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「ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)では、新企画「イノベンチャーズ列伝」がスタート! 社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。そこで、気になる第12回の放送をピックアップ。
東京・渋谷区に拠点を構えるベンチャー企業「ジョージ・アンド・ショーン合同会社」。その創業者、井上憲CEOが今回の主人公だ。
※ジョージ・アンド・ショーンの井上憲CEO。起業の動機は...
井上氏は2016年に起業する前、どこの家族にも起こりうる「ある問題」に直面した。「祖母が認知症で、徘徊を始めた」のだ。その頻度は日を追うごとに高まり、やがて仕事も手に付かなくなったという。そんなある日のこと...。
そして井上氏が自ら起業し、生み出したのが「ビブル」というサービスだ。重さわずか9グラム、大きさはUSBメモリー程度の端末を使い、高齢者の位置情報を把握できるようにする。端末は軽くて小さいので、カギやカバンに付けておくなどすれば携帯しても気にならなさそうだ。最初に端末を3996円で購入すれば、サービスを利用し続けられる。
※「ビブル」の端末。「高齢者が持って苦にならない」を意識した。
これで実際に、位置を把握できるのか。取材に訪れたWBSの須黒清華キャスターに、井上CEOが「これ持って、ちょっと散歩してきてもらっていいですか。探しますので」と提案。「いいんですか...?」と怪訝な表情の須黒キャスター、「ビブル」の端末を身に付け、あてもなく街を歩き始めた。一方、オフィスに残った井上氏。スマホ画面を指さしながら「いま、この角に...」と、地図上に須黒キャスターが通った「印」が次々と記録されていくのを見せてくれた。これならどこを通ったのか「一目瞭然」だ。
※須黒キャスターが「ビブル」の端末を持って街に飛び出すと...
※地図上では、通った場所に次々と「印」が付いていく。
井上氏とともに、地図の「印」を頼りに追いかけてみる。「おそらくこの近くにいると思うので...。あっ、いらっしゃいました。須黒さん!」。視線の先には、公園の隅に1人たたずむ須黒キャスターの姿が。「あ、よく見つかりましたね...」。こんな風に、徘徊する高齢者を見つけ出せれば、家族の負担は大幅に減る。
※公園で1人待つ須黒キャスターを発見。これが認知症患者だったら...
位置情報の把握といえば、まず連想されるのがGPS。ただGPSは一般的に消費する電気が多く、一定の大きさの電池や、頻繁な充電が必要。さらに月々の通信費用もかかる。そのため「認知症患者の負担にならない」ことを重視した「ビブル」では使っていない。代わりに活用するのが、街を行き交う「不特定多数の人々」のスマートフォンやタブレット端末。ビブルのアプリを入れたスマホなどが、街ですれ違ったビブル端末を感知し、その位置情報を送信するという仕組みだ。つまり街の人たちのスマホなどを利用することで、ビブル端末を単純化、小型化したのだ。
※専用アプリを入れたスマホが、ビブル端末を感知し、位置情報を送る。
※「街の人のスマホ」を活用することで、端末は小型化に成功
この仕組みは、多くの人がビブルのアプリをスマホなどに入れて初めて成立する。アプリを入れるのは、主に「高齢の家族にビブル端末を持たせ、位置を把握したい人」。ただ、それだけでは足りないので、「家のカギなど"大事なモノ"を見失いたくない人」なども使えるようにし、利用者の幅を広げている。
また、スマホやタブレットのほか、「自動販売機や、コンビニエンスストアのネットプリント機などとすれ違っても、(ビブル端末の情報を)拾えるよう開発を進めている」(井上CEO)という。いま大手飲料メーカーやコンビニと、ビブル端末の位置把握に協力してもらう方向で、詰めの作業を行っている。
そして井上氏たちの「認知症との戦い」は、大企業を巻き込んで新たな段階に入りつつある。舞台は大阪府の有料老人ホーム。「本屋で突然トイレに行きたくなる現象のことを、何と言う?」。入居者の男性にクイズを出すのは、シャープの「ロボホン」だ。実はこのロボホン、高齢者とのやり取りから、「会話に反応する速さ」などのデータを集めている。
※老人ホームで高齢者と話す「ロボホン」。実はデータ収集中
また、建物内のところどころにNTT西日本が通信端末を設置。ビブル端末を携帯した入居者たちの位置情報を一定時間ごとに感知し、「行動履歴」のデータを集めている。こうしたデータを集める大きな狙いの1つが、「認知症になる前に、認知機能の低下を知る」ことだ。一般的に、認知症の発症前に適切な治療を施せば、回復する可能性があると言われているためだ。
※入居者にビブル端末を携帯してもらい、行動履歴データも集める
NTT西日本やシャープのほか、北陸先端科学技術大学院大学などが参加するこの取り組み。収集した高齢者のデータをAIに読み込ませ、認知機能の低下を検知するシステムを開発している。そのシステムの軸となるのがビブルのサービスで、開発の中心にいるのがジョージ・アンド・ショーンだ。昨年度の実験では、80%以上の確率で症状を予測することができた。
「徘徊する認知症患者の発見」から「認知症そのものの予防」へ、事業の幅を大きく広げようとしているジョージ・アンド・ショーン。井上CEOは展望をこう語る。「すぐ"もうけ"になるわけではないが、長い目でプラットフォームとして育てる。ゆくゆくは、いろいろなサービスに展開できるシステムにしたい」。
※認知症にテクノロジーで挑む井上氏。取り組みは社会に広がるか。
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