「老後2000万円問題」「景気減退」「FIRE」という生き方...投資のプロに聞く!<いま初心者がすべきこと>

老後2000万円問題やコロナ禍による景気減退、就職難など、不安要素が多くなる中、経済的に自立し、早期リタイアを実現する「FIRE(ファイア:Financial Independence, Retire Early)」を謳う若者たちが現れ始めている。働き方や人生設計の多様化が進みつつも、先行き不透明な現代...誰にでもやがては訪れる老後をゆたかに過ごすために、私たちはいま、何から対策を始めればいいのだろうか。

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「テレ東プラス」では、「レオス・キャピタルワークス」株式戦略部長、シニア・アナリスト/シニア・ファンドマネージャー・渡邉庄太氏を、「Cras-i design」代表でファイナンシャル・プランナーの波柴純子がインタビュー。投資の知識や経験のない初心者は、将来に向けて何を始めればいいのか...また、日本人の投資に対する消極的な考え方をどう変えていくべきなのか...今すぐ実践できるリアルなアドバイスをもらった。

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「投資をしない=大きなチャンスロス」の意味


Q:日本では以前から、「貯蓄から資産運用」へのシフトチェンジが必要だと言われてきました。その一方で、なかなかその一歩が踏み出せない人も多くいるのが現状だと思います。どうすれば、意識を変えることができるのでしょうか?

「投資をしないことで、実は皆さんは2つの大きなチャンスを捨てていることに気づいて欲しいと思います。1つめは『社会を知る機会』。今、社会が大きく変化していることに焦りを感じている方もいるかもしれません。投資をすると経済のニュース、世界情勢に興味・関心が生まれ、それを自分の生活に活かそうという意識が生まれます。自分の生活をゆたかにするアイデアや行動につながるかもしれません。2つめは、『資産を守る機会』。投資をしない場合、現預金で保有している資産残高は額面上減りませんが、今後起こりうるインフレ(物価上昇)に対して相対的な価値は下がる可能性があります。現預金が安全という思い込みから投資をしないと決めてしまうのは、ある意味、資産を守る機会を逸しているとも言えます」(渡邉氏 以下同)

Q:「投資をしないことがリスク」という言い方もありますが、何より自分の未来をゆたかにする機会を損失しているのですね。なんとなく「もったいない」という気持ちになります。いざ投資を始めるにあたって、初心者が心得ておくべきことがあれば教えて下さい。

「すべての方に知っておいてほしいことは『絶対に損をしない投資はない』ということです。リスクなしにリターンが得られる金融商品は存在しません。そんなうまい話を持ちかけられたら、それは嘘だと疑ってください。投資は値動きがあることが大前提でタイミングによっては元本割れする可能性もあります。日々の生活や直近のライフイベントに使う予定のあるお金は、投資にあててはいけません。また、リタイアが近い場合やすでにリタイアしている場合、必要以上にリスクをとるような投資は避けるべきでしょう」

hifumi_20210326_03.jpg▲レオス・キャピタルワークス公式サイトに掲載の「ひふみ投信・ひふみワールドのお客様データ」より。1ヶ月あたり1~3万円のつみたて投資をしているお客様が多数

―投資はあくまで自己責任であるということは肝に銘じておくべきですね。まずは今の生活の中で"投資に充てる余力"があるのか検証することが大切なポイントだということがわかりました。

まずは自分ができる範囲で...「習うより慣れろ」


Q:初心者の中には「経済や金融の知識がないと、投資は上手くいかないのでは?」と思う方もいるようです。そんな方は何から学ぶと良いでしょうか?

「車の運転と違って、投資は最低限これを知らないと公道に出られない、というような知識は何もないのです。逆に言えば『これだけ知識があれば絶対成果を出せる』というようなものでもない。具体的な知識は始めてみれば自然と身につくものなので、まずは基本的なリスクを理解した上で、無理のない範囲で取り組んでみるのが一番です。『習うより慣れろ』ですね」

Q:そこまで身構えなくてもいいのですね。最近は、スマホアプリで数百円から始められるものもありますし、カードで貯まったポイントなどでも株式の運用ができるようです。バーチャル感覚でスタートするのは、いささか危ないような気もしますが、渡邉さんはこのようなサービスをどのように捉えていらっしゃいますか?

