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「借りられない」を技術で解決! 1万人の”人生”を変えた男

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テレ東

2020.2.3 ワールドビジネスサテライト

「ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)のシリーズ特集「イノベンチャーズ列伝」では、社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。「テレ東プラス」では、気になる第24回の放送をピックアップ。

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フィリピンの首都、マニラ。街に張り巡らされた小道を、日本では見慣れない3輪自動車「トライシクル」が駆け巡っている。バイクの横に屋根と座席が付いた小さな車を取り付けたもので、そのデザインや色は様々だ。フィリピン国内で約400万台が走っており、市民の足として欠かせない存在となっている。

innoven_20200203_01.jpg※ "フィリピン名物"の3輪自動車「トライシクル」

そのトライシクルのドライバー、アントニオ・ナギさん(44歳)は、この仕事に携わった14年間ずっと悩んできたことがあった。「トライシクルを買うための十分なお金がなかったので、仕方なく借りていたんです」。そのトライシクルのレンタル料が、収入の3分の1を占めるほど高いのだ。だから、いくら真面目に働いても手取りは少ないままで、豊かにはなれない。しかし自分の車両を持ちたくても、そもそも収入が少なく信用力が低いため、ローンの審査が通らない。こうした構造から、ナギさんに限らず、多くのドライバーはなかなか低賃金から抜け出せずにいる。

ところが最近、ナギさんの生活が大きく変わったという。自宅に案内してもらうと、通されたのはマニラの路地の奥にある小さな部屋。ここに妻のアルマさんと息子3人の5人で暮らしている。ナギさんがちょっと自慢げに語り始めた。「子供たちが『暑い、暑い』というから、クリスマスの前に扇風機を買ったんですよ」。実はナギさん、手取りの収入が以前の2倍に増えたという。息子が欲しがっていたバスケットボールシューズも、買ってあげることができた。妻のアルマさんも「ふらっと買い物に出かけて、子供たちが必要なモノを買えるようになったんです」と、ささやかな"豊かさ"に喜びを感じている様子だ。

innoven_20200203_02.jpg※この部屋に5人で住むナギさん。最近、手取りの収入が「2倍に増えた」

手取りが増えたのは、「自前のトライシクル」を手に入れることができたからだ。高いレンタル料を払わずに済み、その分が自分の収入になった。3年前に"あるローン"で車両を購入し、最近、ついに返済を終えたのだという。このローンで車両を購入することができたドライバーは、フィリピン国内で約1万人にのぼる。

innoven_20200203_03.jpg※ ナギさんが"新型ローン"で購入した車両。こうしたドライバーは約1万人いる

この"新型ローン"を実現する仕組みを作ったのが、「グローバルモビリティサービス(GMS)」。日本のベンチャー企業だ。収入が少なく、信用力が低いドライバーに、どうやって無理なく返済できるローンを提供しているのか。創業者の中島徳至社長が、手のひらサイズの四角いハコを見せてくれた。「これが私たちが開発したMCCSというユニットです」。

innoven_20200203_04.jpg※ 日本のベンチャー、GMSが開発したユニット。これがローンとどういう関係が...

このMCCSという装置をトライシクルの車両に取り付けると、遠く離れた場所からエンジンを制御できる。実際、中島氏らが持って来たパソコンを操作すると、「キュルキュルキュル...」。いくらキーを回してもエンジンが掛からない。実はGMSの仕組みでは、ドライバーがローンの返済を滞らせると、安全を確認したうえでエンジンを止めてしまうのだ。これでドライバーは仕事ができず、収入が得られなくなる。ただし「入金されれば、約3秒で車は動くようになる」(中島氏)。コンビニエンスストアやスーパーなど街中で手軽に入金ができ、その直後にエンジン停止が「解除」されるのだ。

innoven_20200203_05.jpg※ 「赤」の車両はエンジン停止中。ただし入金されれば即座に解除。

この仕組みによって、返済滞納のリスクは大幅に下がる。実際、貸し倒れ率は「1%未満」と、低所得者を対象としたローンとしては驚異的な低水準だ。「信用力が低いドライバーでも組めるローン」は、こうやって実現していた。

GMSを創業した中島氏は、元々このビジネスを始めるためにフィリピンに来たわけではなかった。

innoven_20200203_06.jpg※ GMS創業者の中島氏。実は大きな「挫折」を経験していた...

「なんでフィリピンに来ちゃったんだろう、って当時は思いましたね」と中島氏は苦笑する。実はかつて、電気自動車(EV)メーカー「ゼロスポーツ」を立ち上げた、注目の起業家だった。しかし受注した大型案件が破談となり、事業譲渡を余儀なくされる。

innoven_20200203_07.jpg※ 中島氏がかつて創業した「ゼロスポーツ」のEV。

その後、EVベンチャーの経験を買われ、アジア開発銀行のEV普及事業に参画したことが転機となった。フィリピンを訪れた際、新しい車を買いたくてもローンの審査が通らず、そもそも車を買えない人が沢山いるという現実に直面したのだ。「日本でかなり悔しい思いをして...。でもフィリピンに来たら、みんな頑張っているじゃないですか。僕にできることは、あるなと思った」(中島氏)。

そんな中島氏の思いを象徴するイベントが1月、マニラ市内の国際会議場で開かれた。1000人以上が入れる大きな会場で、「Cheers(乾杯)!」のかけ声とともに、紙吹雪が舞う。前方のステージには次々とトライシクルのドライバーが呼ばれ、中島氏と握手を交わす。その中には、あのナギさんの姿もあった。これは、ローンを完済したドライバーや、その家族を祝福するためのパーティー。あるドライバーの娘は壇上で父への手紙を読み上げた。「お父さんはGMSに加入して自分のトライシクルを持ち、一生懸命働いてくれました...」。客席の中島氏は、人目をはばからず泣いていた。「やっぱりね、人を幸せにするというのは生きている証ですよ。だから僕は、頑張る人の味方になりたい」。

innoven_20200203_08.jpg※ ドライバーのローン完済を祝うパーティー。あのナギさんも壇上で祝福

そして、中島氏が描く「次の展開」の舞台は日本だ。1月下旬、岐阜県を地盤とする大垣共立銀行の境敏幸頭取を訪ねた。フィリピンで成功した新型ローンを、日本で銀行の力を借りて、自動車ローンが組めなかった人に広めようというのだ。大垣共立銀の境頭取は「この地域は車がないと生活ができない。車を通して金融が果たすべき役割を、間口を広げてチャレンジできる」と、GMSと組む意義を語る。今春にも、GMSのシステムを活用した新型マイカーローンの取り扱いを始める予定だ。

innoven_20200203_09.jpg※ 大垣共立銀の境頭取(左)。GMSと新型マイカーローンを提供予定

「今まで金融サービスを受けられなかった人が、受けられるようになる、そういうテクノロジーを提供したい。これから様々な地域や国で、このサービスを提供するために頑張る」と語る中島氏。目指すのは、2030年までに「1億人」にサービスを届けることだという。

※このページの掲載内容は、更新当時の情報です。

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ワールドビジネスサテライト

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ビジネスや生活に役立つ「自分につながる」経済ニュース番組。ヒット商品を先取りした「トレンドたまご」、経済の最新情報を伝えるコーナーなど。

放送日時:テレビ東京系列 毎週月曜~金曜 夜11時

出演者

大江麻理子、滝田洋一、山川龍雄、相内優香、須黒清華、片渕茜、北村まあさ

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