巨大地震が相次ぎ需要拡大 “揺れ”を特殊なゴムで吸収・低減する「制震ダンパー」:ガイアの夜明け
1月17日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは「巨大地震に立ち向かう!」。
能登半島地震、熊本地震、東日本大震災…そして、30年前に発生した「阪神・淡路大震災」。地震の度に建物の耐震性が問題視されるが、1年前に起きた能登半島地震でも、家屋の倒壊で多くの命が失われた。安全な住まいの普及が、今も課題として突きつけられている。
「ダンロップ」ブランドのタイヤ製品を主軸にする「住友ゴム工業」は、神戸工場が阪神・淡路大震災で被災。それを機に“制震装置”の開発に力を注いできた。
“命を救う使命”を胸に奮闘する企業の姿を追った。
【動画】巨大地震が相次ぎ需要拡大 “揺れ”を特殊なゴムで吸収・低減する「制震ダンパー」
能登半島地震 地震大国ニッポンの現状

2024年1月1日、最大震度7の地震が襲った能登半島。死者489人(うち災害関連死261人)、住宅被害は約15万棟に上り、倒壊した家屋の下で亡くなった人も少なくない。能登半島地震は、人々に改めて住宅の耐震化の必要性を突きつけた。
石川・珠洲市正院町の一角で、以前と同じ生活を続けられているのは約30軒中わずか2軒。そのうちの1軒、蓮池美誉子さんの家は、5年前に新築した念願のマイホームだ。
地震の時、近くの町にある夫の実家にいた蓮池さんは、翌日自宅にたどり着き、「倒壊や傾いた家が多かったので心配したが、この家は建っていてびっくりした」と話す。

蓮池さんの自宅では、「住友ゴム工業」(神戸市)が開発した「制震ダンパー」を取り付けていた。制震ダンパーは、地震の揺れを吸収・低減させる特殊なゴムが使われている装置。
能登地方でこの制震ダンパーを設置していた家屋は517棟。今回、全半壊はゼロだった。
住友ゴム工業 阪神・淡路大震災で被災 “特殊なゴム”で揺れを吸収・低減
「住友ゴム工業」は、1909年、英国「ダンロップ社」の日本支店として創業。以来、「ダンロップ」ブランドを軸に事業を展開し、従業員 約4万人、売上高 約1兆2000億円に迫る企業に成長した。

事業別の売上比率はタイヤやスポーツが主力だが、100年を超えるロングセラー商品だった水枕(2023年に製造中止)やゴム手袋、スポーツ用人工芝など幅広く手掛ける部署もある。
これらを扱うハイブリッド事業本部は兵庫・加古川市に本拠を構えているが、その売り上げは、全社的に見るとわずか数パーセント。副本部長の松本達治さん(58)は、「華やかさと規模では(タイヤやスポーツに)勝てないが、私たちにしかできない技術で世の中に貢献したい。弱い集団には弱い集団なりの戦い方がある」と話す。
松本さんは地元・明石工業高等専門学校を卒業後、「住友ゴム工業」に入社。ハイブリッド事業一筋の技術者だ。

そんな松本さんに大きな転機をもたらしたのが、阪神・淡路大震災だった。近代的な大都市を襲った国内初の直下型地震は死者6434人、住宅被害は約64万棟(全半壊 約25万棟)…大勢の命と平和な営みを一瞬にして奪い去った。
当時、松本さんは金沢大学で研究に明け暮れていたが、地震の知らせを受けて神戸工場に駆けつけると、会社の仲間やその親族19人が亡くなっていた。
「私たちの会社は、この地震に対して、(社会に)何の役にも立てなかった。巨大地震という大きな敵に対して立ち向かっていく」。松本さんの30年に及ぶ長い闘いが始まった。
松本さんが開発の根本に据えたのが「制震」という考え方だ。建物の壁に筋交いなどを入れ、強度を増して揺れに耐えるのが「耐震」。建物と地盤の間にゴムなどを設置し、揺れを逃すのが「免震」だが、設置費用が高額になるため、戸建て住宅への採用は極めて限定的になる。これに対して「制震」は、装置を設置して揺れを吸収するというもので、新築戸建て住宅1棟あたり30万円から(工事費は除く)とお手頃だ。

