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「虐げられる側の人間として...」20代が始めた”深夜にしか開かない本屋”は、今日も優しくそこに佇んでいる

ビジネス

テレ東プラス

2019.3.31

深夜にしか開かない本屋があると聞いたらあなたは信じますか?

そんな嘘みたいな本屋が尾道にはあるんです。名前は「弐拾dB(にじゅうでしべる)」。
話を聞いて行ってみようと深夜の尾道商店街を歩いていると、やがてほっとするような白熱灯の灯りが見えてきます。

同店の営業時間は平日の23時から翌3時まで。他に開いている店はすぐ近くのコンビニくらいです。どんな人がやっているのだろうと話を聞いてみると店主の藤井基二さんは現在26歳。店をオープンしたのは2016年だと言います。

いったいなぜ20代にして他に類を見ない本屋を開いたのか。開くことができたのか。その経緯を藤井さんに聞いてきました。

bookshop_20190331_01.jpg▲尾道商店街側から見た弐拾dB。

始まりは成り行きだった


藤井さんの出身は尾道のお隣である福山市。高校時代まで福山で過ごしたあと、京都の大学に進学したが卒業後は福山に戻り、たまたま募集していた尾道のゲストハウス「あなごのねどこ」で働くことになったそうです。尾道との縁はここから始まります。

一方、Twitterアカウント(https://twitter.com/1924dada)のアイコンにもなっている中原中也との出会いは高校時代のこと。好意を寄せていた女性にフラれたことがキッカケで日本の近代文学に傾倒し、太宰治や中原中也と出会ったそうです。大学時代では中原中也を研究し、研究者の道を志したのですがが諦めて先に書いたように尾道で働くことになりました。

働きはじめてしばらく経ったころ、行きつけの珈琲店のマスターにこう聞かれたそうです。

「藤井君は何かお店しないの?」

そこで、藤井さんはこう答えました。

「やるなら古本屋かな。」

尾道は空き家再生プロジェクトが活発な街で、若者が空き家を利用して気軽にカフェやギャラリーを開くことが多く、こういったことはよくあることなのです。

弐拾dBの入っている物件が当時空き家再生プロジェクトの対象になっていることも知っていて、同プロジェクトの代表と知り合いだったこともあり、トントン拍子に話は進みます。

深夜営業になった理由はアルバイトの時間と重ならないため。アルバイトを辞めるつもりはなかったのですが、そうなると本屋の営業時間は昼か深夜のどちらかになる......と考えた末にどうせやるならと深夜営業になったのです。

「東京ではなく、尾道で深夜営業の本屋を、個人でやることって面白いじゃないですか」

こうやって2016年4月に弐拾dBは生まれました。

虐げられる側の人間の気持ちをないがしろにしたくない


bookshop_20190331_02.jpg▲店内で一番奥の部屋には靴を脱いで上がります。

元医院だったという同店。独特の妖しさのようなものが漂っています。並ぶ古本は文学から実用書、コミックといったものまで幅広く、新刊も一部ですが取り扱います。白熱灯の灯りに誘われてフラリと中に入るとどこかで嗅いだ懐かしい匂い。静かな空間でゆっくりと本を読んだり、店主と話したり。壊れやすくて優しい、いつかどこかに置いてきた繊細な感情を取り戻せるような、包み込まれるような場所です。

藤井さんは言います。

「僕はどちらかと言うと虐げられる側の人間なんで、その気持ちを掬い取りたい」

きっとそれは、大抵の人は無視してしまうような、ほんの些細なことで傷ついたり害されたりするような人を排除しないこと。あるいは、目の前のお客さんを当たり前のように大事にするということ。そんなまっとうなことを彼が大事にしているから生まれる雰囲気のようなものなのかもしれません。

優しい場所には物語が生まれます。

「ブラック企業から逃げてきた無一文の男性の話」「東京から旅してきた女性から手紙をもらう話」......長くなるので詳しくは割愛しますが、本当に物語のようなエピソードがここでは当たり前のように起きるのです。

「結局僕がやっていることは邪道だと思っています。でも『邪道なりの本懐』もある」

確かに深夜にだけ開く古本屋は正道か邪道かで言えば邪道でしょう。でも、彼は昔ながらの古本屋のように地道なことをこそ大事にします。「本を適正価格で気持ちの良い人に届ける」と話す彼は自分の好き嫌いにかかわらず本を販売します。でも、売値によって控えめな主張をします。例えば、主義主張の合わない本や店に合わない本は安くするといったように。かつて街にひとつはあった古本屋が当たり前のようにやってきたことです。

bookshop_20190331_03.jpg▲慣れた手つきで作業をしながら話をしてくださった藤井さん。

「東京や京都など他の地域の本屋にもたくさん行きますが、いま増えているのは映画とか音楽とかのカルチャーの中のひとつとして『本が好き』という人に向けてのものだと思います。入場料制や会員制、泊まれる本屋などたくさんの形が出てきていますね。でもこれらは飲食店に例えて言うならレストランなんです。昔ながらの古本屋はスーパー。材料がたくさん置いてあって組み合わせることによって肉じゃがを作ったり、人によってはフルコースの料理ができる。そんな場所です。レストラン的な場所もあって良いのですが楽しめる人は限られます。僕のやりたいのはスーパーの方。スーパーのような品揃えはないので個人商店かな。提案されると味気なくなっちゃうこともあると思うんです」

提案ではなく、ただ本が並んでいる場所。お客さんはそこから思い思いの本を手に取り、それぞれの物語を紡いでいく。声高に「丁寧な仕事」といったことを叫ぶでもなく、当たり前に丁寧に本を扱い、人に対する。声の大きい人にばかり注目が集まる世の中で、小さい声にこそ気をつける。弐拾dBという店名は、木の葉が揺れる音など「普段は聞こえないけど、耳をすませば聞こえる音」から来ている。本の音や、声に耳を傾け、向き合いたいという思いから名付けたそうです。

「始めるのは簡単ですが、僕はとにかく続けたいと思っています。」と話す藤井さん。少なくとも10年は続けたいと言います。どんな形態のお店でも「10年続いたらそれがその街の答えだ」と藤井さん。その思いを胸にきっとこれからもこの物語そのもののような本屋を続けていくのだろうと思います。

弐拾dB。いつまでもいつまでもそこにあり続けて欲しい。そんな本屋です。

bookshop_20190331_04.jpg▲コミックもあれば海外文学もあります。戦記ものや『演劇教育入門』といった専門的なものまで。

【店舗情報】
住所:広島県尾道市久保2-3-3
電話番号:080-3875-0384
アクセス:JR尾道駅から徒歩20分
営業時間:23:00~3:00(月火水金)/ 11:00~19:00(週末)
定休日:木曜日

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