急増中【青い鳥症候群】とは?「もっといい場所があるはず……」という病


青い鳥画像:PIXTA

「今の仕事は本当に自分に合っているのだろうか」「もっと私を理解してくれるパートナーがいるのではないか」……。
スマホを開けば、自分よりも輝いて見える誰かの日常が流れ、新しい仕事や出会いにアクセスできる時代。「隣の芝生が青く見える」という人も多いはず。

「テレ東プラス」は、心理カウンセラーの小日向るり子氏を取材。
現代で増えつつある「青い鳥症候群」という心理的迷宮。その背景を考察し、処方箋となるアドバイスをまとめた。

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「青い鳥症候群」の定義とは?


――「青い鳥症候群」とは、どのような状態を指すのでしょうか。

「この言葉は、メーテルリンクの有名な童話『青い鳥』に由来しています。
主人公のチルチルとミチルが“幸せを運ぶ青い鳥”を探して旅を続け、最後は自分たちのすぐそば(家)にいたことに気づく物語ですね。
心理学的な意味での“青い鳥症候群”とは、“現状に満足できず、もっと自分にふさわしい、より良い場所や幸せがどこかにあるはずだ”と信じて、次々と環境を変えたり、理想を追い求め続けたりする心理傾向を指します。
重要なのが、これは医学的な病名ではなく、ある種の心理傾向を表すスラング的な言葉だということ。現代では、転職を繰り返したり、人間関係をリセットし続けたりする若者や、婚活で“もっと良い人がいるかもしれない…”と決断できない状態を指す際によく使われます」

――先生は、今の時代だからこそ「青い鳥」を探してしまう人が増えているとお考えですか。

「現代の環境要因は大きく関与していると思います。一昔前なら、一つの会社に定年まで勤めることが社会的な信頼であり、経済的な安定でした。でも今は違います。早期退職を募集するという企業のニュースもしばしば目にするようになりましたし、転職サイトのCMが頻繁に流れてくる。“一つの場所にしがみつくのはリスクだ”という価値観さえ生まれています。

特に私が転換点だったと感じるのは、YouTubeなどの台頭と共に広まった“好きなことで生きていく”というキャッチコピー。この言葉自体はポジティブなものですが、受け取り方によっては、“嫌なことはしなくていい”“今いる場所が少しでも楽しくなければ、そこは自分の居場所ではない”という、自分にとって都合の良い解釈につながってしまいます。その結果、もっと好きになれることを探して放浪してしまう人が増えているのではないでしょうか」

――若い世代ほど、その傾向は強いのでしょうか。

「若い方はこれから生きる時間が長く、可能性が無限にあると信じられる時期でもあります。50代の私からすれば、残された時間を考えて“今あるものを大切にしよう(足るを知る)”と思えますが、20代であれば“もっと上が、もっと次が”と焦るのも無理はありません。もしも私が今20代だったら、きっと間違いなく“青い鳥症候群”になっていたと思います」

青い鳥画像:PIXTA

マッチングアプリが加速させる“恋愛ジプシー”


――仕事だけでなく、恋愛においても「青い鳥」を探す人が増えていますか?

「そうですね。恋愛面では、特にマッチングアプリの普及が大きな影響を及ぼしていると考えています。昔は出会いといえば、社内や友人の紹介など、限られたコミュニティーの中だけで生まれるものでした。一度別れたら次の出会いがいつになるかわからない……だからこそ、目の前の相手とどう向き合うかを必死に考えたのです。

しかし今は、スマホ一つで1時間に何十人ものプロフィールを閲覧し、メッセージを送れます。“この人、ちょっと違うな”と思えばブロックして次を探せばいい。若くてスペックが高ければ高い人ほど、申し込みは絶えません。
この“無限の選択肢がある”という錯覚が、“もっと自分に合うパートナーがいるはずだ”という幻想を強化し、いつまでも一人に絞れない、あるいは関係が深まる前に次へ行ってしまう“恋愛ジプシー”を生み出しているのです」

青い鳥画像:PIXTA

――「もっと上を目指したい」という向上心と、「青い鳥症候群」のような逃避はどう見分ければいいのでしょう。

「そこが非常に重要なポイントです。私は、青い鳥症候群には二つの側面があると考えています。 一つは“ポジティブな自分探し”。もう一つは“現実からの逃避”です。
例えば大谷翔平選手の場合。彼は高校時代からメジャーリーグという高い目標を持っていましたが、ただ“いつかメジャーに行きたい”と夢想していたわけではありません。そのために1年後にはどこに到達するか、1週間後には何をするかという現実的な階段を一段ずつ具体的に設計し、それを実行していました。