特殊な「高減衰ゴム」の力で制震を実現。開発したゴムに力を加えてみると、揺れを大幅に軽減。この時のゴムの温度を測ってみると、上昇しているのが分かる。
「例えば、手を合わせて擦り合わせるとだんだん温かくなってくるが、同時に動きにくくなる。この原理(摩擦)を利用したのが制震装置」(松本さん)。
この特殊なゴムは、運動エネルギーを熱エネルギーに変えることで、建物に伝わる揺れを吸収し、小さくできる。そしてそこには、タイヤメーカーとして長年培ってきた“ある技術”が応用されていた。
エンジンが生み出す馬力を効率よく路面に伝えるには、タイヤのグリップ力が重要だ。
「タイヤのゴムを素早く温めることが非常に重要。例えば、水飴があって路面がある。かたい状態だと路面に食いつかない。温まることによって水飴が溶けて、路面をがっちりつかむ。これでグリップ力を発揮して、速く走れる」(タイヤ事業本部 笛木隆史さん)。
このタイヤを素早く温める技術が、特殊な制震用ゴムに生かされているのだ。

2004年、松本さんが戸建て住宅向け制振ダンパーを完成させると、住宅メーカー大手「ミサワホーム」が採用。今では、新築住宅に標準装備されている(平屋を除く)。
さらに、どんな家でも簡単に安く設置できるように、2012年には一般の工務店が扱える新築住宅用を開発。その後、中古住宅に設置できるタイプも開発した。
巨大地震相次ぎ需要拡大 熊本城でも採用

2016年4月に発生した熊本地震では、同じ地域で28時間のうちに2度の震度7を記録。観測史上初めてのことだった。
死者273人(災害関連死を含む)、住宅被害は約20万棟(全半壊 約4万棟)に及んだが、当時、熊本周辺で「住友ゴム」の制震ダンパーを設置していたのは119棟。全半壊はゼロだった。こうした実績から、地震で大きな被害を受けた熊本城の耐震改修工事に「住友ゴム」の制震ダンパーが採用された。

2024年7月。この日、松本さんが向かったのは「徳行寺」(兵庫・たつの市)。住職の那波淳城さんから、寺の老朽化について相談を受ける。
徳行寺は阪神・淡路大震災で目立った被害はなかったが、調べてみると、柱に大きな傾きが。さらに詳しい耐震診断を行った結果、松本さんは「今のままでは、震度5程度の中地震で倒壊の恐れがある。震度6や7の巨大地震が来ると、もちろん倒壊する」と助言した。
松本さんは、能登半島地震の調査で、倒壊した寺を何度も目にしていた。
「屋根の部分が重いのが(寺社の)特徴。建物の上に大きなおもりを置いているのと一緒。どうしても地震が起こった時は倒壊を招きやすい」。

徳行寺の延べ床面積は約500平方メートルで、30カ所、114基の制震ダンパーが必要だ。
住職から「外観はできるだけ変えないでほしい」との要望があったため、設計図では、ダンパーの設置箇所をすべて床下にしていたが、ここで大きな問題が発生する。実際に床下に潜ってみると、柱がコンクリートで補強されていたのだ。
「住友ゴム」の制震ダンパーは、基本的に柱と柱をつかんで設置するタイプのため、コンクリートなどがあると設置できない。

「寺は400〜500年前の建物で、どんどん修復している。いろいろな大工が入ってこういう形をつくったのだと思う」(工事担当の中村俊一さん)。
床下に入った松本さんも、「ここ(コンクリート)は打つ手なし。全体の強度を別のところで稼がないといけない。(図面にはない)想定外がかなり目につく」と戸惑いを隠せない。

ここで松本さんは、現在闘病中の前住職・那波正文さんと交わした約束を思い出す。
「これだけの伽藍を守るのは至難の業。住民が集まってくる場所で、これがなくなると住民の拠り所がなくなる。耐えて耐えて、建物や先祖から引き継いだものは残していくことが大事だと思っている」(正文さん)。松本さんは前住職の強い意志を胸に、覚悟を決めて制震に臨む。
地震との闘いは世界へ!
日本全国に、度々未曽有の災害をもたらしてきた巨大地震。今も南海トラフ地震や首都直下地震などが迫っていると言われている。命と暮らしを守る技術をどうやって広げていくのか。“ある場所”がその鍵を握っていた。

2024年10月。「住友ゴム工業」山本悟社長が、加古川工場を訪れた。年に2回、現場と直接話し合うため、各事業所を訪問するのが恒例となっている。
意見交換会で若手社員が「制震事業はタイヤと比べると小規模。そういった事業の中でも社長が注目、興味を持っている理由は?」と聞くと、「私は制震に本当に期待している。もっともっと伸ばしてほしい。被災した企業として、人々の命、暮らしを守りたいという思いがある」と、率直な言葉で伝える山本社長。

その期待に応えるため、松本さんが向かったのが、台湾・台北だ。阪神・淡路大震災の4年後に起きた台湾大地震。死者・行方不明者は約2500人、震源地は台湾中部だったが、遠く離れた台北でもビルが倒壊するなど、多くの被害が発生した。
日本同様、地震が多い台湾は制震への関心度も高く、「住友ゴム工業」にとっては大きなビジネスチャンスにつながっていた……。
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