「キャラクターには欠点を…」などなど「チェイサーゲーム」演出メモ |太田勇の5分で読めるテレビの裏側日記
こんにちは。
テレビ東京の太田です。
気がつけば10月です。
昨日まで「暑い暑い」と言っていたと思ったらもう秋です。
僕は7月は『チェイサーゲーム』、8月は『自転車屋さんの高橋くん』の撮影だったんで、仕事以外の記憶はほぼありません…。
チェイサーゲーム:https://www.tv-tokyo.co.jp/chasergame/
自転車屋さんの高橋くん:https://www.tv-tokyo.co.jp/takahashikun/
特に8月は3週間も岐阜県大垣市でロケをしていたので子育ても完全にお休みとなりました。
ワンオペ育児の奥さんに申し訳ない気持ちは持ちながら、夕方6:30から9:30までを自分の時間に使える幸せを噛み締めていました。
しかし3週間ぶりに帰宅するともうすぐ3歳の息子の語彙が増えていて、岐阜に行く前は「ごはんたべる」「おふろはいる」「ねる」と別々に言っていたのが、「ごはんたべて おふろはいって ママとねる」と言っていたので驚きました。
「ママとパパとねるだよ」とその日はずっと子どもに教えたのですが、頑なに「ママとねる」と直してくれませんでした。
奥さんも「3週間育児しないっていうのはこういうことだよ」と言って全然助け舟を出してくれませんでした。。。
しかしそんな子どもの口癖を直す間もなく、9月下旬から『何かおかしい2』と、先日リリースが出ました『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』の撮影が始まります。
何かおかしい2:https://www.tv-tokyo.co.jp/nanikaokashii2/
完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの: https://www.tv-tokyo.co.jp/charisma_ichiko/
今はすでに撮影を終えた2作品の仕上げをしながら『カリスマイチ子』の撮影準備をしています。
『カリスマイチ子』はMEGUMIさんプロデュースのドラマです。
MEGUMIさんは脚本打ちはもちろん、美術打ち、衣装打ち、宣伝打ちにロケハンと全てのドラマ準備の公式行事に参加しています。
今日も一緒でした。
朝、家族の朝ごはんを作って、洗濯をしてから来たそうです。
旦那さまは洗濯のボタンがどこにあるかもわからないような方だそうで、MEGUMIさんが家事を全てしているそうです。
「ロックだから仕方ないですよね」と言ってます。
MEGUMIさんはロケハンの間、一回抜けて、夕方またロケハンに再合流しました。
番組収録と取材があったそうです。
MEGUMIさんがあまりに裏方業務を普通にしているので「あ、そうかMEGUMIさんって出る側の人だったんだ」と気づかされました。
今の僕は4作品並行で動いていて、「大変だな」と思うこともありますが、MEGUMIさんを見ていたらそんな気持ちは吹っ飛びます。
こういう人が身近にいる環境というのはとても幸せなことですよね。
とはいえ、子どもに「パパとねる」と言ってもらえるように子どもと遊ぶ時間がほしいです。
そんな仕事と子育ての狭間で揺れる気持ちを抱きながら、今月も書いていきたいと思います。
●『チェイサーゲーム』の演出メモ
今日は今放送中の『チェイサーゲーム』を題材に、今後、映像業界で働きたいと思う人向けに、「演出」について書きたいと思います。
といっても「演出」というのはとても範囲の広い言葉なので、これは全てではありませんが、今回自分の作った演出メモの一部を書いてみます。
メモ① 「キャラごとにカラーを」
「チェイサーゲーム」は群像劇です。
主人公が出ずっぱりの物語ではありません。
なので、登場人物ごとにテーマカラーを決めました。
主人公の龍也は黄色、みちるはピンク、美園は赤色、魚川はパステルグリーン、上田は変な柄のアロハシャツ。
こうすることで、画面を見た瞬間に誰が映っているのかわかるようにしました。



ちなみに龍也のキーカラーの「黄色」は、明るい印象を与える一方、深層心理的には「危うさ」も含んでいるそうです。
なので龍也にピッタリだと思い、そうしました。
「キャラごとにキーカラーを」というアイデアがあると、メインビジュアルも自ずと決まってきます。

