「トランプ関税」自動車大手7社 年間約2兆円減益か:ガイアの夜明け
6月20日(金)に放送した「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは「トランプ関税と日本の製造業〜アメリカの繁栄は誰のものか〜」。
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アメリカのトランプ大統領が打ち出す保護主義的な関税政策は、自由貿易体制の転換点となるのか。トランプ政権は、関税政策でアメリカに製造業を取り戻すと主張している。
自由貿易体制に基づき、アメリカ市場で稼いできた日本の大手メーカーは、「トランプ関税」によって衝撃を受けた。
中国やアジアで部品を調達し、アメリカ市場で稼ぐというグローバルなサプライチェーンは、今後も持続可能なのか? これまで主に日本で製造し、アメリカに輸出してきた中堅の自動車部品メーカーは、「トランプ関税」を乗り越えることができるのか?
約30年前の日米自動車交渉以来のピンチを、再び技術で克服しようとする取り組みを追った。
トランプ関税で、建機大手のコマツはどうする?

4月2日、トランプ大統領は、世界各国・地域に「相互関税」を導入する大統領令を発表した。突然、あらゆる輸入品に関税をかけると言い出したのだ。
当初の計画では、日本に対して一律10%のベースラインの関税に加えて24%の追加関税が上乗せされることになっていたが、現状、上乗せ分については90日間の執行猶予期間が設けられ、今後の交渉の行方が注目されている。
これに慌てたのが、アメリカ市場で稼いできた日本の自動車メーカーだ。自動車大手7社で年間約2兆円(2026年3月期見通し)の利益が吹き飛ぶとも言われており、まさに死活問題だ。

5月26日、神戸港。建設機械大手「コマツ」のショベルカーが、次々と船に積み込まれていた。90日間の執行猶予期間中、なるべく多くの製品をアメリカに届けようというのだ。
コマツは今年度、トランプ関税の影響で、営業利益が943億円下振れするとみている(2026年3月期見通し)。純利益は前期と比べて約30%減少する見通し(2026年3月期)だが、その影響を少しでも緩和したいと考えていた。
コマツは2つの方法でアメリカに建設機械を輸出している。1つは完成車を輸出する方法、もう1つは日本や中国、東南アジアなどから部品を輸出してアメリカで組み立てる方法。もちろん、その部品にも関税がかかる。
そこでコマツは「追加関税対策プロジェクトチーム」を結成。リーダーは、生産管理部の高橋宏明部長(52)だ。

コマツはコストを下げるため、2000年代に中国製部品の調達を拡大してきた。しかしトランプ政権は、7月9日(発動予定)から日本に24%、中国には54%の関税を課すとしている。高橋さんは、「中国や東南アジアから部品を出してリスクを分散していたが、それが完全に裏目に出ている。これは予想していなかった」と部品調達先の見直しを検討。
5月下旬、コマツ創業の地、石川県。高橋さんと部品調達の責任者・黒滝直光さん(53)が向かったのは、コマツの協力企業「タガミ・イーエクス」(能美市 1965年創業)。半世紀以上にわたってブルドーザーなどの部品を製造し、コマツに供給してきた。

高橋さんたちは、「中国がアメリカに輸出している“ブーム”と呼ばれる部品を日本でもっとつくれないか」と相談。ブルドーザーなどの腕にあたる部品だ。
「(ブームを)今、中国メーカーがアメリカに出している。これをタガミさんからアメリカに出してもらい、トランプ関税に対抗していきたい」(黒滝さん)。
これまで中国で製造し、アメリカに輸出していたブームのコストアップに備え、今後は関税率が中国より低い日本で増産し、アメリカに輸出したいと考えたのだ。
「タガミ・イーエクス」は、今後のトランプ関税の状況を見ながら、協力を進めていくことで一致。しかし、そのわずか4日後…今度は素材にかかる関税が牙をむく。
トランプ大統領が、鉄鋼・アルミニウムの輸入に対する関税を、これまでの25%から倍の50%に引き上げると宣言。6月4日に発動したのだ。今度は素材に課される関税なので、日本から輸出しても、中国から輸出しても回避できない。

