世界的アパレル・ユニクロのヒートテックをナノデザインで支える!合成繊維メーカー“東レ”:読んで分かる「カンブリア宮殿」
11月13日(木)に放送した「カンブリア宮殿」のテーマは、「合成繊維メーカー“東レ”」。
【動画】苦境の業界から大逆転! 東レ 繊維テクノロジーの全貌
![記事画像]()
東京・渋谷区の「ユニクロ」原宿店。客がひかれているのは、次世代の防寒ジャケット「パフテック」だ。羽毛の構造を人工的に作り出した中綿が、驚異的な軽さと保温性能を両立させた。羽毛に変わる新たな素材として10年越しで開発したという。
一方、女性客が「必需品だ」と言うのは、通常の「ヒートテック」の約2.25倍の暖かさという「超極暖」。「ヒートテック」は現在、暖かさによって三段階で展開している。
さらに大ヒット中なのはUVカットもできる「ポケッタブルUVカットパーカ」。ストレッチ性のある着やすさと撥水性能を兼ね備え、バッグにコンパクトに収納できる。
さまざまな商品を生み出し世界的アパレルメーカーへと成長した「ユニクロ」。その裏には「ファーストリテイリング」会長兼社長の柳井正さんが絶賛する企業の存在があった。
「東レさんは繊維で本格的に研究開発をやっている。東レさんと組ませていただいて本当によかった」(柳井さん)
「ユニクロ」を支える繊維メーカー、売上高約2兆5000億円の東レ。90年代、日本の繊維産業は中国の攻勢に大打撃を受けて出荷額は大幅に減少、大手メーカーは次々に繊維事業を縮小していった。だが東レはそんな中で繊維にこだわり、奇跡的な成長を成し遂げる。
2026年、創業100年を迎える東レのもともとの社名は「東洋レーヨン」。 植物から取れるセルロースを原料とする再生繊維レーヨンを手がけていた。その後、ナイロンなどさまざまな合成繊維を作るメーカーへと進化していく。
名古屋市の東レ愛知工場。工場内に並ぶタンクには繊維の原料が詰まっているという。
「ナイロンのチップが入っています。チップはナイロンの樹脂をコメ粒のようにカットしたものです」(清水敏昭工場長)
タンクに詰まったチップは、下の階に落ちていく。
「徐々に加熱しながら260~300℃ぐらいの温度でポリマーを溶かして圧力をかけて押し出します」(清水)
![記事画像]()
溶かされて小さな穴から押し出されると、極細の繊維に。これを押し出す口金と呼ばれる金具の穴の形状で、さまざまな繊維を作り分けるという。
「口金の技術を研究開発することで、ナノサイズでコントロールするので、ありとあらゆる断面の糸が作れます」(清水)
実はこのナノレベルの糸作りのノウハウこそが、ユニクロのさまざまな機能性商品も生み出している。それが東レ最大の武器、ナノデザインだ。
ナノデザインの研究開発の中枢が静岡・三島市にある東レ繊維研究所。ナノデザインについて聞くと、「繊維にすごく細かいサイズで細工ができて、今までにできなかった複雑な断面も形成可能な技術です」(増田正人所長)と言う。
ナノデザインは、極細の繊維を加工し組み合わせることで繊維にさまざまな機能を持たせる技術なのだ。
「例えば『遮熱』は、光を強く反射できる断面の設計に、ナノスケールの構造をコントロールする必要がある」(増田)
あるジャケットに使われるのはナノデザインで作られた「デューエイト」。カジュアルな見た目なのに高い撥水性能が特長だ。
太い繊維の周りを細い繊維が囲んだ構造で、その二種類の繊維を組み合わせることで布の表面に複雑な凹凸を作り、水滴との間に空気の層ができるように設計されている。
「繊維を細くするのも難しいし、ましてや囲むように配置するのは東レだからこそできる技術です」(繊維研究所・松浦知彦)
驚きの繊維技術を生み出した東レのポリシーが「極限追求」という言葉だ。
「『極限追求』は東レのDNAです。非常に強い糸を作りなさいとか、のぼっていく過程でいろいろなものが生み出される」(増田)