「クリエイティブ」という作業は、0から1を生み出すイメージが強く、インスピレーションが降りてくるのを待つだけの作業に見えますが、実際は違います。
こんな風に足し算でアイデアを考えていくことがほとんどだと思います。
もちろん世の中には稀にそういう超天才もいるんでしょうけどね。
『チェイサーゲーム』の第1話で社長が「クリエイターと呼ばれる人間の多くは凡人だ」と言い切るシーンがあるのですが、まさにアレです。
メモ② 「キャラごとにクセ」
テレビドラマは視覚のメディアです。
なので、目に見えるクセはその人物の特徴を表す良いツールです。
今回、各キャラにクセを作りました。
龍也は、何かあると髪をかきあげます。


嬉しい時、辛い時、テンパった時……いつでも。
ちょっとカッコ良く見えます。
これは龍也が、仕事が超デキるタイプではないからこうしました。
渡邊圭祐君は誰がどう見てもイケメンです。
仕事がデキるイケメンがカッコつけると「ふん」と思いますが、龍也は仕事はあまりできない残念なイケメンなので、嫌味に映らないのではと思い、単純にカッコよく見える仕草にしました。
次に魚川です。

魚川は仕事中に音楽を聴いてます。
これは「孤高の天才」という彼のパーソナルにも合ってますし、演出的にも遊べるポイントなのです。
ドラマを観てみるとわかるのですが、魚川の登場シーンで流れる音楽は、彼が聴いているイヤホンから漏れ聞こえてくる設定にしています。
他のシーンとは音楽の聞こえ方が違いますし、彼がイヤホンを外すと音楽は止まります。
ドラマにタッチがつきますし、「魚川はこういう音楽を聞く人間なんだ」と視聴者もキャラを理解できるのです。
ちなみにこの演出は『マネー・ショート』という映画を参考にしました。
次は美園です。
美園のキャラは「パーソナルディスタンスが近い子」です。

この距離で会話する人なんて中々いないですよね。。。笑
でもこれはドラマだから許されるウソの範疇だと思ってこうしました。
距離が近いから男性を、特に龍也を勘違いをさせてしまう。
この美園のキャラは話の本筋とは関係ありませんが、箸休め的な意味を込めてそうしました。
これは韓流ドラマ『ヴィンチェンツォ』を観て思いつきました。
『ヴィンチェンツォ』で、主人公がまずいイタリア料理を食べるシーンが毎回入ってるのですが、あのシーンって話自体は1ミリも進まないので、丸々カットできるんですよね。
ただ復讐がテーマのドラマなのでシリアスになりがちなところを、あのシーンが毎回入ることでホッとできるんですよね。
続いて上田。
上田はお菓子を食べます。

仕事中にスナック菓子を食べ続けている人って、あんまり仕事できなさそうですよね。
ただ上田に関しては、演じる浜野謙太さんが上田という役を最大限、引き伸ばしてくれました。
渡邊圭祐君も取材のインタビューで言っていましたが、浜野謙太さんは自分が映る全シーンで爪痕を残そうとするんです。
すでに俳優として売れている方で、なんなら本業ミュージシャンですからね。
なのに、何かしら入れてくるんです。
僕が一番笑ったのはこの朝礼のシーン。

リハーサルの時からカメラの動きをずっと確認していて、カメラから自分が映らなくなるギリギリのタイミングでお菓子を食べようとしていたんです。
この細かいアドリブ演技…すごいです。
キャリアの浅い若手の俳優さんが爪痕を残そうとアドリブを入れると、たいてい余計になってしまいカットされるんですが、浜野謙太さんは監督の演出プランに乗っかった上でアドリブを入れてくれるのです。勉強になりました。
たしかに俳優業に限らずなんでもそうですよね。
会社でもよく「自分で考えて仕事しろ」と言われますが、上司の命令に背いて仕事をすると怒られます。
一番評価されるのは、上司の決めた指針のもと、指示された以上の仕事をする人ですもんね。
メモ③ 「キャラクターに欠点を」
ドラマに登場するキャラクターには欠点が必要です。
欠点があるからドラマになります。
たとえば『チェイサーゲーム』の第3話では、トランスジェンダーの渡邊凛というキャラクターが出てきます。

