下水道管、耐用年数超えは“地球1周分” 老朽化インフラの危機に挑む:ガイアの夜明け
6月13日(金)に放送した「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「インフラ危機に挑む!」。
今、社会インフラの維持・管理は、国家的な転換期を迎えている。
今年1月28日、埼玉県八潮市で発生した下水道管破損による道路陥没事故では、道路を走行していた運転手の命を奪い、周辺12市町の約120万人に下水道の使用自粛を求めるなど、深刻な被害をもたらした。こうした下水道管破損による道路陥没は、全国で年間約2600件も起きている。
下水道管だけでなく、道路や橋など、高度経済成長期に整備されたインフラ全体の老朽化が進む一方、予算や人員は不足し、点検・調査・補修が追い付いていないのが現状。半世紀以上にわたって経済活動や生活を支えてきた社会インフラに、危機が迫っている。
深刻な人手不足で対応が極めて厳しい状況の中、ニッポンの大問題に新たな技術で立ち向かう人々の挑戦を追った。
【動画】下水道管、耐用年数超えは“地球1周分” 老朽化インフラの危機に挑む
“八潮事故現場”でも活用…老朽化する下水道管に挑む!

老朽化が進む日本のインフラ。とりわけ深刻なのが下水道管だ。耐用年数50年を超え、限界間近の下水道管は全国に約4万キロメートル、ほぼ地球1週分にも及ぶ。
そしてその割合は、2023年で7.4パーセント、2043年には40パーセント以上に急増する見通し。もはや点検や補修が追いつかず、大惨事は、いつ、どこで起きてもおかしくない。


今年1月、下水道管の破損によって悲劇が起きた。未だ復旧作業が続く、埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故だ。たまたま通りかかった1台のトラックが巻き込まれ、運転手が命を落とした。
発生から1週間たった2月5日、ガイアが現場に行くと、周辺約200世帯に避難勧告が出され、約120万人に排水の自粛が要請されていた。
この時、事故に巻き込まれたトラック運転手は見つかっておらず、県からの依頼を受けて駆けつけたのが、「リベラウェア」の野中幸佑さん(37)だ。

準備したのは、世界最小クラスという点検専用ドローン「アイビス」。
「LEDライトと高感度カメラが付いているので、暗い場所でも鮮明な映像を撮影できる。暗くて狭くて汚い場所に特化したドローン」(リベラウェア担当者)。
人が入ると危険な汚水管。アイビスを開発した野平さんは、陥没現場から約600メートル離れたマンホールに入り、ドローンを使って運転手を探し出そうとしていた。
作業を始めて1時間、アイビスによって初めて、運転席らしき映像が確認された。

野平さんが勤務する「リベラウェア」(千葉市)は小型ドローンの専門会社で、本来は人命救助ではなく、下水道管などの劣化状況などを点検する特殊ドローンを開発している。維持管理の担い手が深刻な人手不足となる中、ドローンでの点検が普及すれば、対策への大きな足掛かりになる。
八潮市の下水道管で活用したアイビスは、7年がかりで完成した最新作。野平さんは「点検をし、事故を未然に防ぎたい」という志で、精密な操作性と小型化を両立させるために工夫を重ねた。アイビスが撮影した映像データの3D化も可能。下水道管のひび割れや破損の兆候を確認し、補修の効率を上げることができる。

アイビスは、去年発生した能登半島地震でも活躍。二次災害の危険がある倒壊した家屋の中に入り、被害状況の把握と復旧作業に一役買った。
福島第一原子力発電所でも、極めて高い放射線量で人の侵入を阻む、原子炉格納容器の中へ。誰もなし得なかった圧力容器の真下まで侵入し、大きく損傷した原子炉の中で、溶け落ちた核燃料の可能性もある物体を撮影。これが、廃炉作業に向けた貴重な映像となった。
数々の現場で活躍するアイビスだが、野平さんは八潮市の事故現場でアイビスの弱点を思い知らされていた。一般的なドローンはGPSで位置情報を得られるが、地下に埋められた下水道管にはGPSが届かないため、そもそも点検用としてつくられたアイビスには位置情報を特定する機能がない。そのため、運転席を発見したものの正確な場所を把握できず、迅速な救助活動に移れなかったのだ。
「場所が分からない。“悔しい”という思いがあった」。
野平さんは、早速改良に動き出す。開発するのは、操縦者との距離を測る「距離計測装置」。小型化してアイビスに搭載できれば、正確な位置が割り出せる。
アイビスをもっと進化させたい…野平さんの開発者魂に火がついた。

5月下旬、改良版アイビスの試作機ができた。距離を測る装置をアイビスに載せられる30グラムにまで小型軽量化し、持ち前の操作性を維持。直径5メートル、八潮市の現場とほぼ同じ大きさの下水道管でテスト飛行するが、果たして結果は――。
崩落危機の橋やトンネル…“元不良少年”が安価に補修する秘策!?