極限を突き詰めていく姿勢こそが今までにない商品を生み出せるのだという。
長年「ユニクロ」で商品開発を任されてきた「ファーストリテイリング」グループ上席執行役員の勝田幸宏さんも、2024年発売した「極暖ヒートテックカシミヤブレンド」で、天然のカシミヤと「ヒートテック」のブレンドを実現した東レの技術に舌を巻いたという。
「細い繊維と細かい編みの『ヒートテック』にカシミヤを入れてくるので、機械も普通の『ヒートテック』と違う。非常に着心地もよく、より軽くよりあたたかい商品ができました。東レさんなしに我々のアイデアは具現化できなかった。矛盾を一緒に解決してくれるパートナーです」(勝田さん)
2006年に戦略的パートナーシップを結んだ「ユニクロ」と東レ。今、繊維とアパレルの巨大企業2社は、まるで1つのチームのように毎週ミーティングを開いている。
東レは「ユニクロ」のスピード重視の商品作りに応えるため、東京・江東区の「ユニクロ」有明本部のすぐ近くに拠点の「有明ラボ」を構えている。
「ユニクロさんのためにつくったような設備」(グローバルSCM事業部門長・石川元一)にはアイデアをすぐに実現できる服づくりの工房が。その提案は繊維だけではないという。
「まだ商品化されてないのですが、着脱しやすい『ヒートテック』が欲しいという声があったので……」(石川)と、新たなアイデアの試作品まで作っているのだ。
「お客様が実際にどういうものが欲しいかをしっかり把握する。ユニクロさんと一緒になって具体的にものづくりを進めていくことが極めて重要だと思います」(石川)
そんな東レを率いるのは、さまざまなヒットを生んだ繊維営業の猛者、社長・大矢光雄(69)だ。「一番の強みは現場力」と言って全国をまわり、現場の声を聞き続けている。
![記事画像]()
栃木・茂木町のサーキット「モビリティリゾートもてぎ」で行われたのはFIA-F4選手権第13戦の決勝戦。FIA-F4はトップドライバーを目指す若手の、いわば“モータースポーツの甲子園”と位置付けられている。
「自分が手掛けたレーシングカーがこれだけの台数並んでいるので、ある意味わが子のよう」と言うのは「東レ・カーボンマジック」の萱原淳一。参加する50台の車のシャシー全てを東レが作っているという。その理由が驚くほど軽い材質にあった。
「ドライバーが乗り込む部分は100%カーボンファイバー(炭素繊維)でできています」(萱原)
炭素繊維とはアクリル繊維などを高温で焼いて作り出す素材。自動車の車体からスポーツ用品まで、今やさまざまな製品に使われている。最大の特徴は軽いのに丈夫なこと。鉄に比べ4分の1の軽さで、強度は10倍に達する。
![記事画像]()
FIA-F4では車体全体に炭素繊維を使用し公式サプライヤーとして製造。スーパーGT500のクラスでも、ドライバーが乗る部分は東レの炭素繊維で作られたものが採用されている。
「世界最強のモノコック。全体を覆い、バスタブの中にドライバーが入っているよう」(「GTアソシエイション」代表・坂東正明さん)
その最大のメリットは事故の際もドライバーの被害を最小限にしてくれることだという。
「すごいクラッシュでもドライバーは生存して、今もうレーシングドライバーとしてやっている。最強のモノコックを作り上げたのは東レの技術」(坂東さん)
東レは炭素繊維で世界トップレベルを誇るパイオニアだ。需要が拡大している巨大な風力発電のブレードから、競争が激しい宇宙ロケットの重要なパーツまで、東レの炭素繊維は引っ張りだことなっている。
滋賀・米原市の「東レ・カーボンマジック」。社長・奥明栄が「炭素繊維は糸なので引っ張る方向だけに強度を発現する。何をやったって絶対切れないです」と説明する。
