ドラマ
BSテレ東
迫力あるコワモテ男から、人情味溢れる不器用な男、さらには女装姿のゲイなどどんな役でも演じ、また数年前の某腹筋マシーンCMではコミカルな一面が話題を呼んだ、多彩な顔を持つ俳優・宇梶剛士さん。高校球児、巨大暴走族の総長、少年院、錦野旦さんの付き人、菅原文太さんの弟子などを経験し、今の俳優の道へ。2007年に旗揚げした「劇団PATHOSPACK」では、年齢・キャリア様々な俳優陣を率いるリーダーでもあります。様々な人間関係を経験し、多くの人を束ねる宇梶さんならではの人との付き合い方をうかがいました。
人をまとめるには、どんなことがあっても先頭に立つ
――若かりし頃のお話や、現在のご自身の劇団で俳優の後輩たちを率いていらっしゃる姿から、宇梶さんは統率力に優れた方だと思います。宇梶さんが人をまとめる時に心がけていらっしゃることは何ですか?
「どんなことがあっても、先頭に立つということですね。下っ端に行かせて、自分は後方でふんぞり返っているのでは、やっぱり人に思いは伝わらない」
――これまでの人生で人との関係においての最大のピンチは? また、それをどのように乗り越えられましたか?
「ピンチというのは自分の心の在り様だと思うんですよ。そういう意味でピンチだったのは、お世話になった人や目指す人たちからもらった言葉を覆してしまいそうになった時ですね。
俳優の世界に入った頃、菅原文太さんに『どんなに相手が卑劣であっても、暴力をふるった方が悪になる』と言われました。美輪(明宏)さんや(渡辺)えりさんからも、大切なことを教わりました。演劇というのは、一番弱い者に語り掛けるもの。だから、声なき声に耳を澄ませることだと。
また、二十歳ぐらいの頃、美輪さんから「笑う練習をしなさい」と言われて、ずっと笑う練習をしました。身体もデカいし、しかめっ面では威圧感があるから(笑)。それまで、正直、幸せとは言えない人生を送ってきたので、人を信用できないし、世の中にも不信感があって、笑えなかった。美輪さんの言葉をきっかけに、ある程度笑えるようになりました。
ただ、腰を低くしていると侮ってくるヤツがいるんですよ。デカくて目立つから、そういう人に目を付けられやすいこともあって。昔、家出をしてから、ずっと飯を食わしてくれていた父親のような存在の、焼き鳥店のおじさんがいたんです。まだ役者を目指していた時代、その店で飲んでいたら、面倒な連中にしつこく絡まれて、思わず『うるせえ!』と酒をかけてしまって。すると、おじさんは『何が役者だ。ああいうヤツを笑わせる度量がなくて、役者なんかできるわけないだろう、馬鹿野郎!』と俺のことをすごく怒って。自分のしたことが悔しくて泣けてきて、そうしたらまた『泣くんじゃねえ!』と怒られて(笑)。それが最大のピンチだったかもしれないですね。
最初にも言った通り、ピンチとは、お世話になった人や目指す人たちからもらった言葉を覆してしまいそうになった時。だから、ピンチを乗り越える方法というのは、その言葉に恥じない自分であることですかね」
「ダメ」と否定せず、対話できる環境を作る
――人生の先輩、俳優の先輩方の教えを、しっかり胸に刻まれているんですね。今は先輩の立場になって、劇団で人を率いている宇梶さんですが、後輩の方々とはどのように関わっているのですか?
