推理力は必須スキル。謎に包まれし”探偵”のお仕事を、探偵カフェで聞いてみた
"探偵"という職業を聞くと、「卓越した推理力で、瞬く間に難事件を解決する」といったフィクションの登場人物を思い浮かべる人も多いかもしれない。だが、現実の探偵について知っている人は少ないのではないだろうか。
そこで今回は、現役の探偵がバーテンダーを務めるカフェ&ダイニングバー「プログレス」に直撃。探偵歴20年を誇るマスターの鈴木さんに、謎に包まれた探偵という職業について教えてもらった。
尾行や張り込み、どうやるの? 驚きのコツは「TPO」
――探偵さんって普段はどんなお仕事をされているんですか?
「浮気調査、婚約者などの素行調査、人探し、盗聴・盗撮発見、ストーカー対策。主力となるのはその辺りですね」
――浮気調査や素行調査はよく聞きますね。実際にどうやって行うのか気になります。
「尾行と張り込みの繰り返しです。正確には、浮気調査も素行調査もまとめて『行動調査』と呼ばれています。依頼人に指定された時間内、特定の個人の行動をすべて確認する。だから『行動調査』です」
――尾行や張り込みの"鉄則"みたいなものはあるのでしょうか。
「話せる範囲だと、大きく分けて3つあります。第一に目立たないこと。私たちの仕事は、調査対象から少しでも不審がられた時点で失敗です。目立たないための工夫は惜しみません。特にTPOには徹底的に気を配りますね」
――TPOですか。
「はい。たとえば、官庁街の霞が関で張り込みをするのに、上下スウェット姿だったら目立ちますよね。当然、スーツを着用します。ですが、日曜日の昼下がりの住宅街、同じようにスーツ姿で歩いていたらどうでしょう?」
――不審者とまでは言いませんが、怪しいですね......。
「実際の尾行では、刑事ドラマのように電柱に身を潜めたりしません。私たちの姿は調査対象の視界に入りますが、不自然でなければ居ないのと一緒。いかにその場に溶け込むかが肝心です」
――なるほど。
「2つ目に大事なのは見失わないこと。そのためには、最善な距離感を保ち続けないといけません。調査対象から遠ざかれば、バレにくいけど見失いやすい。近づけば、見失わないけどバレやすい。このせめぎ合いを繰り返しながら、常にベストな距離感を探ります」
――実際、どれくらい距離を取ると人間は気づかなくなるのでしょうか。
「その場の条件によりけりですね。たとえば、よく『渋谷のセンター街ならどれくらいの距離感?』と聞かれますが、その回答は『何月の何曜日の何時ごろ?』です。それが休日の晴れた日なら、調査対象の3メートル以内に接近しても気づかれることはないでしょう。一方で、ガラガラになった明け方のセンター街となると、そうはいきません」
――曜日や時間、天気、混雑の度合い、もしかしたら街の構造に至るまで、あらゆる条件を計算しないといけないんですね。これは深い......。
現実の探偵にも必要だった「推理力」
「3つ目に大事なのは、あらゆる可能性を予測する能力です。カッコよく言うと推理力ですね」
――おお、推理力! 現実の探偵さんにも必要なんですね。
「めちゃくちゃ必要です。尾行も張り込みも、調査対象の行動を推理する繰り返しですからね。たとえば、あるマンションの住人を張り込むことになった場合、一般の人は正面玄関の前で住人を待つと思います。ですが、マンションの出口ってそこだけですか?」
――他にもあるかもしれません。
「もっと言えば、その人は徒歩とは限らない。裏の駐輪場から自転車で、地下の駐車場から車で出てくる可能性もあります。幸い徒歩だったとして、今度は行き先を予測しないといけません。路地を曲がったら迎えの車が待機しているかもしれない。私たちはこうした可能性をすべて想定し、人員を配置したり、尾行の手順をリアルタイムで更新しているんです」
――尾行は後を追うのではなく、先回りの繰り返しなんですね。
「はい。特に相手が車の場合、予想外のアクシデントひとつで信号に足止めされてゲームオーバー。信号に引っかからないための技術もありますが、それだけでは手遅れです。張り込みの最中ですら、見落としたパターンがないか何度も思考を巡らせていますよ」
――想像以上の頭脳労働です。ちなみに、お話を聞く限りチームで動いているようですが、漫画やドラマのような個人の私立探偵はいないんでしょうか。
「一人の仕事には限界があるので、チームプレーが原則ですね。そもそも私たちは調査対象を撮影することも業務のひとつ。一人でバレないように良い映像を撮ろうとしたら、おそらく映像の数は3分の1以下になってしまうと思います」
――ちなみに、行動調査以外で推理力を求められる仕事はありますか?
「人探しは最も推理力を試される業務ですね。依頼人から伝えられた情報をもとに、可能な限りリアルな予測を立て、探している相手の居場所を絞り込む。そして、その可能性を一つひとつ検証していくと、どこかでヒットする。予測の正しさと運がかみ合えば、一発で的中することもあります。その快感は格別ですよ」
――すごい! 人探しにおいて、何か心がけていることはあるんですか?