それをシート状に織り込むと、「炭素繊維に熱をかけたら固まる樹脂を染み込ませた『プリプレグ』と呼ばれる材料」(奥)になる。炭素繊維に特殊な樹脂を浸透させたプリプレグを、手作業で何層にも貼り合わせていくことで強度が生み出されるという。
柔らかいシートなので自由な形状を作ることができる。
仕上げは「高温、高圧の環境をつくり、徐々に樹脂を硬化させる」(奥)。専用の窯で長時間、高温高圧をかけ固めることで、軽量で驚くほどの強度を持つ炭素繊維の素材が出来上がる。
東レが炭素繊維の開発を始めたのは1961年。実用化とは程遠い段階から、大きな目標を立てたという。
「我々の技術者は最初から航空機に適切な素材であると、ずっと追い求めてきた」(大矢)
いつか軽くて強い炭素繊維で飛行機をつくる。長年、事業に携わってきた複合材料事業本部長・吉山高史によると。炭素繊維の最初のビジネスはアユ竿(ざお)。1972年、軽くて折れにくい釣竿が商品化された。続いてはテニスラケット。ただし、当時はまだ木材を補強する一部として使われた。
「用途開発も含めて いろいろな企業へ営業活動を開始しました」(吉山)
プロジェクトを継続させるため、コツコツと収益を上げられる用途を探し続けた。
そして開発開始から45年経った2006年、ついに機体の大半を炭素繊維でつくるボーイング787への長期供給契約にこぎつける。
![記事画像]()
当時、常務だった大西盛行は「炭素繊維で飛行機を飛ばすのが夢だった。世界を我々が変えたという思いがしました」と語っている。東レの長い執念の挑戦が、炭素繊維事業を売り上げ3000億円の巨大ビジネスへと成長させたのだ。
「長い期間、筋のいいものを見つけて、これは絶対何とかなると実現していく」(吉山)
【動画】苦境の業界から大逆転! 東レ 繊維テクノロジーの全貌

ユニクロヒット続々の裏側~「100年企業」驚異の開発力
東京・渋谷区の「ユニクロ」原宿店。客がひかれているのは、次世代の防寒ジャケット「パフテック」だ。羽毛の構造を人工的に作り出した中綿が、驚異的な軽さと保温性能を両立させた。羽毛に変わる新たな素材として10年越しで開発したという。
一方、女性客が「必需品だ」と言うのは、通常の「ヒートテック」の約2.25倍の暖かさという「超極暖」。「ヒートテック」は現在、暖かさによって三段階で展開している。
さらに大ヒット中なのはUVカットもできる「ポケッタブルUVカットパーカ」。ストレッチ性のある着やすさと撥水性能を兼ね備え、バッグにコンパクトに収納できる。
さまざまな商品を生み出し世界的アパレルメーカーへと成長した「ユニクロ」。その裏には「ファーストリテイリング」会長兼社長の柳井正さんが絶賛する企業の存在があった。
「東レさんは繊維で本格的に研究開発をやっている。東レさんと組ませていただいて本当によかった」(柳井さん)
「ユニクロ」を支える繊維メーカー、売上高約2兆5000億円の東レ。90年代、日本の繊維産業は中国の攻勢に大打撃を受けて出荷額は大幅に減少、大手メーカーは次々に繊維事業を縮小していった。だが東レはそんな中で繊維にこだわり、奇跡的な成長を成し遂げる。
2026年、創業100年を迎える東レのもともとの社名は「東洋レーヨン」。 植物から取れるセルロースを原料とする再生繊維レーヨンを手がけていた。その後、ナイロンなどさまざまな合成繊維を作るメーカーへと進化していく。
名古屋市の東レ愛知工場。工場内に並ぶタンクには繊維の原料が詰まっているという。
「ナイロンのチップが入っています。チップはナイロンの樹脂をコメ粒のようにカットしたものです」(清水敏昭工場長)
タンクに詰まったチップは、下の階に落ちていく。
「徐々に加熱しながら260~300℃ぐらいの温度でポリマーを溶かして圧力をかけて押し出します」(清水)

