生気を振り絞って求め合う2人「こんなに深く心からつながれたのは、人生で初めてかもしれない」北と彩女はフェリーの客室で抱き合うが...:雪女と蟹を食う

ベッドで腕枕されている彩女は、北の胸にそっと手を置く。

「私、今あなたの心臓にも、この手で直接触れている気がする…。こんなに他人と深く心からつながれたと思うのは、人生で初めてかもしれない」

恥ずかしそうに微笑み、「好きよ」と言う彩女。北はドキッとし、あわてて体を起こす。

「お腹空いてますよね? なんか買ってきます!」

逃げるように客室を出ていった。

くすりと笑いながらベッドから出る彩女の足に、床に落ちていた「蝉時雨」が触れる。
本を拾い上げ、表紙に書いてある“雪枝一騎”という名を手で撫でる彩女。そして、学生時代の記憶へと想いを馳せる。

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彩女と一騎は、高等女学院の教師と生徒の関係だった。
ある夏の日の文学の授業で、一騎は彩女(坂口風詩)を指し、作品中の表現が何を意味しているのか答えるよう促した。学生時代の彩女はとても無口だったが、スラスラと答え、驚くクラスメイトたち。彩女は頬を赤く染め、黒板を消している一騎の後ろ姿をぼーっと見つめる。

放課後、誰もいない教室。彩女は一人、原稿用紙に小説を書いていた。すると話し声が聞こえ、窓の外を見ると、生徒たちに囲まれた一騎が楽しそうに通り過ぎて行く。彩女の顔は引きつり、原稿用紙をぐしゃっと握るのだった。

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彩女は「蝉時雨」を手に持ち、冷ややかな表情で立ち尽くす。

北はジャージャー麺といかめしを買って戻ってきた。彩女はおいしそうにジャージャー麺を頬張り、「この辛味は、豆板醤ですかね?」と聞く。

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「彩女さんって、普段、料理とかされるんですか?」

「はい。結構自分で作ったりしますよ」

「今度作ってくださいよ、彩女さんの手料理」

何気ない北の言葉に、シーンとする彩女。気まずくなり、「ごめんなさい、余計なことを言いました」と謝る北。

「いえ…」

(時々忘れてしまう。俺たちは狂った歯車同士で、これは決して戻ることのない旅だってことを…)

「1つ聞いていいですか? どうして私だったんですか?」

「え?」

北の頭に、彩女と図書館でぶつかった時のことがフラッシュバックする。

「あの時は蝉がうるさくて、むせ返るほど暑くて…。彩女さんの感触が手に残ってて、イライラした」

「私のことが憎かった?」

「彩女さんが金持ちで何の不自由もなく暮らしてると思ってたから…うん、むかついた」

「……」

「彩女さんこそ、どうして俺だったの? 強盗犯なんかより、別の誰かの方がマシだったんじゃない?」

彩女は悲し気な表情を浮かべ、北をじっと見つめる。彩女が北に惹かれた理由とは…。



【第5話】

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死ぬ前に蟹を食べるため北海道へ向かう北(重岡大毅)と彩女(入山法子)。遂に二人は北海道へと到着する。フェリーで函館港に降り立った2人は、函館の朝市を巡ることに。その風景になんとなく既視感を覚えた北。そこはかつてテレビ番組で見た朝市だった。更に、彩女もその市場にはある思い入れがあり…。2人は人生最期の地を稚内と決め、さらに北へと向かうが、ホテルでのある会話をきっかけに想いがすれ違ってしまい…。

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