脚本に行き詰った時は...!? 野木亜紀子×宮藤官九郎が明かす人気作の貴重な裏話:コタキ兄弟と四苦八苦

「"続く"が何回もあるドラマの方が自分にはいいのかも」


──宮藤さんもかつて「木更津キャッツアイ」(TBS系)などで実験的な試みをされていましたが(※注2)、野木さんのように途中で行き詰まりそうになったことはありますか?

※注2:1話を野球のゲームになぞらえて表と裏の二部に分けて構成。ストーリーを巻き戻して、その裏で何が起こっていたのかを見せた。

宮藤「ありました。『木更津キャッツアイ』はまだ平気だったんですけど、『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)とか(登場人物A、B 、C 、D、F、Fの)恋愛の矢印が連鎖して、途中からループして......って思いついたのはいいんですけど、だんだん窮屈になってきて」

野木「『マンハッタン』、はちゃめちゃに笑えて、DVD BOXを買うくらい好きでした」

宮藤「次の『タイガー&ドラゴン』(TBS系)では、最初に古典落語を見せて、落語と同じようなストーリーを作り、最後にサゲとオチをリンクさせる、という縛りを設けたことで、自分の書きたいことが入らなくなっちゃったんですよね。『キャッツアイ』の最初の稿とか、映画の台本くらい長かったんですよ。確か6話だったかな? 160シーンくらいあって」

野木「アハハハハ!」

──通常は1時間枠で60~80シーンくらいですよね?

宮藤「磯山(晶)さん(『木更津キャッツアイ』などのプロデューサー)も『宮藤くん、これスタッフに配れない』って(笑)。それで『じゃあ分かりました』って書き直すんですけど、『キャッツアイ』の時より『マンハッタン』、それよりも『タイガー&ドラゴン』、『うぬぼれ刑事』(TBS系)......と、どんどん台本が長くなっていって(笑)。今も短く、短く、って直すんですけど、だんだん自分が書きたいことが入らなくなってきたんです」

野木「それだけ書きたいことが増えていっている、とか?」

宮藤「違うんですよ。昔はできたんです。(シーンごと)バッサリ削ってたわけじゃないのに、ちゃんと書きたいことも残しながら、それなりに圧縮できていて。見た人が分かりやすいかどうかは別ですけど。

でも今は、きっと書きたいことを丁寧に、というか。分かりやすく、上手くやろうとしているというか。それで入らなくなっているような気がするんです」

野木「やりながら書くべきことが浮かんでしまうんですか?」

宮藤「いえ、この機会に書かなきゃってことは、最初からたくさんあって。その浮かんだものをなかなか捨てられないというか。でも1時間の尺に収めなきゃいけないから直して......今、連ドラを10~11話やるとしたら、書きたいことの半分も入らないんじゃないかな。

かと言って、毎回朝ドラとか大河をやるわけにもいかないし。そういう(放送が半年~1年間という)長いのをやっちゃった弊害もあるのかなと思うんですけど。だから今、テレビ朝日の昼の『やすらぎ(の刻~道)』枠が空いてないかな、と」

野木「昼帯(TBS系『愛の劇場』枠)はやられてましたよね? 斉藤由貴さん主演の『吾輩は主婦である』、あれも好きだったー」

宮藤「『吾輩』は1話30分で40話くらいしかなかったんですよ。『やすらぎ』枠は半年とか1年やれますから。朝ドラとか大河をやって思ったんですけど、"(次回へ)続く"っていうのが何回もあるドラマの方が自分にはいいのかなと思って。

夜中に若い脚本家とか監督が作った映画とかドラマを見ていると、すごい整理されてるなーって思うんですね、自分が若い時に作ってたものと比べて。『これを書きたい、言いたいから、これ以外は削って大丈夫です』みたいな潔さがあって。でも、僕はちょっと違うな、と思うんですよ。ある程度のムダが必要なんですよ。まあ、整理されたドラマを求められてはいないと思うんですけど(笑)」

──本筋とは関係なさそうなやりとりや何気ない会話が宮藤さんの脚本の魅力のひとつです。

宮藤「その点『コタキ』は40分という短い尺の中に、一見くだらない兄弟のやりとりもあれば、ちゃんとメッセージも込められていて。なおかつ、これはネタバレになりますが......後半では果敢にチャレンジもしていて、ものすごい展開になっていて。本当にすごいな、と感心しました。僕もがんばんなきゃな、って思います」

kotaki_20200130_05.jpg第3話「三、曠夫受苦」の依頼は、男子大学生からの恋愛相談

山下監督は「女優さんを、えぐるように撮る」


──古舘さんと山下監督にお話をお聞きした際(インタビューはこちら)、「野木さんはよく引き受けてくれた」「"しまった"と後悔したんじゃないかな」などと、おっしゃっていたのですが、多忙を極める中、この枠を引き受けられた理由は何でしょう?