「損をしたくないという心理的なハードルを下げる投資の入り口として、私はとても良い仕組みだと思っています。投資で一番良くないのは、いきなり多額の投資を行い、日々の値動きに冷静さを失うことです。これでは投資というより投機、ギャンブルになってしまいます。まずはご自身にとって負担の少ない方法でスタートし、成功体験、あるいは失敗による教訓を得ながら自分に合ったやり方を見つけるのも悪くないと思います。」

Q:なるほど! たくさん勉強するよりも、まずは行動して、そこでの経験をステップにしていけば良いのですね。

「はい。自分に合った投資法というのはまさに十人十色。他人から学ぶ姿勢は大事ですが、丸ごと鵜呑みにするのはおすすめしません。もしご自身が気になっていることを深めたいということであれば、例えば当社では、数多くのウェビナーやYouTubeチャンネルによる配信をしています。iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)など一般的な制度の解説から、最新の市況解説まで多岐に渡るテーマをご用意しておりますので、覗いてみるのもひとつの手かと思います。最近では学びコンテンツの配信として「お金のまなびば!」という初心者の方にもご覧いただきやすいチャンネルも開設しました。その中で得たヒントをご自身の投資に取り入れていただくのがいいと思います」

▲Youtubeチャンネル「お金のまなびば!」

プロが分かりやすく教える"ファンド選び"のポイント


Q:私の周囲でも、iDeCoやNISAへの関心をきっかけに投資を始める方が増えています。その一方で、「投資信託(ファンド)選びで迷っている」というご相談も、よく見受けられます。「インデックスファンド(日経平均株価やTOPIXなど市場全体の値動きを表す指数に連動する投資信託)を選ぶ際はコストに着目する」といったアドバイスは比較的浸透していますが、ファンドマネージャーである渡邉さんは、どのような基準でファンドを選んでいるのでしょう。

「そうですね。これには、以下の4つポイントがあります」

●運用開始からある程度時間が経っている
「長期の運用実績があるものを選びましょう。最近設定されたばかりの話題のテーマ型ファンドの場合(例:AIやSDGsなど)は、買い付け時に高値づかみをする可能性もあるので注意が必要です」

●純資産残高が減少していない
「運用期間が長くてもファンドの規模が小さい、あるいは減少している場合、運用する側にしてみれば維持コストがかかっています。効率の良い運用が出来ていないということは、将来的に繰上償還や打ち切りの可能性もあります」

●基準価額が「高い」
「『基準価額が低いと割安』という誤解をしている方がいらっしゃいます。『ひふみ投信は設定来基準価額が6倍くらいになっているので割高なのでは?』とおっしゃるお客様がいらっしゃいますが、それは明らかに認識が間違っています。仮に設定来10年経っているのに基準価額があまり上がっていないファンドがあるとしたら、それは成績が悪いということになります。私が選ぶとしたら、基準価額が高い(分配タイプであれば分配金考慮後の成績が優れているもの)を選びます」

●ファンドマネージャーが変わっていない
「これは、ことアクティブファンド(市場全体の平均的な値動きを上回るように独自の運用をしている投資信託)に関してということになりますが、ファンドマネージャーが変わるとファンドの運用方針もガラッと変わることがあります。インターネットなどでファンドマネージャーのインタビュー記事などをチェックするのも良い指標になります」

Q:初心者でもアクティブファンドのパフォーマンスや運用方針に惹かれて投資を始める方は多いので、具体的なアドバイスがとても参考になります。また、ポートフォリオ(金融商品の割合・組み合わせ)についてもどうしたらいいかという相談をよく受けますが、何かおすすめはありますか?

「人によって投資可能な額や期間、リスク許容度が異なるので一概には言えませんが、例えば当社の場合、『ひふみ投信』は日本株式に約9割、海外株式に約1割を投資しています。2019年10月からは『ひふみワールド』の販売を開始しましたが、こちらは100%海外株式となります。為替のリスクの分散を図るという意味で、ご自身の資産がほぼ円建ての場合、海外株式を視野に入れてみてもいいかもしれません。

また当社では、3月より、『まるごとひふみ』『ひふみらいと』というファンドの販売を始めました。株式よりは値動きが穏やかな債券を組み入れているため、投資初心者やリタイアが近くリスクを抑えたい、という方にとっても取り入れやすいファンドになっています」

――なるほど。ファンドのラインナップが増えたことで、年代問わず投資の間口が広くなったということですね。商品の特徴を比較し、自分にあったファンドを検討することが大事なのだとよくわかりました。

『大切な時間や体力を切り売りし、その対価として賃金をもらう』という労働観は寂しい。経済的な独立は若い世代に限らず、すべての人が目指すべき


Q:最近では、若い方の間で、経済的な独立による早期退職「FIRE(Financial Independence, Retire Early)※1」という考え方が謳われているようです。渡邉さんは、こちらに関してどのように感じていますか?

