総合的なエネルギー企業へ!東京ガスの“チャレンジングな”成長戦略とは:読んで分かる「カンブリア宮殿」

1月8日(木)に放送した「カンブリア宮殿」のテーマは、「日本のエネルギーを支える”東京ガス”」。

【動画】日本のエネルギーを支える 知られざる巨大企業の全貌

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「総合的なエネルギー企業」へ~変化する日本最大の都市ガス会社


物価高による家計の負担を軽減するため、政府は2026年1月~3月の電気・ガス料金を補助。しかし、その先は不透明だ。日本のエネルギー自給率は約15%と世界の中でも圧倒的に低く、輸入に頼らざるを得ない。さらに国際情勢や環境問題からエネルギー全体の見直しも迫られている。そんななかで、日本のエネルギーを支えるガリバー企業が注目される。

この日、東京・豊洲で行われていたクッキング教室。作っていたのはフランスの卵料理キッシュだ。

キッシュは通常オーブンでじっくり焼き上げるが、ここでは「できるだけ使うガスの量を減らす」ために魚を焼くグリルへ。オーブンだと20分ぐらいかかるところ、グリルなら加熱時間は7分。あとは3分の余熱で十分だとか。グリルは温度が急速に上がるため、うまく使えば時間とガス代を節約できるという。

こうしたエコと料理を合わせたエコクッキング教室。主催しているのが東京ガスだ。

日本の家庭で使われているガスは大きく分けて2種類ある。一つは石油由来のプロパンを主原料とするプロパンガス。ガスボンベに充填(じゅうてん)して届けられる。もう一つが都市ガスで、地下のパイプを通して送られる。東京ガスが供給しているのはこれだ。

都市ガスは動植物由来でLNG(液化天然ガス)とも言う。家庭やビル・工場のほか主に火力発電用に使われている。

LNGは大半をオーストラリアやマレーシア、アメリカなど海外から輸入。マイナス162度に冷やして液体にして日本まで輸送する。液体にすると気体の時より容積が600分の1になって大量輸送しやすくなるのだ。

千葉・袖ヶ浦市の東京ガス袖ヶ浦LNG基地はLNGが運び込まれる基地の一つ。広さは東京ドーム17個分。タンカーで運ばれてきたLNGはパイプで基地に送り込まれタンクに貯蔵される。タンク一つで20万世帯1年分の量となる。

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海水の熱を使って冷えたガスの温度を上げ、液体から気体に戻していく。その後、ガスは地下に整備されたパイプを通じて家庭やビルに届けられる。顧客数は主に首都圏の約880万件にのぼる。

ガスを供給するだけでなく、欠かせない仕事が全ての顧客の元を定期的に訪ねて行う点検など。給湯器に不具合はないか、排気口は壁のどこにあるのか、コンロの燃え方は正常か、などを入念にチェックする。すべてのガス機器周りを点検することで事故の防止に向き合っている。

東京ガスは都市ガスの会社としては日本最大。売り上げは2兆6368億円(2024年度)にのぼる。本社は東京・港区。創立は1885年で従業員は1万5000人を超える(2025年3月時点)。

近年、家庭でのエネルギー事情に変化が起きている。オール電化などの普及が進み、家で使うエネルギーの割合は電気がガスを抜いた。

さらに2017年、ガスの小売りが全面自由化。旅行業や通信業など異業種が次々とガス事業に参入し、利用者は自由に選べるようになった。

東京ガス社長・笹山晋一(63)は「お客様が欲しいのは温かいお湯や室内環境なので、元のエネルギーが何でもお客様に価値を届けるってことが大事だと思っていて、必ずしもガスにこだわっていない。『総合的なエネルギー会社』になると思っています」と言う。

ガスだけじゃない!電力も~海外事業、生活サポートも手掛ける


〇東京ガスの総合エネルギー戦略1~電力でも躍進!

2015年、東京ガスは新たな一歩を踏み出した。家庭用電力の小売販売が全面自由化となり、他業種が次々と電力事業に参入。東京ガスも名乗りを上げたのだ。

神奈川県の東京ガス扇島LNG基地。東京ガスは他にはない強みを持っている。自社のLNG基地の隣に発電所を持っているのだ。今や日本の発電は火力が7 割を占め、そのうちの半分近くが天然ガスによるもの。東京ガスは豊富なLNGで安定的な発電が可能なのだ。

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さらに880万件という顧客基盤も強みとして今や電力の契約数は420万件以上(2025年9月末時点)。販売量では新規参入企業でトップシェアだ。

笹山が電力事業をさらに加速するため手を組んだのがイギリスのエネルギー会社「オクトパスエナジー」だ。2015年設立のベンチャーだが、イギリスでは契約件数シェアトップ。強みは独自のデジタル技術を使った顧客管理システムだ。