一方、“現実からの逃避”タイプの人は、“今を見ずに、遠い未来の輝きだけを見ている”状態。『今の仕事はつまらない。〇〇業界に行けば自分は輝けるはずだ』と言いながら、そのために必要なスキルアップや地道な努力をしていない……これでは、場所を変えてもまた同じことの繰り返しになってしまいます」

――家庭を持っている人の場合、青い鳥症候群が及ぼすデメリットはありますか?

「最も現実的で深刻なのは経済的な不安定です。『もっと良い職場を』と転職を繰り返すことで年収アップができる人は少数です。結局はスキルが積み上がらず、年収が頭打ちになったり、退職金の面でも不利になったりします。特にお子さんがいる場合、その不安定さは家族全体のストレスに直結します。

また、家庭における“比較”も毒になります。SNSを見れば“あそこの家は頻繁に旅行に行っている”“あの塾に通わせている”という情報が入ってきます。すると親は、今の平穏な家庭生活があるにもかかわらず、“もっといい生活を、もっといい教育を”と青い鳥を追いかけ、怪しい儲け話や身の丈に合わない出費に手を出してしまうことも。結果として、本来守るべきはずの足元の幸せ(家庭)を崩してしまうケースも少なくありません」

「足るを知る」ための実践的トレーニング


――では、自分が「青い鳥」を追いかけすぎていると気づいたとき、どうすればよいのでしょうか。

「私の座右の銘でもあるのですが、“足るを知る”という言葉を大切にしてほしいです。 これは“ないものを数えるのではなく、あるものに感謝する”という知恵です。

ただ、今の若い方に“足るを知る”と言ってもピンとこないかもしれません。そこで私が勧めているのが、“強みの書き出し”と“スモールステップの記録”です。
現代人は、自分に足りないものを見つける天才です。英語ができない、年収が低い、社交性がない……。リストを書かせると、欠点ばかりが並びます。
そうではなく、ぜひ、今自分が持っているものやできていることを書き出してみてください。

例えば仕事なら、“1時間で100個検品できるようになった”とか“今日は同僚にありがとうと言われた”とか、些細なことでいいのです。その小さな“できたこと”を積み重ねて、1週間後の目標を立てる。どこかの森にいる青い鳥を探すのを一度やめて、自分の手のひらにすでにいる鳥をしっかり見つめる練習をしてみましょう」

――最後に、現状に満足できず、迷いの中にいる読者へメッセージをお願いします。

「今のあなたが“もっといい場所があるはずだ”と悩むのは、膨大な情報の波にさらされている現代の環境のせいでもあると、まずは自分を許してあげましょう。人は向上心があるからこそ、悩むのです。
もしも旅に疲れたなら、一度スマホを置いて、自分の周りを見渡してみてください。 SNSのキラキラした誰かと比べるのをやめ、自分自身に集中すること。そして、何はともあれ今日一日をやり遂げた自分に“私は偉い”と言ってあげてください。

青い鳥は探しに行くものではなく、あなたが今いる場所で育てていくものかもしれません。あなたが“今持っているもの”に着目し、自信を持って毎日を過ごしてください」

【小日向るり子 プロフィール】

急増中【青い鳥症候群】とは?「もっといい場所があるはず……」という病
(社)日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー。JAAアロマコーディネーター。
1971年静岡県出身。同志社女子大学短期大学部英米語学科卒業後、増進会出版社(現:Z会ホールディングス)に入社。勤務しつつ活動していた社団法人での自殺予防電話ボランティア相談員としての4年間の活動がカウンセラーを志すきっかけとなる。
退社後、(社)日本産業カウンセラー協会産業カウンセラー資格を取得。2010年より労働局にてセクシャルハラスメント相談員として勤務し、2011年3月任期満了にて終了。
2012年「フィールマインド」を設立。対面・電話・メールでカウンセリングを行なう傍ら心理・恋愛関連の執筆活動も行なう。相談受付件数6500件超(2025年4月現在)。著書に「何でもまわりのせいにする人たち」(フォレスト出版)がある。

(取材・文/蓮池由美子)
 
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