溶かされて小さな穴から押し出されると、極細の繊維に。これを押し出す口金と呼ばれる金具の穴の形状で、さまざまな繊維を作り分けるという。
「口金の技術を研究開発することで、ナノサイズでコントロールするので、ありとあらゆる断面の糸が作れます」(清水)
実はこのナノレベルの糸作りのノウハウこそが、ユニクロのさまざまな機能性商品も生み出している。それが東レ最大の武器、ナノデザインだ。
東レ生き残りの道しるべ1~「極限追求」で驚きの商品を生み出す
ナノデザインの研究開発の中枢が静岡・三島市にある東レ繊維研究所。ナノデザインについて聞くと、「繊維にすごく細かいサイズで細工ができて、今までにできなかった複雑な断面も形成可能な技術です」(増田正人所長)と言う。
ナノデザインは、極細の繊維を加工し組み合わせることで繊維にさまざまな機能を持たせる技術なのだ。
「例えば『遮熱』は、光を強く反射できる断面の設計に、ナノスケールの構造をコントロールする必要がある」(増田)
あるジャケットに使われるのはナノデザインで作られた「デューエイト」。カジュアルな見た目なのに高い撥水性能が特長だ。
太い繊維の周りを細い繊維が囲んだ構造で、その二種類の繊維を組み合わせることで布の表面に複雑な凹凸を作り、水滴との間に空気の層ができるように設計されている。
「繊維を細くするのも難しいし、ましてや囲むように配置するのは東レだからこそできる技術です」(繊維研究所・松浦知彦)
驚きの繊維技術を生み出した東レのポリシーが「極限追求」という言葉だ。
「『極限追求』は東レのDNAです。非常に強い糸を作りなさいとか、のぼっていく過程でいろいろなものが生み出される」(増田)
極限を突き詰めていく姿勢こそが今までにない商品を生み出せるのだという。
長年「ユニクロ」で商品開発を任されてきた「ファーストリテイリング」グループ上席執行役員の勝田幸宏さんも、2024年発売した「極暖ヒートテックカシミヤブレンド」で、天然のカシミヤと「ヒートテック」のブレンドを実現した東レの技術に舌を巻いたという。
「細い繊維と細かい編みの『ヒートテック』にカシミヤを入れてくるので、機械も普通の『ヒートテック』と違う。非常に着心地もよく、より軽くよりあたたかい商品ができました。東レさんなしに我々のアイデアは具現化できなかった。矛盾を一緒に解決してくれるパートナーです」(勝田さん)
2006年に戦略的パートナーシップを結んだ「ユニクロ」と東レ。今、繊維とアパレルの巨大企業2社は、まるで1つのチームのように毎週ミーティングを開いている。
東レは「ユニクロ」のスピード重視の商品作りに応えるため、東京・江東区の「ユニクロ」有明本部のすぐ近くに拠点の「有明ラボ」を構えている。
「ユニクロさんのためにつくったような設備」(グローバルSCM事業部門長・石川元一)にはアイデアをすぐに実現できる服づくりの工房が。その提案は繊維だけではないという。
「まだ商品化されてないのですが、着脱しやすい『ヒートテック』が欲しいという声があったので……」(石川)と、新たなアイデアの試作品まで作っているのだ。
「お客様が実際にどういうものが欲しいかをしっかり把握する。ユニクロさんと一緒になって具体的にものづくりを進めていくことが極めて重要だと思います」(石川)
そんな東レを率いるのは、さまざまなヒットを生んだ繊維営業の猛者、社長・大矢光雄(69)だ。「一番の強みは現場力」と言って全国をまわり、現場の声を聞き続けている。

栃木・茂木町のサーキット「モビリティリゾートもてぎ」で行われたのはFIA-F4選手権第13戦の決勝戦。FIA-F4はトップドライバーを目指す若手の、いわば“モータースポーツの甲子園”と位置付けられている。
「自分が手掛けたレーシングカーがこれだけの台数並んでいるので、ある意味わが子のよう」と言うのは「東レ・カーボンマジック」の萱原淳一。参加する50台の車のシャシー全てを東レが作っているという。その理由が驚くほど軽い材質にあった。