通常の電力会社では、契約や請求書の手続きは、客がそれぞれの部署に問い合わせなければならない。しかし「オクトパスエナジー」では情報のデータを1カ所に集約。基本的に1人のオペレーターで契約者の要望に対応できるという。それによってコストを削減し、割安な価格を実現している。

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「オクトパスエナジー」に目をつけた笹山は、2021年、合弁会社「TGオクトパスエナジー」を設立。全国展開を進めている。

利用者に話を聞くと「前の電力会社の夏の時期よりも3カ月で9000円も安くなった」と言う。一般的に電気代は基本料金と実際に使用した電力量からなる。使用量や時間帯、季節によって料金単価の変動があるのだが、オクトパスエナジーの料金プラン「シンプルオクトパス」では料金単価は一定で基本料金もかからないという。

サービス開始からわずか4年で契約数50万件を突破した。

「笹山社長は先見の明がある人です。オクトパスエナジーがまだ小さかった頃、ロンドンまで来てくれて、勇気を持ってパートナーになってくれました」(「オクトパスエナジー」グレッグ・ジャクソンCEO)

〇東京ガスの総合エネルギー戦略2~海外でも躍進!

フィリピンのマニラ。中心部から車で2時間ほど走ったところに、東京ガスが今、力を入れているエネルギー施設がある。FSRUと呼ばれる浮体式洋上LNG基地だ。

東京ガスでは初めて海外のLNG受け入れ基地事業に参画。2018年、現地のエネルギー会社と共同開発契約を締結し、この基地の開発・運営を行なっている。

海外から輸入したLNGをこの洋上基地で気体に戻し、陸上の発電所に送る。海上に基地をつくったのは「初期投資額が低く抑えられて、短い期間でタイムリーにサービスが提供できる」(マニラ事務所所長・吉原賢)からだという。

フィリピンをはじめ成長著しい東南アジアだが、この浮体式の基地なら低コストかつ短期間でLNGの導入が可能になるという。

東京ガスは海外のエネルギー供給に貢献しながら事業拡大を図っている。

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〇東京ガスの総合エネルギー戦略3~地域密着のお役立ちサービスも!

東京ガスは2021年、ハウスクリーニング事業にも進出した。ハウスクリーニング事業の売り上げは14.2億円(2024年度)で3年連続で200%アップ。2025年のオリコン顧客満足度調査で関東エリア1位に選ばれた。

その他、空き家の管理サービスの事業などにも力を入れている。

「安定的にガスを届けるために地域密着のサービス体制を築いてきましたが、これを活用して、お客様の生活課題を解決する会社になっていく」(笹山)

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渋沢栄一が創立し初代会長に~日本のガスの歴史は文明開化から


日本にガスが登場したのは文明開化が始まった明治の初期。1872年、横浜・馬車道に日本初のガス灯がともった。2年後には東京・銀座に85基のガス灯が点灯した。

当時は専門の職員が街にある一つ一つに火をつけていたという。「花ガス」と呼ばれた花の形をしたガス灯もあった。火をつけると炎が花の形に広がった。明かりだけでなく、イルミネーションとしても明治の人々を楽しませた。

「明治時代の人からすると、この明かりはかなり明るく感じられたと思います。それまでは油で灯籠とかで照らしていましたから」(笹山)

ガス灯の普及に尽力したのが渋沢栄一だった。渋沢はガス事業の実現に向けて動き、1885年、「東京瓦斯会社」を創立。その後、東京のガス灯は最盛期5800基まで増え、室内の照明にも使われ始めていった。

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しかし、1887年に東京で本格的に電灯事業が始まると、安全な照明として一気に普及していく。そこで渋沢はガスの新たな可能性を模索する。

例えば1902年、まきの代わりにガスを使う日本初の「瓦斯かまど」を発売。暖房用には「瓦斯火鉢」、風呂用に「瓦斯風呂」の開発を進めていった。

昭和に入るとガス器具はさらに進化する。「食パン焼き器」は4つの面で一度に4枚のパンが焼けるアイデア調理器。ゆで卵専用「卵ゆで器」などもあった。

こうしてガスは暮らしに欠かせないエネルギーとなり、急速に普及していく。

1960年代になると東京ガスは新たな局面を迎える。当時、高度経済成長期の日本では大気汚染が深刻化。公害が社会問題となり、エネルギー源の見直しが迫られていた。

そこで東京ガスが目をつけたのがLNGだ。それまでの石炭や石油からつくるガスに比べて不純物が少なく、安定的な調達も期待できた。

輸入に向けて動き出すが輸送のための液化や受け入れ基地をつくるには、莫大な費用が必要だった。そこで「東京電力」に手を組もうと持ち掛ける。

「『LNGを導入しませんか』とお声がけして、一緒に導入したことで受け入れ量が大きくなって、経済性も成り立ちやすくなった。(東京電力とは)もちろん競争している面もありますけど、同じ首都圏のインフラを守る企業同士ですから」(笹山)