野木「ずっとテレビ東京でやってみたかったんですよ」

宮藤「僕もやってみたいです! 『コタキ』に参加して、よりそう思いました。いろいろ(制約など)なさそうでいいなーって(笑)」

野木「そうなんですよ、私も好きにやれそうだなー、って(笑)。加えて主演が古舘さんと滝藤さんじゃないですか。"これはやるしかない"と、ホイっと引き受けてしまって。『監督は山下さんがいいな』と言っていたら本当にそうなってうれしかったです。山下さんは、全12話のすべての回の演出を引き受けたことを後悔してましたけど(笑)」

宮藤「僕はまだ映像を見れていないんですけど(取材は2019年12月末)、ご覧になりました?」

野木「半分くらいです。"(見てみて)おお、ここはこうしたか!"みたいな。書いてる側としてはうれしいですよね。創意工夫というか。時間も予算もそんなにない中、すごいな、山下さん、と改めて思いました。あと女優さんを本当にキレイに撮る方だなと。女優さんへの愛を感じました。男性にはそんなに感じなかったですけど(笑)」

宮藤「(笑)、あー、現場でもそう思いました」

野木「女優さんを、えぐるように撮ると言いますか。存在そのものが引き立つような。"そこ、ずっとその女優さんのカットで行くんだ"とか。次の作品を書かなきゃいけないのに、何度も見ちゃったりして」

宮藤「役者目線として、ちゃんと抑えてくれる監督だと前から思っていたんですけど、今回よりそう思いましたね。やりすぎると、『そこまでやらなくていいです』と。見る人にどう見えているのかを逐一言ってくれるので、信頼できるというか。だからこそスケジュールとか厳しい中でも、みんなやれるというか。その代わり役の説明とか全然ないんですけど。現場でも『(宮藤演じる)ムラタは不思議!』とだけ言ってました(笑)」

野木「アハハハハ!」

宮藤「"不思議"っていうのは実は一番難しいんです(笑)。そっかー、不思議かあ......って珍しく考え込んだりして」

野木「宮藤さんご自身がそんな雰囲気があるから、そのままでよかったんじゃないですか? そんなにシャキッとしたイメージがないから(笑)」

宮藤「確かにそうなんですけど(笑)、本人には分からないじゃないですか? 不思議かどうか。自分としては普通だと思ってるから。あ、でも1回寝不足で現場に行ったら何も言われなかったんで、"(正解は)これかー"と、思ったことはあります(笑)」

野木「私が山下監督のことを好きな理由でもあるんですけど、宮藤さんもおっしゃったように抑制的ですよね。ナルシスティックじゃないというか。客観性があるので、安心してお任せできる」

──コメディにも振りすぎず、かと言ってロマンチックにもなり過ぎず。

宮藤「そうそう。難しいと思うんですけど、そこのバランスが上手いんです」

野木「本当に山下監督にお願いしてよかったな、と思います」

「コタキ兄弟」を機に、ドラマ界に多大な影響を与えてきた脚本家2人が、さらに刺激し合うことに。次回の「後編」では、脚本執筆に四苦八苦しながらもよいものを作ろうと奮闘するおふたりの仕事ぶりや、脚本家としての今後をお届け。どうぞお楽しみに!

(取材・文/橋本達典)

【プロフィール】
野木亜紀子(のぎ・あきこ)
1974年生まれ。東京都出身。日本映画学校8期。卒業後、ドキュメンタリー番組の制作に携わる。一般企業勤務を経て、2010年「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」を受賞後、脚本家デビュー。主な作品に映画『図書館戦争』シリーズ(2013年、2015年)、ドラマ『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)などがある。2020年に映画『罪の声』が、2021年にはアニメーション映画『犬王』が公開予定。著書『獣になれない私たちシナリオブック』が発売中。

宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。2000年、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)の脚本で注目される。映画『GO』(2001年)、『謝罪の王様』(2013年)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年/監督兼任)、ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『監獄のお姫さま』(TBS系)、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など代表作多数。


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1月31日(金)放送、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」第4話は?

「四、死苦」
無職の兄弟、一路(古舘寛治)と二路(滝藤賢一)にまたもや「レンタルおやじ」の依頼が! 今回の依頼は少し長期になるからと、依頼人・島須弥子(樋口可南子)との面談から始まったのだが、須弥子は「あと3か月したら世界が終わる」と言い出す。兄弟にあれこれ買い物を頼むなどまるで奴隷のように扱う須弥子に一路は不信感を抱くが、二路は「その分大金を稼げる」と大喜び。謎が多い須弥子の本当の依頼とは......?

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