「ドライバーが乗り込む部分は100%カーボンファイバー(炭素繊維)でできています」(萱原)
炭素繊維とはアクリル繊維などを高温で焼いて作り出す素材。自動車の車体からスポーツ用品まで、今やさまざまな製品に使われている。最大の特徴は軽いのに丈夫なこと。鉄に比べ4分の1の軽さで、強度は10倍に達する。

FIA-F4では車体全体に炭素繊維を使用し公式サプライヤーとして製造。スーパーGT500のクラスでも、ドライバーが乗る部分は東レの炭素繊維で作られたものが採用されている。
「世界最強のモノコック。全体を覆い、バスタブの中にドライバーが入っているよう」(「GTアソシエイション」代表・坂東正明さん)
その最大のメリットは事故の際もドライバーの被害を最小限にしてくれることだという。
「すごいクラッシュでもドライバーは生存して、今もうレーシングドライバーとしてやっている。最強のモノコックを作り上げたのは東レの技術」(坂東さん)
東レは炭素繊維で世界トップレベルを誇るパイオニアだ。需要が拡大している巨大な風力発電のブレードから、競争が激しい宇宙ロケットの重要なパーツまで、東レの炭素繊維は引っ張りだことなっている。
滋賀・米原市の「東レ・カーボンマジック」。社長・奥明栄が「炭素繊維は糸なので引っ張る方向だけに強度を発現する。何をやったって絶対切れないです」と説明する。
それをシート状に織り込むと、「炭素繊維に熱をかけたら固まる樹脂を染み込ませた『プリプレグ』と呼ばれる材料」(奥)になる。炭素繊維に特殊な樹脂を浸透させたプリプレグを、手作業で何層にも貼り合わせていくことで強度が生み出されるという。
柔らかいシートなので自由な形状を作ることができる。
仕上げは「高温、高圧の環境をつくり、徐々に樹脂を硬化させる」(奥)。専用の窯で長時間、高温高圧をかけ固めることで、軽量で驚くほどの強度を持つ炭素繊維の素材が出来上がる。
東レ生き残りの道しるべ2~「超継続開発」で飛行機を飛ばす
東レが炭素繊維の開発を始めたのは1961年。実用化とは程遠い段階から、大きな目標を立てたという。
「我々の技術者は最初から航空機に適切な素材であると、ずっと追い求めてきた」(大矢)
いつか軽くて強い炭素繊維で飛行機をつくる。長年、事業に携わってきた複合材料事業本部長・吉山高史によると。炭素繊維の最初のビジネスはアユ竿(ざお)。1972年、軽くて折れにくい釣竿が商品化された。続いてはテニスラケット。ただし、当時はまだ木材を補強する一部として使われた。
「用途開発も含めて いろいろな企業へ営業活動を開始しました」(吉山)
プロジェクトを継続させるため、コツコツと収益を上げられる用途を探し続けた。
そして開発開始から45年経った2006年、ついに機体の大半を炭素繊維でつくるボーイング787への長期供給契約にこぎつける。

当時、常務だった大西盛行は「炭素繊維で飛行機を飛ばすのが夢だった。世界を我々が変えたという思いがしました」と語っている。東レの長い執念の挑戦が、炭素繊維事業を売り上げ3000億円の巨大ビジネスへと成長させたのだ。
「長い期間、筋のいいものを見つけて、これは絶対何とかなると実現していく」(吉山)
資源ごみから生まれた「白無垢」&超人気カバンが進化
東京・千代田区の「有楽町マルイ」の靴売り場で人だかりをつくっていたのが「ケソウ」というニット製のパンプス。他にない履き心地で人気を呼んでいるのだが、その秘密が「くつ下みたいなフィット感」。片足約140グラムという軽さで、履いていることを忘れてしまいそうなフィット感だという。

驚くべきはその原料。ペットボトルを再生した糸から作られるのだ。「マルイ」の店頭でもペットボトルを回収。それを繊維に再生しパンプスを作ることで資源を循環させている。