龍也は彼がトランスジェンダーであることを周囲に隠そうとすることで、彼をかえって苦しめる結果になります。
そういった龍也のやや旧価値観に縛られた一面は2話で出てきます。
インターンの面接に来た美羽との会話です。
美羽「15歳までニューヨークで暮らしてました。一人称視点のアクション・シューティングゲームをよくしていました」
龍也「女の子なのに珍しいですね」
何気ない一言ですが、彼のジェンダー観の古さがよく現れていますよね。
面接後、渡邊凛をインターン生と採用した後の会話もそうです。
龍也「渡邊君でいいんですよね?」
穴井「どういう意味だ?」
龍也「トランスジェンダーの人と関わるのは初めてだから」
龍也は悪気なく本音をこぼしてしまいます。
そんな龍也だからこそ、渡邊凛がトランスジェンダーであることを隠すという選択肢を選びますし、3話で渡邊凛を擁護しようとする時の言葉選びもけっこう間違えてます。
そういった目線で見直すと、また違った楽しみ方もできると思います。
ParaviとU-Nextで過去作は観られるのでぜひ!
Paravi:https://www.paravi.jp/title/99939
U-Next:https://video.unext.jp/title/SID0072741
「キャラクターに欠点を」という視点で話すと、みちるにもたくさん伏線を張っています。
今週放送(10月6日)の第5話では、みちるが突然辞める、と言い出します。
その目線で見返すと、みちるはサボってばかりです。
1話で龍也が仕事をしている時も…

スマホをいじってますし…。
一緒に作業をすると約束した上田が来ないので大ピンチの龍也ですが…

みちるは龍也を見捨てて帰ります。
さらに、


龍也がデスクにいない時は、コスプレサイトを見ています。
短いシーンなので気づかない人がほとんどでしょうが、だからこそ重ねます。
これをセリフで「私、仕事のやる気ないんで」と言わせることもできるのですが、それはドラマとしては0点です。
脚本の教科書に「「好き」という気持ちをどう伝えるかが脚本家の腕の見せどころ」と書いてありますし、かの夏目漱石も「好き」という気持ちを「月がきれいですね」と表現したと言いますしね。
●共同脚本について
『チェイサーゲーム』の脚本のクレジットは、アサダアツシさんと太田勇(僕です)の2名です。「共同脚本って?」と疑問に思われた方もいると思うので、それについて書かせていただきます。
「共同脚本」の定義も色々なので、この作品に関してです。
アサダさんが初稿を書いたのは1〜4、8話の5話、僕が初稿を書いたのは5〜7話の3話です。
「初稿」を書いたのはどちらかの話をしたのは、初稿を書くのは大変だからです。
企画書もなんでもそうですよね。
0→1で作る作業が一番大変で、手直しする方が楽ですよね。
今回は、お互いが初稿を書いて、相手に筆を入れてもらう、という流れでした。
1話、2話は会社あるあるがたくさん入ってくるので、そこは僕は加筆させていただきました。
3話の渡邊凛がメインの回は、僕は読んでアサダさんに感想を伝えるだけでした。
アサダさんは映画『his』をはじめ、セクシャルマイノリティの方を主人公にしたお話をたくさん書いていらっしゃるので、僕は手を入れないほうがいいと思ったからです。
逆に5〜7話は会社での出来事がメインとなります。
なので僕が初稿を書きました。
こんな風にお互いが得意なジャンルの時にメインで書くというスタイルを取りました。
ちなみにどんな風に台本をブラッシュアップしていくか、少しだけ書かせていただきます。
まず8話分のメインプロットを作ります。
メインプロットが決まると、各話の調整に入ります。
たとえば3話はトランスジェンダーの渡邊凛が出てきて、龍也の価値観がやや古いため、渡邊凛は苦労します。
ということは、龍也の価値観が古いことをそれまでのどこかに入れておきたい、となり、1、2話の台本を読み返します。
そして2話の美羽の面接に目をつけ、「女の子なのに珍しいですね」と龍也に言わせることにします。
来週放送する5話は、みちるが辞める回です。
ということは、みちるが仕事に熱心でないシーンを事前に入れておかないと、唐突になってしまいます。
1〜4話を読み返し、それを入れられるシーンを探します。
そんな風にして台本を膨らませていきます。
共同脚本の場合は、一緒に組む相手と気が合わなかったら地獄だと思います。
アサダさんとは10年以上の付き合いで、お互いの好みを知っていたので問題なくいきました。
(と、少なくとも僕は思ってます)
今月も一部の人しか興味がなさそうなマニアックなことを書いてしまいましたので、最後にロケ弁の写真です。

「チェイサーゲーム」クランクイン弁当。
ノシがあるとテンション上がります。

ちなみにお弁当は3種類くらいあって選べます。
こんな3種類です。



別の日は「金兵衛」のお弁当。
豚と魚の2種類ですかね。


たまに「台湾まぜ麺」なんてオシャレなお弁当もあります。


これは、、、僕が30分ほど遅刻した日があったので、差入れをさせて頂きました。。。
来月もまたよろしくお願いします!