トランプ政権のブレーンで保守系シンクタンク創設者のオレン・キャス氏は、関税政策の狙いと新たな貿易体制について、「アメリカは、良い相手国となら、オープンな貿易を望んでいる。今、アメリカは、中国とのデカップリング(分断)を進めている。それを受け入れるか否か、各国は自ら決めなければいけない。もしあなたの国がアメリカに同調して中国を遠ざけるのなら、アメリカは歓迎する」と語った。
コマツの高橋さんは、「アメリカの鉄はめちゃくちゃ高い。本当にみんなアメリカで生産を増やすのかなと。どうかなと思う。全部アメリカでつくりますか?」と疑問を抱く。

6月上旬、関税対策チームのメンバー・村井孝成さん(40)は、「コマツアメリカ ニューベリー工場」(アメリカ・サウスカロライナ州)へ。この工場では、中国をはじめ、世界中から調達した部品を組み立て、ホイールローダーなどを製造している。
工場で扱う中国製の部品を、関税がかからないアメリカ製に切り替える選択肢があるのか、検証しにやって来たのだ。

「人件費はアメリカの方が高いので、試算した結果、どっちが有利か。盲目的にアメリカでやればいいという話ではない。単純に同じ作業をするなら、アジアの方が安い。そこにプラスアルファの効果があるかどうかが大事」(村井さん)。
村井さんが次に向かったのは、アメリカのサプライヤー「ビッグ ガン ロボティクス」。
約10年前からコマツと取引があり、ホイールローダーなどの部品を供給。ブームも製造している。

会社のオーナー、リー・ノリスさんは、村井さんにコマツのために導入したロボットなどを見せ、コマツの部品をもっとつくれると猛アピール。
「うちは関税の影響をあまり受けない。まだ扱っていない車種の部品も、まとまった注文をもらえれば対応できる」(リーさん)。アメリカでどれだけコストを下げられるのか…村井さんは持ち帰って検討することに。

優先するのは、アメリカか中国か──。決断を迫られる日本の製造業。ガイアは、4月に就任したばかりの「コマツ」今吉琢也社長(61)に話を聞いた。今吉社長の答えは……。
日本経済の屋台骨を支える、自動車産業はどうなる?

トランプ関税は、日本の稼ぎ頭、自動車産業にも大きな脅威となっている。
「大同メタル工業」(売上高1363億円 2025年3月期)の生産拠点(岐阜・関市)では、「軸受け」というエンジンの回転を支える部品を製造。世界シェアの約4割を占め、年間約1億個をアメリカへ輸出している。
大同メタル工業は、4月に発動された10%の相互関税を自社で負担しているが、今後、日米の交渉がまとまらなければ24%に跳ね上がる可能性も。

大同メタル工業の判治誠吾会長兼CEOにトランプ関税によって増えるコストについて聞くと、「部品メーカー1社で全部負担することはできない。自動車メーカーに負担をしてもらう」と回答。さらに、関税を回避するためにアメリカで製造する考えはないのかと聞くと、判治会長は「全然ない、今は。これから土地を手配して、建物を建てて設備を入れるとなると、5〜6年かかる。そうなると、トランプ大統領の任期も切れる。任期が切れて関税問題が変わったら、何だということになる。対症療法をここですべきではないと思う」と話した。
関税政策の本気度は? 副大統領の故郷で見えたもの