「ペットボトル再生糸というものは世の中にたくさんあると思いますが、撥水加工とか、機能性のところも一緒に作っていただいている」(「丸井」EC事業本部・長野未来さん)
それを可能にしているのが東レの「&+(アンドプラス)」というリサイクル事業だ。
資源ゴミとして回収されたペットボトルから不純物を取り除き、ポリエステルのチップに。それを東レの技術力で、通常と変わらない白さや強度を持った糸に再生。2020年からさまざまな商品に活用しているのだ。
リサイクルの糸から東レの社員が同僚のために送ったプレゼントは、結婚式で着る白無垢。

ペットボトルで作った再生糸とは考えられない白さこそ、東レが培った技術力の証だ。
「この白さをしっかり出すことは非常に技術力がいる。回収したペットボトルから徹底的に異物を除去して、限りなくきれいな状態にしたものを原材料として使うことが大事になります」(繊維CE戦略室室長・白石肇)
東京・渋谷区の「吉田カバン」のブランド「ポーター」の直営店「ポーター表参道」。日本製の高い品質と飽きのこないデザインから、熱烈なファンを持つ。
「ポーター」を代表する商品が「タンカー」シリーズ。最近、この「タンカー」から東レの力で驚くような商品が生まれた。
「どこにもまねができないものができたと思います。他の企業と組んでも生まれなかったので、東レさんの技術力と携わってくださった皆さんの熱意のおかげです」(「吉田カバン」開発本部本部長・松原賢一郎さん)
その開発を担当したのがフィラメント技術部の兼田千奈美だ。
「100%植物由来のナイロンになります。従来のナイロン繊維は石油由来のものが多いですが、こちらのナイロン繊維はヒマという植物とトウモロコシからできます」(兼田)
100%植物由来の原料から作られた糸だが、従来のナイロンと変わらない強度も実現しているという。
「先輩たちの知識やデータがたくさんありますので、どこに着目したら課題解決できるか、アイデアが浮かんできます。東レがずっとナイロン繊維をやってきたからではないかと思います」(兼田)

東レの技術で「地球にやさしい」という全く新たな価値を持った「タンカー」。繊維技術を極めることで社会課題の解決にも挑む東レの挑戦はこれからも続いていく。
業界にブームを巻き起こす~高価格ストッキング誕生秘話
大阪市の「ATSUGI」天王寺ミオ店。今や女性の足まわりには各社がさまざまな機能性を打ち出している。
そんな中、長時間働く女性から支持されるのは「着圧ストッキング」。足に圧力をかけて引き締める機能を持つ。「アツギ」の担当者は「足首、ふくらはぎ、太ももの着圧値を変えた設計にして、足元をスッキリ履ける商品になっています」と言う。
「着圧ストッキング」の最初のヒットを生んだのは他ならぬ、東レの大矢だ。
1980年に東レに入社した大矢は若くして注目される社員だった。社内報には、大矢が30代の頃に大ヒットさせた機能性ストッキングの経緯を紹介する記事が残っている。
その始まりは、ある女性経営者からかかってきた1本の電話だった。
「たまたま連絡があって、『立ち仕事をする女性は足がむくむから、むくまないストッキングを作ってください』と。そこから開発がスタートしました」(大矢)
大矢は早速チームを組み、働く女性の悩みを解消するストッキングの開発に乗り出す。部分ごとに圧力を変える商品設計から糸の開発まで、試行錯誤を繰り返した。
そして世に出したのが「ジェンティルドンナ」。1万2000円という高価格にもかかわらず、「スリムに見えるストッキング」として飛ぶように売れた。

「当時、500円の商品が主流だったが、飛ぶように売れたということで、日経のヒット商品番付に入りました。価値ある商品があればお客様も買ってくれる」(大矢)