悪条件だと寿命が50年と言われるコンクリート。開通から60年以上たった首都高速道路は今、さまざまな場所で修繕工事が続いている。
インフラの危機は、車や人が行き交う道路にも及び、老朽化で崩落が危ぶまれる橋も増えていた。
素人目には分からないが、専門家の点検では、修繕などの対策が必要な橋は全国に約5万6000も。しかし、対策には膨大な費用と人員が必要となるため、そのうちの5割以上が手つかずのままだ。

山口県宇部市に本社を置く「エムビーエス」は、橋や道路などを補修する会社。社長の山本貴士さん(52)は建設業界が注目する人物で、現在90人を超える従業員が独自の技術を用いて、老朽化インフラの補修に飛び回っている。

山本さんは、1960年に設置された橋を見ていた。全国の至るところにあるような、手入れが行き届かない橋だ。
「1橋1橋見ると相当傷んでいて、悲鳴を上げている。僕らはこの業界にいるのでそういう意識があるが、そうじゃない人たちは、ここを通る時に信じて疑わない。『この橋、大丈夫かな』とは思わない。これが日本が直面している問題。誰かが誰かのためにしなくてはいけない」(山本さん)。

この日の現場は、小さな“名もなき橋”。至るところにひび割れがあり、天井もかなり傷んでいるように見える。橋の上は生活道路になっており、いつできた橋なのか記録はなく、いつ寿命が来るのか、誰にも分からない。

いよいよ、山本さんの独自工法による補修工事が始まった。ひび割れに充填材を施すところまでは普通と同じ。一般の工法では、表面を塗装し、補修の跡を隠して仕上げるが、山本式は特殊なコーティング材を補修した壁面に塗っていく。さらにその上から、独自に開発したガラス繊維シートを貼る。
「魔法をかけたようにどんどん浸透し、透明化していく」(山本さん)。

しばらくすると、補修した痕跡が浮かび上がってきた。隠さずに見せる、唯一無二のスケルトン工法で、山本さんが逆転の発想で生み出した。
「従来の色の付いたもので覆い被せてしまうと、どこまで傷んでいるか分からない。見えない所はどうなっているんだろうと不安になる。透明で仕上げることをしない意味が分からない」。
さらに、中のコンクリートが割れると、その部分が白く濁るという特長も。再補修の必要性が目で見て分かるのだ。しかも、従来の補修に比べ、工事期間は3分の1、費用は3~4割ほど安くなる。

宇部市生まれの山本さんは6歳の頃、父親が経営する会社が倒産し、夜逃げを経験。家族の生活を支えるため、高校を中退してアルバイトの掛け持ちも。不良少年だった時期もあったが一念発起し、20歳の若さで起業を決断した。仲間と足場組み立て業からスタートし、その後は建物のリフォーム業にも手を広げた。その頃、山本さんは、ある疑問を感じたという。それは…
「自分が足場に携わって建てた新築物件から、3年もすると、また仕事の依頼が来る。行ってみると、もう外壁が色あせたり剥げたりしていた。そこでまた塗装すると、当時は100万円ほどかかった。“これはちょっとおかしいだろう”という問題意識が生まれた。それを解決したい」。
建てたものを長持ちさせたい――。そんな山本さんが世界を回ってイギリスで見つけたのが、スケルトン工法のコーティング材だった。直談判して契約にこぎつけ、独自にガラス繊維シートを開発。2008年、画期的な技術が完成した。

この工法が大企業の目に留まり、2010年に「NEXCO西日本」が開通した第二京阪道路の橋桁には、スケルトン工法で剥落の防止がなされている。新設工事で採用され、すでに15年が経過。「NEXCO西日本」の大城壮司さんは、「10年持てばいいなと思っていたが、この状態でここまで持った。自信を持っていいと思う」と話す。
高速道路の下には国道1号線が走っているが、剥落事故はまだ1度も起きていない。

そんな中、山本さんのもとに大仕事が舞い込んだ。2004年に開通した全長365メートルの「日見夢大橋」をこれまで以上に強く、美しく生まれ変わらせたいという依頼だ。
山本さんは巨大な橋を守れるのか。新たに生まれた秘策とは――。
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