なぜトランプ政権は、高い関税をかけて製造業を取り戻そうとするのか。その理由を探るため、ガイアはアメリカ・オハイオ州にあるミドルタウン(人口約5万2000人)を訪ねた。
ここはさびた工業地帯で、いわゆるラストベルトの典型的な田舎町。
主な産業は100年以上前から操業するこの製鉄所で、「USスチール」より生産量が多い「クリーブランド・クリフス」が運営している。
この町に製鉄所ができたのは、1899年。自動車産業の発展とともに従業員も増え、町は次第に活気づいていった。製鉄所で働けば、中産階級の豊かな生活が約束されたのだ。
しかし、自由貿易によるグローバル経済の拡大とともに安い海外製品が入ってくると、アメリカの鉄鋼業は急速に力を失っていった。ミドルタウンの製鉄所の従業員は、この20年で約4000人から約2500人まで減っていた。

実はこの町は、J・D・バンス副大統領の出身地。バンス氏は、激戦州の白人労働者層から圧倒的な支持を集め、トランプ大統領再選の立役者ともいわれている。
そのバンス氏が、選挙中に何度も訴えた公約が「アメリカに製造業を取り戻す」。
少年時代、ミドルタウンで貧しい生活を送ったバンス氏。その悲惨な体験を描いた「ヒルビリー・エレジー」はベストセラーに。
「工場が閉鎖されると、人々はそこに取り残される」「子どもの大学の学費も資産を増やすための投資の元手も、失業に備えた蓄えも何もない」「ここに住む人たちは、絶望的な悲しみを抱えて生きている」(「ヒルビリー・エレジー」より抜粋)。

この日、市内にある支援団体の事務所では、生活困窮者に食べものを支給していた。建物から出てきたのは、食料品を両手いっぱいに持った親子だ。「本当におかしいと思う。助けてください。食べていけない」と訴える母親も。
製造業を取り戻す──。それは、アメリカの繁栄から取り残された人たちに、もう一度、希望と誇りを取り戻すことでもある。
群馬の自動車部品メーカー、迫る「相互関税」の脅威

5月26日、東京・霞が関。群馬県の山本一太知事が、日米の関税交渉を担当する赤沢亮正経済再生担当大臣を訪ねた。赤沢大臣に陳情するためだ。
地元の製造業への打撃を懸念する山本知事は、「この影響を最も受けるのは群馬県だと思う。国のレベルでやってもらうしかない」と訴える。

アメリカ市場への依存度が高い「SUBARU」の生産拠点とサプライヤーが群馬県に集積している。そこでガイアは、群馬・藤岡市にある自動車部品メーカー「豊田技研」を訪れた。豊田技研が得意とするのは、プレス機を使った「絞り加工」で、薄い鉄板から立体的な形状をつくり出す。
豊田信幸社長(71)が、「このりょう線を出すのが難しい」と話すのは、ヘッドライト用の部品。卸値は約80円だが、ヘッドライトの電球に被せる部品で外からよく見えるため、高い加工技術が必要だ。LEDライトの熱を逃す部品は1個約60円で、こうした単価の安い部品をコツコツつくり、売上高は約24億円。その半分以上をアメリカで稼いでいる。
もし、24%の相互関税がかかったらどうなるのか。
「3割くらいの利益の喪失、もしくは業績の悪化になると思う。どうなるか分からないところが非常に不安」(豊田社長)。
豊田技研の従業員数(国内)は約130人…その生活を守らなければならない。
実は、豊田技研は、1995年の日米自動車交渉の時に、アメリカの関税の影響で倒産の危機に直面した。取引先から「アメリカで部品を生産する」と通告され仕事を失いかけたが、技術力の高さを証明することで逆に注文を増やし、ピンチをチャンスに変えた。
あれから30年たった今、アメリカが本気で製造業を取り戻そうとしている。
「いまさら言われても困る。いい車が売れるのは自由競争の原理。日本で売れないからといって、日本の市場が悪いわけではない。アメリカ車を売る努力を怠っている」(豊田社長)。
一方、息子で専務の豊田信也さんは“ある秘策”を考えていた。親から子へ受け継がれる技術で、この難局に立ち向かう――。
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