このヒットが機能性ストッキングを一気に知らしめ、さまざまな商品が各社から生み出されるきっかけのひとつになった。
そして若き大矢が挑んだ「安売りをしない付加価値戦略」は、その後の東レのものづくりにも浸透していくことになる。
世界の「水問題」に挑戦~ドロドロの水を透明に
ベンガル湾に面したインドのチェンナイ。市内を視察に回る「東レ・インディア」の花田茂久の目的は強烈な臭いを放つ汚れた水場だ。
日本なら処理場で浄化される下水が垂れ流しに。チェンナイ市内には悪臭を放つ場所があちこちにある。花田の使命は東レの技術でこの下水問題を解決することなのだ。
「水処理の技術を組み合わせて浄化することはできます」(花田)
コンテナの内部には下水の水質を浄化する実験施設が。花田は研究者として最終的な水質浄化プラントの建設のため赴任しているのだ。
「水は地元によって水質が異なるので、現地の水を使って実験するのがポイントです」(花田)
東レがすでに稼働させているプラントの視察に同行した。ムンバイから北へ5時間、大きな工場が見えてきた。
敷地内に集められていたのは古紙など。ここはリサイクルの紙を作る製紙工場で、製造過程で大量に出る工場排水に悩んでいたという。
「工場排水は下水よりさらに汚いので浄化処理も難しい」(花田)
室内には筒状のものがずらりと並んだ設備が。これは東レが開発した膜を使った水処理プラントだ。この工場の排水に合わせ、「UF膜」と「RO膜」という2種類の浄化装置などを組み合わせているという。このプラントに先ほどの工場排水を通すと、驚くほどの透明な水になった。

「『RO膜』はいつも優れた性能を発揮してくれます。東レの全ての製品に大満足しています」(「RKウォーターマネジメントシステムズ」ラケシュ・ラッド代表)
滋賀・大津市の東レ地球環境研究所は、世界中に輸出する水処理膜の研究開発を担っている。その根本の技術となっているのはやはり繊維作りのノウハウだ。
東レはさまざまな種類の水処理技術を取りそろえているが、特に細かい物質を除去できるのが世界トップレベルのシェアを誇るRO膜だ。
RO膜は紙のようなシート状の膜。筒状のユニットの中心にあるパイプに取り付けられているのが折りたたんだRO膜で、その極小の穴が空いた分離膜は、除去が難しい塩分まで取り除くことが可能だ。このRO膜が20枚以上、中心パイプに巻きつけられていて、汚れた水は幾重ものRO膜を通る中でろ過され、中心のパイプへと集まってくる。こうして水がろ過される仕組みだ。
RO膜の技術は、海水を飲み水に変える淡水化などで、サウジアラビアなどすでに世界中で使われている。
世界中でRO膜が飲み水を作りだし、水処理事業の売り上げは1000億円に迫る。
「海水淡水化ではグローバルの約50%のシェア。10億人分以上の水を東レの膜を使って作っています」(地球環境研究所・峯岸進一所長)
急速に都市化が進む人口14億人のインドもやはり水不足は深刻な問題となっている。 東レは、繊維技術が生んだ世界屈指の水処理膜で下水処理と水不足の両方を解決しようと、現地で準備を進めているのだ。
「まだ小さい設備ですが、将来的には水の供給に貢献したい」(花田)
百貨店売り場で注目の商品~「画期的」とプロがうなった
東京・中央区の「日本橋三越本店」本館4階の呉服フロア。新作着物フェアの案内に「東レシルック」の文字があった。洗濯できる合成繊維でありながら、最高級の天然繊維、絹を追求すべく、東レが長年開発を続けてきた「シルック」シリーズだ。
値ごろ感と使いやすさからファンをつかんできた「シルック」に最近、新商品が加わった。新しい素材の「シルック美來(みらい)」。「シルック」の良さはそのままに、ストレッチ性を加えた。着物のプロから見ても驚きの出来だという。

「着崩れが少なく画期的だと思いました。絹に近い風合いが出せている」(「荒川」販売員・市川俊子さん)
