本は圧倒的に投資や資産運用に"遠い"。投資を活性化させるために必要なものは何か、なかなかそれが見つからなかった」。
「非常に強いファンがいるテーマは、ある程度の市場規模を持っている。"好き"が投資に変わる体験を作り出したい」と語る甲斐CEO。ただ、そうしたテーマごとに「どの銘柄に投資するか」を選ぶのは責任重大だ。フォリオには、それを担う「専門家集団」がいる。
※ テーマごとの銘柄選びを担う"専門家集団"。商品の「質」を左右する重要部門だ
「投資戦略部」。ここには投資信託の運用を30年手がけたファンドマネージャーや、ソフトウェア開発で数々の受賞歴を持つ技術者などがいる。彼らが、膨大な企業情報を分析する独自のシステムを駆使して、銘柄を選択しているのだ。具体的には、企業の業績や株の売買高などのデータをもとに、独自の評価で点数をつける。その点数から「OK」となった銘柄の中から、メンバーが10銘柄を厳選する。つまり「システムと"人の経験"を合わせて選んでいる」(投資戦略部の井上輝彦部長)という。
投資戦略部のメンバーは、企業分析のため「テーマの現場」に繰り出すことも多い。8月、メンバー2人が名古屋市まで出張して訪ねたのは...なんと「コスプレイベント」。フォリオの投資テーマに「コスプレ」があるからだという。
※投資戦略部の2人が訪れたコスプレイベント。ここで一体何を...
すると投資戦略部の廣瀬達也氏が、ガンダムのモビルスーツ「シャア専用ズゴック」に扮する男性を捕まえ、質問攻めを始めた。
廣瀬氏「こういう部品は何を使って接着していますか?」
ズゴック氏「プラモデル用の速乾性がある接着剤です」
廣瀬氏「それはどこで購入しましたか?」
ズゴック氏「ホームセンターで...」
※フォリオ投資戦略部の廣瀬氏、コスプレイヤーを質問攻めに
廣瀬氏はこうすることで、コスプレイヤーたちがどこの企業の製品を使ったり、どんな店で購入したりしているかを探っているのだ。その作業は、自分たちが組み入れた銘柄が「テーマに本当に合っているか」の確認につながり、時には銘柄入れ替えのきっかけにもなる。
こうして「株式投資のハードルを下げる」ことに取り組んできたフォリオ。いまそのビジネスは新たな段階に入ろうとしている。
8月、甲斐CEOが訪れたのはLINEの本社。LINEとは1月に資本業務提携を結んだ。LINEのアプリの中で、フォリオの投資サービスを利用できるようにするためだ。近く公開する予定で、サービスの開発は最終段階に入っているという。
※ LINEでのサービスは目前。開発は最終段階に(8月)
「LINEは国内で月間7600万人が使っている。そこでフォリオが展開されることで、投資がより生活に根付いていく」と甲斐氏。今度こそ日本に「投資文化」は根付くだろうか。