「情報の見極めですね。質の低い情報から予測は立てられません。まずは情報を正しく解釈し、優先度や精度の高さで仕分けする作業を行います」
――どうやって情報の質を見極めるのでしょうか。
「ひとつは情報の鮮度です。たとえば、高校時代の恩師を探したいと依頼されたとしましょう。依頼人が20代なら恩師の情報はフレッシュですが、依頼人が70代だったらどうでしょうか」
――情報の鮮度は落ちますね。
「また、情報は見る角度によって形を変えます。三角錐みたいなもので、横から見たら三角形でも、上から見たら円になることもある。情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、あらゆる角度から分析することを大切にしています」
――固定観念に囚われたらダメだと。
「ましてや、依頼人からいただいた情報は、多かれ少なかれ依頼人のフィルターを通っています。きちんと"事実"と"解釈"を見極めないといけません。こうして優先順位と信頼性の高い情報を分類し、それを土台に予測を立てていく。この予測をどれだけ正確に立てられるかが、探偵の技量の見せどころです」
依頼料の相場と"浮気の質"
――続いて、おカネの話も聞かせてください。依頼料の相場はどれくらいなんですか?
「全国平均は不明ですが、私たちは浮気調査1回で20万円~30万円。探偵の拘束時間が長引くほど、価格も上がる仕組みです。基本料に延長料金がプラスされるイメージですね」
――ふむふむ。
「だから、なるべく短い時間になるようにアドバイスはしています。たとえば、休日に朝から晩まで尾行するよりは、平日のアフターファイブから帰宅までの方がコンパクトですよね。ただ、休日にフルで尾行するメリットもゼロではありません。長時間2人の関係を観察することで、浮気調査で最も重要な"浮気の質"も見えてくるんです」
――浮気の質!? 初めて聞く概念です。
「たとえば、このファイルは依頼人に渡した実際の浮気調査の資料なんですが......」
「これ1冊で約10時間分です。しかし、裁判の証拠になるホテルに関わる写真はほんの数ページで、残りはすべてデートの温度感や親密度など、浮気の質を示すシーンに割かれています」
――浮気の質はそんなに大事なんですか?
「はい。パートナーの浮気が発覚したら、依頼人は離婚や慰謝料の請求、関係の改善など、何らかの方法で問題を解決しますよね。その際、依頼人がどんな基準で解決の手段を決めるかというと、自分がどれだけ傷ついたか、怒ったかじゃないですか。それをジャッジするために必要なのは、決定的な証拠ではなく、そこに至るまでの過程のシーンなんです」
――なるほど......。単に証拠を集めるだけでなく、依頼人に正しい判断材料を提供するのも探偵の役目なんですね。
探偵は依頼人の「最後の砦」
――ここまでのお話を聞いて、探偵という職業に興味を持った読者もいらっしゃるかと思います。どうしたら探偵になれるのか教えてください!
「一般の企業と同じように面接試験を受けるだけです。特別な資格も必要ありませんし、新卒者も少ない業界なので、未経験の人も大歓迎です」
――探偵に向いている人などはいますか?
「最も重要なのは、口が固い人ですね。私もお店でよく探偵の裏話を披露しますが、絶対に個人情報は出しません。面白い経験をたくさんできる仕事なので、話したいエピソードは山ほどありますよ。でも、面白いからって話してしまう人はこの仕事ではNGです」
――なるほど。
「業務の面で言えば、広く浅い知識を持っている人は強いです。さまざまなTPOに合わせられるので。一般の企業だと、短期間で職を転々としている人はネガティブな目で見られるかもしれませんが、私には宝の山に見えますね(笑)」
――では、年齢で不利になることは?
「基本的にはありません。探偵には柔軟な判断力、その場に溶け込む社会性などが求められるので、むしろ30代以上の人の社会経験はアドバンテージになりますね。ただ、肉体労働の側面もあるので、探偵社によっては年齢制限を設けているケースもあります」
――そんなに体力勝負なイメージはありませんが......。
「張り込みひとつ取っても肉体労働ですよ。暑い日も寒い日も、ひたすら一箇所で調査対象を待ち続けるんです。集中力を途切れさせてはいけないから、スマホやLINEで息抜きもできません。尾行にしても、相手はボーッと歩いているだけかもしれませんが、私たちは歩いたり走ったりを繰り返して距離感を変えないといけません。撮影のポジションを確保するために、歩道橋を駆け上って道路の向かいに走ることもあります。丸一日動き回ったら、それはもうヘロヘロになりますよ」
――た、確かに。しっかりと覚悟しないと辞めてしまう人も多そうです。
「離職率は異常に高いですね。漫画やドラマほどエレガントな世界じゃないのは確かです。ただ、やりがいに関してはこれ以上の仕事はないと自負しています」
――ぜひお伺いしたいです。
「探偵に依頼する人って、人生を左右するほど大きな問題に直面しているケースが多いんです。でなければ、決して安くないサービスを頼ろうとは思いませんから。浮気調査にしても家出人の捜索にしてもそうですよね。
このような場合、真っ先に頼られるのは警察か弁護士です。しかし、警察は民事不介入を原則としており、刑事事件しか対応してくれません。弁護士は法律という武器を使って依頼人の主義主張を形にできますが、そのためには証拠が必要です。ならば、その証拠品を集めたり、家出人を捜索したりできるのは誰なのか。探偵はいわば、依頼人の重大な悩みを解決する"最後の砦"なんです」
――依頼人の人生が、探偵のお仕事にかかっているんですね。
「もちろんプレッシャーはすごいです。依頼人の人生を背負っている以上、新人でもミスは許されないし、毎回の仕事が真剣勝負です。ですが、そのプレッシャーに打ち勝って、依頼人の重大な悩みを解決できたら、これ以上の達成感はありませんよ」
【取材協力】
探偵カフェプログレス
住所:東京都池袋2-47-12 第Ⅱ絆ビル9階
営業時間:カフェ 11:30〜17:30(土日祝のみ)バー 19:00〜翌5:00(日曜日は0:00まで)※月曜日が祝日の場合、日曜日は翌5:00迄、祝日の月曜日が0:00までとなります。
定休日:年末年始