朝市のリポートで女性アナウンサーの後ろに映り込んでいたのは、夫と愛人らしき女性の姿。彩女の顔は冷たい表情に変わり...:雪女と蟹を食う

「まだ北海道に着いたばかりですし、蟹は最後の晩餐にとっておきましょう」

「賛成です。じゃあ、どこで食べるか場所だけでも決めます?」

ガイドブックを開き、北海道全土の地図を見る北。

「どうせなら、行けるとこまで行っちゃいましょう。たとえば、稚内」

「稚内…」

「なんかいいじゃないですか、日本の最北端。どん詰まり。人生の最期って感じ」

「…いいですね」

車で北海道の道を走りぬける。行く手には、広々とした美しい自然の景色が広がっている。途中で土産物店に立ち寄ると、彩女は熊柄のキャップを選んで北にかぶせ、うれしそうに微笑む。北も照れ笑いしつつ、それを買うことにした。

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夜になり、車を停めた2人は、草むらにブランケットを敷いて寝転がる。こぼれ落ちそうな星空を見上げながら、「きれいですね」とつぶやく彩女。

「北さんは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読んだことありますか?」

「うん、子どもの頃に。ジョバンニっていう少年が、カンパネルラっていう親友と銀河鉄道に乗って旅をするみたいな、幻想的なお話ですよね。好きなんですか?」

「いいえ。宮沢賢治は自己犠牲が強すぎて…。ただ、この空を見ていたら、なぜだかふと思い出してしまって」

「なるほど…。そういえば、あの話のラストってどうなるんだっけな」

「覚えてないんですか?」

「読んだはずなんですけどね」

「もしかしたら、思い出したくないのかもしれませんね」

「え?」

寝返りを打ち、見つめ合う。

「野宿って憧れだったんですけど、ちょっと怖いです」

「いや…全然、悪くないと思う」

彩女は手を差し出し、北がそれを握る。



朝。再び車を走らせ、北上する2人。やがて札幌に着き、時計台の下で車を停めるが、一騎のことを思い出した彩女の顔からは笑顔が消えている。北が「彩女さん?」と呼びかけると、我に返って微笑む彩女。

ホテルにチェックインすると、北はシャワーを浴びる。

(どうしたんだろう、彩女さん。北海道に着いてから、少し元気がない気がする…)

タオルで髪を拭きながらバスルームから出ると、窓際に座った彩女が鍵付きのノートに何か書き込んでいた。北はそれが気になるが、さりげない素振りで「彩女さんもどうぞ」とシャワーを促す。ノートを鞄にしまい、バスルームへ向かう彩女。

北はバスルームの扉が閉じて水音がするのを確認すると、急いで彩女の鞄からノートを取り出す。

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「鍵…」

適当に数字を合わせるが開かず、彩女の誕生日に合わせてみても、やはり開かない。
はっと思いつき、ズボンのポケットから一騎のベストセラー小説「蝉時雨」を取り出す。著者近影のプロフィール欄には「雪枝一騎/1965年7月3日生まれ」と書かれており、鍵の数字を「703」に合わせるとロックが解除された。緊張しつつ、ノートを開く北。

「…なんだこれ」


1ページ目には、「雪女と蟹を食う」とタイトルが書かれていた。ページをめくると、「8月5日 私の凡庸な日常は、一瞬にして終わりを告げた」という文章から始まり、北と出会ってからのことが詳細に綴られている。動揺しながら、次々とページをめくる北。

「なんなんだ、これはいったい…」

「ただの日記ですよ」

背後から声がして驚いて振り返ると、シャワーを終えた彩女が立っていた。

「ダメですね、人のものを勝手にのぞくなんて」

「すみません…」

北はすまなそうにノートを返す。

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「どうしてそんな、日記なんて…」

彩女は何も答えず、じっと北を見つめる。

「すみません、立ち入ったこと聞いて。ただ俺、彩女さんのこと知りたいです」

「やっぱり…あなたには死ぬ覚悟ができていないのね」

「そうじゃないです」

「これから死ぬ人間のことを知って、何の意味があるんですか?」

「意味なんて関係ないよ! ただ俺は…」

試すように北を見つめる彩女に、「どうしてわかってくれないの?」と焦る北。

「俺にそんな資格ないって分かってるよ。分かってるけど…」

「あなたと会った時、同じ景色を見ている人だと思いました。でもあなたはもう…違う景色を見ているのね」

「そうじゃないです!」

「私は…生きて行くのに、どこかひとつ欠けているの」

「え?」

「…ごめんなさい」

不思議な笑みを見せ、バスルームに入って扉を閉める彩女。納得いかない北は、イラついて煙草を吸おうとするが、ちょうど煙草が切れていることに気付く。

「くそっ!」

カードキーだけ持ち、ホテルを出て行く北。

「“欠けてる”ってなんだよ…意味わかんねぇよ」

俯きながら札幌の繁華街を歩いていると、彩女に「好きよ」と言われた時のことが蘇ってくる。

(本当に好きなら、お互いのこと知りたくなるもんじゃねぇのか?)

すると通行人と肩をぶつかり、我に返る。そしてあたりを見回すが、ここがどこなのか分からない。

「ここ…どこ?」

ホテルに帰れなくなってしまった北。すっかり日も暮れ、疲れ切って繁華街の階段に座り込む。

「全然わからねぇ…ホテル選び、彩女さんに任せてたから」

ため息をつきながら、唯一の持ち物であるカードキーを取り出すが、肝心のホテルの名前が書いていない。頭を抱えていると、「何かお困りですか?」と声をかけられる。警察官だ。手ぶらの北を、怪しげに見ている。

「観光客の方ですか?」

「ええ、まあ…」

「すみません、身分証とかお持ちですか?」

「あの、ホテルからちょっと散歩に出ただけなんで、今、ないです…」

「どこのホテルですか?」

「あのー、いや…」

目を泳がせ動揺する北に、警察官はため息をつき、「念のため、すぐそこの署までご同行いただけますか?」と言う。北の頭に、痴漢冤罪で警察官たちに押さえつけられた時のことが蘇る。

「嫌だ、嫌だ…」

「はい?」

突然、警察官を振り切って走り出す北。

「あ、おい!」

(警察だけはもう二度と…! あそこにだけは、戻りたくない!)

無我夢中で走って逃げる北。果たして、北の運命は? すれ違ってしまった2人はどうなるのか!



【第6話】

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ついに北海道までたどり着いた北(重岡大毅)と彩女(入山法子)だったが、札幌の地ではぐれてしまう。彩女は一人、教会で一騎(勝村政信)との過去を思い出す。その一方、彩女に会う手がかりを掴めない北は、札幌の街をさまよい自暴自棄になっていた。死ぬために蟹を食べようとするが、実行できず暑さと空腹により気を失ってしまう…。北が目を覚ますと、そこはマリア(久保田紗友)が働くすすきののニュークラブの控室で…。

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