こうして1969年、東京ガスと東京電力は共同でアラスカから日本初のLNGを導入した。

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LNGはそれまでのガスより高カロリーなため、この時、東京ガスは当時の顧客550万件を一軒一軒回り、ガス器具の調整を実施。のべ780万人の社員を動員したという。

電力の小売り全面自由化の動き~電力事業に進出しリーダーに


1986年、笹山は東京大学工学部を卒業後、東京ガスに入社。データ分析を行う情報システム部に配属され、デジタルが進んでいない当時から頭角を現した。

笹山の転機となったのが2010年代中盤。社運をかける重大な任務を命じられる。

電力の小売り全面自由化の動きに合わせ、東京ガスも家庭用や業務用の電力販売に乗り出す。そのプロジェクトリーダーに任命されたのだ。

「ある日突然、当時の副社長に呼ばれて『お前、やれ』と。準備期間は2年間。その間にメンバーをそろえて、どういう仕組みで売っていくか、料金体系も作らなくてはいけない。プロモーション活動やCMも作らなくてはいけない。『大変だな』と思いながらやっていました」(笹山)

当時、笹山の部下として電力事業の立ち上げに携わった「TGオクトパスエナジー」社長・中村肇は、「電気の経験者が東京ガスにいない。全員初めての経験で、そんなところで責任者をやっていたので、『大丈夫か?』と聞くと、部下は全員、首をかしげながら『やってみるしかない』と。そこが一番きつかったと思います」と振り返る。

ガスの販売で顧客の窓口となっていたのは地域密着型の代理店。そこに電力の営業も依頼することにした。

しかし、「『ガスだけで十分、なんで電気なんかやらなきゃいけないんだ』と言う人もいました。夜、お酒を飲みながら、相手よりもお銚子を1本余分に飲んで、『頼みます』とやったこともあります」(笹山)。

笹山は代理店の仕事を理解しようと、自ら顧客の家庭を回り、検針や点検、修理などを、身をもって体験した。

こうした努力が功を奏し、東京ガスの電力へ乗り換える家庭も増加。今やその数420万件以上、新規参入した電力会社でトップシェアに成長した。

その実績が買われ、笹山は2023年、東京ガスのトップに就任した。

「論語」と「算盤(そろばん)」の精神を受け継ぎ、カーボンニュートラルを目指す


東京ガスの創立者・渋沢栄一の理念は笹山にも受け継がれている。

「渋沢栄一は『論語と算盤』を唱えました。論語は『公益性の追求、社会課題の解決』。算盤というのは『事業として経済性を成り立たせて成功させる』。両方が成立しないと事業はうまくいかない。今は地球環境問題、CO2削減や脱炭素が課題になっています」(笹山)

2024年の世界の平均気温は工業化する以前より1.6度も高くなっているという(EUコペルニクス気候変動サービス 欧州中期予報センターより)。その要因となっているのが二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス。東京ガスは二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指している。

その取り組みの一つが研究を進めているe-メタンだ。e-メタンとは再生可能エネルギーなどでつくった水素とCO2を原料としてつくるメタン。「都市ガスに入っているLNGに代わる新たなエネルギー」だという。

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横浜市の東京ガス横浜テクノステーションでは、ゴミ焼却場で発生した二酸化炭素がタンクに運ばれ、水素は水道水を電気分解して生成している。

二酸化炭素と水素を専用の設備で合成すると、都市ガスと遜色ない高濃度のe-メタンになるという。これを都市ガスとして使うとCO2は排出されるが、回収して再利用すれば実質的にCO2は増えないというわけだ。

「CO2をリサイクルすることになるので、大気中のCO2を増やさないで、都市ガスと同じ成分でエネルギーをお届けできます」(笹山)

東京ガスは他にも風力発電や太陽光発電など、ガスに限らずエネルギー全般と向き合っている。

~村上龍の編集後記~
東大工学部出身、戦後初めての理系社長だった。ガスの供給が自由化され、かなりの会社があるらしい。1社1社が、近隣の住民と親しい付き合いをしていて、それなりの存在価値があるみたいなことを聞いた。だが、大手エネルギー会社は将来的に減っていくらしい。データ分析関連のIT事業に長く携わった。そのせいかどうか、話すことのロジックがちゃんとしていて、とてもわかりやすかった。メタネーションについて、また浮体式洋上風力発電について、わたしの知識で理解できた。約1万6000人を率いる人だと思った。

<出演者略歴>
笹山晋一(ささやま・しんいち)1962年、岡山県生まれ。1986年、東京大学工学部卒業後、東京ガス入社。2016年、執行役員総合企画部長就任。2022年、副社長兼最高戦略責任者就任。2023年、代表執行役社長就任。

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