この「シルック美來」も繊維研究所でナノデザインの技術により生み出された。2種類の複雑な断面の繊維を組み合わせ、生地の表面に特徴を出すことで、従来のものより摩擦感が増し、着崩れしづらくなったという。
「置いてもすべらない。襟元で摩擦が高くて着崩れせず、ずれない」(繊維研究所・住田晴菜)
さらに絹特有の「絹鳴り」という音まで再現してみせた。
「『着心地もいいけど着崩れる』という声がずっと付きまとっていました。それをナノデザインでブレイクスルーしようと出来上がったのが『シルック美來』です」(前出・増田所長)
革新的な繊維を生み出してきた東レ。果たしてどこまで進化させるのか。
トマトをおいしく育てるシート~ビニールハウスが涼しい理由
高知・大豊町の山間で東レの全く新たな分野への挑戦が始まっている。新規事業担当の産業資材事業部・森寛知たちの目的地は、あるビニールハウスだ。
生産者の「おおた農園」代表・太田剛さんが作っていたのは真っ赤に色づいたおいしそうなミニトマト。森たちが開発した東レの商品のおかげで品質が一気に向上したという。
最近の暑さでトマトが高温障害を起こし、着色不良になってしまっていた。
「A品とB品といわれるものでは全然値段が違う。倍近く違う時もあった」(太田さん)
その悩みを解決したのが、東レの繊維技術で開発した農業用遮熱シートだ。
「白の部分のフィルムで光の影をつくってあげて、青の部分で光の熱源となる、赤外線を吸収して涼しくしてあげる」(森)
光合成に必要な光はそのまま取り入れる一方、シートの効果で温度を最大5℃も下げることができるという。トマトの価値が上がるだけでなく、ハウス内の熱さが厳しかった作業も楽になったという。

これはトマト農家向けの製品だが、東レはその先も見据えていた。
「我々としては第一歩。東レとして農業用遮熱シートは初めてだった。作物に応じた製品や、農家さんの希望に合った遮光率など、チューニングしながらラインアップを増やしていきたいと思っています」(森)
ある日、大矢は神奈川・鎌倉市の東レ先端融合研究所を視察に訪れていた。
「キャッサバのかすから糖を作って、糖から繊維の原料を作ろうとしているんです」(大矢)
タピオカの原料として知られるイモのキャッサバ。そのでんぷんを取り出した搾りかすからできた糖を使い、ナイロンの原料となるアジピン酸を作り出すという次世代繊維への挑戦だ。
「研究開発が一丁目一番地、いかにゼロイチの商品をたくさん持っているかが東レの強み。環境に優しい商品をどんどん世に出すのが化学メーカーのミッションです」(大矢)
挑戦の現場で大矢が社員たちに、投げかける言葉が「フルスイング」だ。「三振をいっぱいした方がいいよ、失敗しないと分からないから」「頑張って失敗してください」……。
「『まずはバッターボックスに立ちなさい』と言っているんです」(大矢)
失敗を恐れない「フルスイング」にこそ未来があるのだ。
~村上龍の編集後記~
東レの「レ」はレーヨンの略だ。1970年「東洋レーヨン」を東レに変えた。大矢さんは、1980年の入社だが、パンストやストッキングに使われる衣料用ナイロンの営業を担当した。「糸売りの中でもパンティーストッキング用途は、最終製品にもっとも近く、原糸メーカーがイニシアチブをとってモノ作りに関与できる。それだけ無限にビジネスチャンスや可能性があるということに、ある種の喜びと怖さを感じる」当時の言葉だ。「ナイロンの大矢」と呼ばれていた。今も、赤字停滞は、許さない。
<出演者略歴>
大矢光雄(おおや・みつお)1956年、千葉県生まれ。1980年、慶應義塾大学法学部卒業後、東レ入社。2002年、長繊維事業部長就任。2014年、東レインターナショナル社長就任。2023年、社長就任。
見逃した方は、テレ東BIZへ!
※このページの掲載内容は、更新当時の情報です。