「子育てもそうですが、『ダメ』と否定しないようにしています。『なんでそういうことをするのか、言ってみな』と相手の言うことを聞いて、対話を続ける。
例えば『こういう時はどうする?』という対話から、気になる点があれば『お前はこう言ってたけど、その辺は考えた方がいいかもしれない。どうする?』とさらに対話すると、相手はまた考える。そうするうちに育まれてくるものがあります。
ウチの劇団では、劇団員全員が何かの担当についているんです。例えば、衣装担当は俺の書いた台本を基に衣装を集めてくる。時には使えないものを買ってきて、俺がNGを出すこともある。すると次はNGにならないように、安全ではあるけど面白味のない物を買ってくる。そうやって無難なところに逃げた時は、『せっかく田舎から出できたなら、怒られてもいいから面白いことやれよ!』と檄を飛ばす。そういう対話を繰り返しながら何年か経つと、俺がOKを出しても、向こうから『こっちの方がいいです』とか『もっと良いのがあります』と主張してくるようになる。
こうしたぶつかり合いの中で、良い関係ができていくんです。そういう環境を作ることが大事だと思いますね」
――それは、根気がいることでもありますね。
「俺も、先輩たちにそういうふうにしてもらってきたからだと思います。こっちは若い人を預かってるようなものだから、半端なことはできないですよ」
"決まり"に縛られず"考える"ことを楽しめ
――最近の社会では、若者はちょっと怒るとすぐ仕事を辞めてしまう、上司側もパワハラ、モラハラになるから何も注意できない、という話もよく聞きます。宇梶さん流の後輩との付き合い方は、本来の人との関係を築く上で最も重要なことですよね。
「今は、『お前、頑張ってるな』と声をかけるのもパワハラになるんだって。これじゃ何も言えないよね。セクハラになるから恋もできない。
パワハラやセクハラに対する"決まり"を決めることは大事。でも、人間というのは愚かで、決まりだけを作って、なぜ決めたかということを忘れてしまう。"弱者を守るため"の決まりなのに、決まりを作るのは弱者ではない側で、"何の弱者なのか"もわかろうとしない。片側からしか物事を見ずに決まりを決めて、その中でなんでもかんでも杓子定規に線を引いてしまうんですよね。
学校でも社会でも規則ばかりが増えて、若い子たちがどんどん息苦しくなっている。俺たちの頃は、悪いことしそうなヤツは見た目でわかったけど、今はそれが見えにくくなって、『まさかあの子がそんなことをするとは!?』という子が犯罪を犯したりするでしょ。大人たちがあまりにも多くの決まりを作ってしまったために、若い人たちは"考える"ことを楽しめてないんですよね」
――お話をうかがって、宇梶さん流の人付き合いの極意は、相手としっかり対話すること、そして自分自身で考えることだと感じました。その他にも心掛けていることはありますか?
「この見た目なので、にこやかに挨拶をすることですね。うちの子が小さい頃は、子どもの友達に怖がられないように『こにゃにゃちわ~』とか『アイーン』とかやってました(笑)。それを見て育ったからか、うちの子も誰にでも挨拶するから、よく果物とかお菓子とかお土産をもらってくるんですよ。みんなにかわいがってもらっているみたいで、ありがたいですね」
人との関係は、まずは挨拶から。人間関係に悩んでいる方、ぜひ宇梶さん流の人との付き合い方を実践してみてください!
"苦みばしった刑事"を演じるための秘密とは!?
宇梶さんが出演するのは、BSテレ東で放送中の土曜ドラマ9「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻」(毎週土曜夜9時放送)。行動心理学を駆使するヒロイン・絵麻(栗山千明)と対立しながらも、真犯人を突き止めたいという正義感あふれる刑事・筒井を熱演中。コワモテの渋い刑事を演じる上で、実はある秘密が!?。
――筒井刑事が、絵麻と対立しながらも、事件解決のためにはさりげなく協力するところにグッときます。そんな筒井刑事をどのように捉えて演じていますか?
「昭和の中期頃にいたかもしれない、熱意だけで犯人にぶつかっていくような、絵麻とは逆の存在になるのかな。大声を出してみたり、テーブルを叩いてみたり、時には取っ組み合いになったりしながら事件にぶつかっていく刑事を、いろいろ考えて演じています。"苦みばしった刑事"というイメージでやっているのですが、自分自身が苦みばしってないので、『苦みばしれ!苦みばしれ!』と自分に言い聞かせています(笑)」
※苦みばしれ!の表情をしていただきました。
――犯人を捕まえて真相を突き止めたいという思いは、絵麻と一緒のように見えます。
「そう、絵麻とは反対側から同じものを見ているような感じですね」
――このドラマは行動心理学がテーマですが、宇梶さんは生活の中で行動心理学を意識することはありますか?
「僕の場合は、『嘘をつく時に鼻がふくらむ』とよく言われます。あと、後輩にものを頼むときにだけ敬語になるとか(笑)。感情が表に出やすいみたいで、何を考えているか全部分かると言われます(笑)」
――物語も後半に突入しますが、これからの見どころをお願いします。
「筒井は、絵麻といつも火花を散らしてきた関係ですが、その火花の上には同じ正義のようなものがあったのではないか、と見えたらいいですね。これから最終回に向け、筒井と絵麻がどういう向き合い方をするのか、注目していただけたらありがたいです」
次回11月24日(土)放送の第7話「イヤよイヤよも隙のうち」、被疑者は元教え子を7年間監禁していたヘンタイ美術教師!? 交通事故に合った裸足で半裸の女性の身元を調べると、驚くことに7年前に中学2年で失踪した少女(三浦由衣)であることが判明。彼女を7年間自宅に監禁した容疑で逮捕された男は、少女の通う学校の美術教師・木谷徹(眞島秀和)だった。木谷は、親から虐待されていた少女を守るためにしたことであり、少女が自分の意志でいたと主張する。取り調べの過程で木谷の生い立ちや少女との関係に着目した絵麻(栗山千明)は、事件の背後にある驚愕の真実に至る...。
※11月17日(土)は放送休止となります。