※1:FIRE(ファイア:Financial Independence, Retire Early)とは?
経済的に自立し、人生の充足を得るため早期退職を実現し自分の好きな副業をする、短時間で自由に働く、ボランティアをするなど「お金のために働くのではない」状況を含む解釈。

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「ひとつのライフスタイルの在り方として、FIREが話題にはなっていますが、資産的な独立は、若い世代に限らず、すべての人が目指すべきだと考えます。当社の代表(藤野英人氏)もよく言っていますが、『自分の大切な時間や体力を切り売りし、その対価として賃金をもらう』という労働観はとても寂しいことです。『働く=お金を得るためだけのこと』ではなく、充足した時間ややり甲斐、お客様や社会の役に立っている実感を得られるものであって欲しい。逆に、働くこと以外にもお金を得る選択肢を持つことで、労働の負荷をコントロールすることができますね。そういう意味でも、投資がとても重要なアプローチになると思います」

hifumi_20210326_05.jpg▲左から、「レオス・キャピタルワークス」代表取締役社長・最高投資責任者・藤野英人氏、渡邉氏
レオス・キャピタルワークス公式YouTubeチャンネル「ひふみプロモーション動画120秒 2021年3月」より。

「先ほども経済的自立には投資が必須、というお話をしましたが、投資対象は金融資産だけではありません。健やかな生活を送るためには健康や趣味・交友関係が不可欠なので、それを高めるための心身あるいは精神的な投資も含みます。若い方の場合、メインの仕事で精神的な充足感を得つつ、今から資産運用や副業(複業)のスキルで稼ぐという選択肢もあります。もうすぐ定年という方は、やみくもに焦る必要はありません。『ねんきん定期便』による受取予想額と現在の生活スタイルを検証し、その不足分だけ働くという選択肢もあります。その時はお金のためではなく、精神的な充足感が得られる、あるいは世の中の役立つ仕事が出来たら幸せですよね。皆さんの将来の選択肢を殖やすために何らかの形での投資を続け、よりゆたかな明日に向けて、質の高い生活を目指していただきたいと思います」

――ありがとうございました! 金融資産への投資だけでなく、自分というリソースにも投資が必要だというお話にとても共感しました。「投資をするにはたくさん勉強をしなければいけないのでは...」と思っていましたが、まずは小さな行動からですね。さっそく私も毎月の積立額の見直しと健康づくりから始めたいと思います。

(取材・文/波柴純子)

【今回お話を伺った「レオス・キャピタルワークス」のサイトはこちら!】

【渡邉庄太氏 プロフィール】
「レオス・キャピタルワークス」株式戦略部長、シニア・アナリスト/ファンドマネージャー。1997年、大和証券投資信託委託入社。アナリスト、ファンドマネージャーとして日本株運用を担当。2003年よりダイワSMAのプロジェクト立上げに参画後、同部門で日本中小型成長株の運用も担当。 2006年、レオス・キャピタルワークス入社。2015年、レオス株式戦略部の部長に就任。代表取締役会長兼社長の藤野、代表取締役副社長の湯浅とともに、運用指図の判断をするファンドマネージャーを務める。

【波柴純子 プロフィール】
「Cras-i-design(クラシデザイン)」代表。ファイナンシャル・プランナー、ワークショップ・デザイナー。ひとり親となり、お金の不安に駆られたことがきっかけでFPの資格を取得。転職して6年間金融機関の個別相談業務に携わった後、独立。人生100年時代を生きるためには有形資産・無形資産を高める必要があると感じ、実践力を身につける場としてオリジナルのワークショップやオンライン・コミュニティの企画・実施を行っている。
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レオス・キャピタルワークス株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第1151号
一般社団法人投資信託協会会員/一般社団法人日本投資顧問業協会会員
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投資信託に係るリスク・費用
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※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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